第23話 不快

「あの……もし嫌だったら、断ってもらって大丈夫ですよ?」


 え……!?

 そっか、黙ったままだと私が嫌がってるって思われて皇くんに変な誤解与えちゃう……!

 私はすぐにその皇くんの誘いに対して答えを出した。


「ううん、私も一緒に泊まりに行きたいと思ってたからちょうど良かったよ」

「そうだったんですか!?なら良かったです、詳しいことは家に帰ってから話しましょう」

「うん、そうしよっか」


 表面的には落ち着いてるように見せながらも、今私はこの場で飛び跳ねたいぐらいには気分が高まっていた。

 私から誘っても断られるかもっていう不安があったのに、まさか皇くんの方から誘ってくれるとか……!もう最高!

 放課後、今日は皇くんがバイトがあるということで別帰りになって、私は自分の部屋に入って知鶴と二人になった瞬間に知鶴に報告することにした。


「知鶴!私次の三連休皇くんとホテルにお泊まりしに行くことになったの!」

「ホテル……随分と思い切りましたね」

「思い切ってくれたのは皇くん!私から誘おうとしたタイミングで、皇くんの方から私のことを誘ってくれたの!」


 夢だって言われても良いことなのに、それが現実で起きてるんだからもう嬉しい以外の感情が何も無い。


「なるほど、ということは皇さんなりに色々と考えた結果、お嬢様との仲を深めたいと思ってくださったのかもしれませんね」

「そうなのかな〜!だとしたら知鶴にも感謝しないとね」

「いえ……ホテルというのは、どういったホテルですか?」

「シティホテルのスイートルーム取ろうと思ってるよ?それで、皇くんと一緒に夜景を楽しみながら色々お話ししたりして、みたいなこと考えてるの」

「お嬢様は知らないかもしれませんが、スイートルームは一般人、ましてや高校生が簡単に泊まれる場所ではありません、皇さんはおそらくスイートルームとは知らずにお嬢様のことをお誘いになっていると思いますので、皇さんの財政状況を考慮した方が良いと思われますが、そちらの方はもしや先日の?」

「そう」


 知鶴から的確な指摘をされた私は、机の引き出しから一枚のチケットを取り出した。


「前送られてきた白鳥と提携してるホテル会社の社長がくれたスイートルーム二泊三日のペアチケット、このチケットがあれば皇くんに重荷を背負わせることなく一緒にホテルに泊まりに行けるはずだよね」

「お嬢様のおっしゃる通り、それなら皇さんも特に気負うことも無いと思われるので、とても良い案ですね」

「だよね!?」


 自分だけで考えてると客観的な意見がもらえなくてもし間違っててもなかなか気付きにくいけど、知鶴が居てくれるおかげで考えの整合性が取れていつもありがたい。


「お嬢様はこの宿泊期間の間に、皇さんとお進みになられたいと思っているのですか?」

「どこまでって、それは……付き合えたら良いなって思うけど、変に焦って空振っても嫌だから、今回は仲を深めることだけを考えてる」

「そんなにのんびりしていては、皇さんがお嬢様のことを恋愛対象としてではなく友達として見るようになるかもしれませんが、それでもよろしいんですか?」

「よくないに決まってるでしょ!」

「でしたら、そんなにのんびりしている暇はありませんよ」

「わかってる……」


 わかってる、そんなの。

 高校一年生、皇くんと神木蓮の会話を聞いて皇くんのことが気になり始めて、ずっと見てる間に好きになって、でも二年間もの間何もできなくて────気づけばもう高校三年生。

 もしまた何もしなかったら、この二年みたいにあっという間に時間が過ぎていく……そんなことわかってる。


「お嬢様の不安はわかります、ですが……もし失敗したら、またいつものように私がたくさんお話を聞いて差し上げます、なので……その思いを、大切な人に伝えてみてください」

「……わかった、私頑張る、この三連休で、皇くんに私の二年間の積もり積もった思いをぶつける!」

「はい、応援しています」


◇皇side◇

 金曜日の放課後、今日は蓮が所属しているバスケ部と強豪校の戦いを観戦して蓮のことを応援しに行く日だ。


「じゃあ綾斗、俺練習試合の前に軽く体慣らしとかねーと行かねえから先行ってくるわ、試合は体育館のギャラリーから観れるからそこに行っててくれ」

「あぁ、わかった」

「よしっ!今日はいつもより気合い入れないとな〜!」


 蓮は一足先に教室から出て行くと、体育館に向かった。

 俺もそのあとを追おうとしたところで、白鳥さんから話しかけられた。


「待って、神木蓮の試合見に行くんだよね……?私も一緒に観に行っても良い?」

「……え?」


 白鳥さんも……蓮の試合を観に行く?


「良いですけど、蓮の応援をしたいんですか?」

「そうじゃなくて……できるだけ長い間、皇くんと一緒に居たいの」

「俺と……?あぁ、前迷子になって遅れたりして心配かけちゃいましたもんね、わかりました、一緒に行きましょう」

「そうじゃないのに……」

「何か言いましたか?」

「う、ううん!なんでも!早く行かないと試合始まっちゃうからだから、体育館行かないとね」

「はい、行きましょう」


 そのまま俺と白鳥さんは雑談を交えながら歩いて、体育館の上にある通路、ギャラリーに到着した。


「スポーツ観戦って全然したこと無いから不思議な感じ、皇くんは?」

「俺も全然、たまに蓮からスポーツの話を聞くぐらいです」


 俺たちがそんなことを話していると、下のバスケ部員たちが俺たち……というよりは、白鳥さんのことを見て騒ぎ始めた。


「え……あれって、もしかして白鳥さんじゃね!?」

「おいおい、そんなわけ────マジだ!え!?なんで白鳥さんがわざわざうちの練習試合を見に来てくれてるんだ!?」

「ん……?白鳥……?」


 この学校の生徒たちがおそらく全員が白鳥さんのことを知っているが、強豪校の人たちは白鳥さんのことを知らない様子で、蓮の所属しているバスケ部員たちが白鳥さんの居るギャラリーを見ているのに合わせて強豪校の人たちは一斉にギャラリーを見た。


「……」

「な、なんだあの子!?」

「可愛過ぎだろ!天使か?」

「おお!やる気出てきた!!」


 互いのバスケ部員たち全員が士気を高めた。


「……何あれ」


 それを見た白鳥さんは、そのバスケ部員たちに冷たい視線を送っていた。


「白鳥さんは不快かもしれませんけど、白鳥さんみたいな綺麗な人が居たらやる気を出しても仕方無いと思います」

「……今、私のこと綺麗って言った?」

「言いました……も、もし不快だったならすみません」

「え……不快!?綺麗って言われて不快になんてならないよ!」

「そうなんですか……?だってさっき、バスケ部の人たちに冷たい視線を送ってたので……」

「それはそうだけど、皇くんは別だから!皇くんが褒めてくれたら、私はとっても嬉しいの」


 そう言いながら、白鳥さんは俺の手を握った────その数秒後、俺はなんだか照れてしまって、握られた手を解き白鳥さんから視線を逸らした。


◇白鳥side◇

 皇くんから手を解かれて、もしかしたら私に触られるのが嫌だったのかなって不安に思ったけど────


「……」


 皇くんの耳が赤くなってる!

 っていうことは……皇くん、今照れてるの!?

 私のこと異性として意識してくれてるってこと!?

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