第21話 相談

「どうぞお座りください」

「はい」


 俺たちはその部屋にあった椅子にテーブルを挟んで対面になるように座ると、早速俺の方から話を始めることにした。


「その……昨日、俺と白鳥さんの二人で出かけたことは知ってますよね?」

「はい、知っています」

「それで、その……プラネタリウムにカップル割引券っていうのを使って入ったんです、もちろん俺と白鳥さんはカップルじゃ無いですけど」

「割引券を使うため、ということですね」

「はい……で、ここからが本題で────俺たち、手を繋いだんです」


 知鶴さんにこのことを言うということは、もしかしたらこのことが白鳥さんのご両親にも知れ渡ってしまうかもしれないという覚悟を持って、それでも相談をしたかったので俺はそのことを打ち明けた。

 だが、知鶴さんは落ち着いた反応で端的に一言で返してきた。


「そうなんですね」

「それだけなんですか……!?」


 仮にも自分が仕えている白鳥さんが関わってまだ一週間ぐらいしか経っていない男と手を繋いだとなれば、もう少しリアクションがあっても良さそうなものなのに、そうなんですね……だけ?


「それだけ、とは?」

「だって、あの白鳥さんと手を繋いだんですよ?同性の友達とかならまだしも異性の俺が」

「私はお嬢様や皇さんと同年齢ですよ?この歳にもなって手繋ぎぐらいで動揺したりしませんよ」


 手繋ぎぐらい……白鳥さんもそこまで気にした様子は無かったし、やっぱり異性とは言えど高校生にもなれば手繋ぎぐらいは普通なのか……?


「前に白鳥さんと白鳥さんのことを異性として惹かれるかどうかみたいな話をして、そんな話をした数日後に白鳥さんと手を繋いでしまったからか、色々と思うところがあって……」

「なるほど……つまり皇さんは、今お嬢様のことを恋愛対象として見始めているということですね?」

「そ、そんなわけないじゃないですか!俺が白鳥さんのことを恋愛対象として見るなんて……」

「何かお嬢様のことを恋愛対象として見たくない理由でも?」

「見たくないというか……」


 正確に表現するのであればという表現が正しい。

 何も持っていない俺が白鳥さんのことを恋愛対象として見るなんて、あってはいけないことだろう。

 白鳥さんは仕事の関係というのは冷たいことだと言っていたが、俺たちはこの仕事という関係が無ければそもそも出会ってすらいない関係。

 だからこそ、そこを履き違えてはいけない。


「見たらダメなんです、俺と白鳥さんとじゃ何もかもが違いすぎるし、それに、今は受験期……俺もそうですけど、もし白鳥さんが恋愛関連のせいで勉強に身が入らなくなって受験に失敗でもしたら白鳥家全体に関わる一大事になるじゃないですか」

「その心配なら必要ありません……お嬢様は、二年間の間恋を煩いながらそれでも学年一位を取り続けてきたお方ですから」

「二年……!?」


 そういえば前に屋上のベンチで一緒に弁当のご飯を食べてた時に、白鳥さんは好きな人が居るとか言ってたけど……二年もの間好きになっているとは、驚きを隠せない……ん?


「ちょっと待ってください!そんなに好きな人が居るなら、やっぱり昨日俺が白鳥さんと手を繋いだのってよく無かったんじゃ無いですか!?」


 まだ付き合っていないにしても、二年間も好きな人が居るのに他の異性と一時的にでもカップルになったというのは、今後何かしらの軋轢を生む種になりかねない。


「その心配も必要ありません、むしろ都合が良いぐらいだと思われますよ」

「都合が良い……?そんなわけ────」

「とりあえず、皇さんはお嬢様とお風呂に入ったことがあって、手を繋いだこともあって、毎日同じベッドで寝ているということの意味をもう少し考えたほうがよろしいと思います」


 知鶴さんは落ち着いた声音で、だが確かに強く言い放った。


「……それ、どういう────」

「そろそろ花の水入れをしないといけない時間なので、失礼致します」


 そう言うと、知鶴さんは俺に対して綺麗なお辞儀をしてからこの部屋から出て行ってしまった。

 ……白鳥さんと普通ならできないようなことをできている意味、か。

 俺は知鶴さんにこのモヤモヤをどうすれば解決できるのかを相談しようと思ったが、帰ってモヤモヤが増えてしまったような気がする……が、知鶴さんと話をしたことで、かなりこのモヤモヤの正体に近づけた気がする。

 俺はしばらくの間、今の話について深く考え込むことにした。


◇白鳥side◇

 ────皇くんが朝早くに起きて私もつられて起きちゃったから付いてきてみたら、こんなことを話し始めるとは思わなかった。

 知鶴が中で花の水入れをすると言って、廊下の方に出てきた。


「お嬢様……今のお話を聞かれていたんですか?」

「えぇ、全部ね……どうしてあんな強い言い方したの?皇くんが可哀想で部屋に入るかどうかずっと悩んでたんだけど!」

「でも入ってこなかったということは、お嬢様もそろそろ皇さんに自分の気持ちに気づいて欲しいと思っているからではありませんか?」

「それは……そうだけど」

「でしたら……今は、自分の考えと向き合っている皇さんのことを見届けて差し上げてください」


 そう言うと、知鶴は廊下を歩いて行った。


「……皇くん、大好きだよ」


 私はドア越しにそう伝えた。

 ……早く、直接皇くんに伝えてあげたいな。

 私は一人そう願いながら、静かに自分の部屋に戻った。

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