第20話 縮まる距離

「────でね!?その後でご飯食べた後も、私が手出したら皇くんが自然と手繋いできてくれたの……!すごくない!?」

「お嬢様にしては頑張りましたね」


 私は皇くんがお風呂に入っている間に、今日あったことを全て知鶴に話していた……今でもまだ皇くんと手を繋いでた感触が残ってる。

 皇くんの手、大きかったな……


「一応名目上は皇くんと一時的にカップル扱いになったのはプラネタリウムの時だけだったんだけど、実質プラネタリウムからお出かけが終わるまでの間は私たちカップルだったと思うよ〜!ていうか、カップルっていうならお出かけっていう言い方も合わないよね……デート?ねぇねぇ!今日のってデートって呼んでも良いよね!?」

「よろしいと思います」

「だよね!?」


 はぁ、じゃあ今日は皇くんと初デート記念なんだ……!

 幸せすぎる〜、明日も休みだし誘ってみよっかな……でもまだ恋人でも無いのに連日誘うのは引かれちゃうかな?

 今度はそのことを議題に知鶴と話を始めようとした時に、ドアが開いて皇くんが部屋に入ってきた。


「あ、皇くん、おかえり」

「ただいま、です……」


 ……皇くんの顔が赤い、家に帰ってくるまで普通だったのに。


「顔赤いけど何かあったの?」

「あぁ……色々考えてたら、のぼせるまでお風呂浸かっちゃってて……すみません、頭クラッとします」


 そう言いながら、皇くんは今にも倒れちゃいそうなほど頭をクラクラさせながら私の座ってるソファに歩こうとしてきたため、私はすぐに皇くんの体を支えた。


「無理しないで、とりあえずソファで横になろっか……知鶴、冷たい水と冷たいタオル持ってきて」

「かしこまりました」


 知鶴に皇くんのために冷たいものを用意させてる間に、私は皇くんのことをソファまで運んで、頭が痛くなるといけないから膝枕してあげた。

 すると、皇くんは薄らと目を開けて私と目を合わせた。


「しんどい?大丈夫?」

「大丈夫、です」


 そう言いながらも、皇くんはしんどそうな顔をしている。

 私は皇くんの頬に触れてみる。

 ……熱い。

 お風呂上がりだからっていうのもあると思うけど、本当にのぼせちゃってるみたい。


「すみません、迷惑かけて……」

「そんなこと気にしなくて良いから……こんなになるまで、何を考えてたの?」

「それは、その……」


 皇くんは自分の顔に左腕を被せて言った。


「プラネタリウムの時から、今日はずっと手を繋いでたことを思い出すと、なんだか本当にあんなことをしてよかったのかとか、白鳥さんの手がスベスベで柔らかかった────何でもないです、すみません……今本当頭回らなくて、変なこと言っちゃいそうになりました」

「ううん、大丈夫だよ、ゆっくり休んで」


 ……今私の手がスベスベしてて柔らかいって言った!

 嬉しい……!ていうか顔に腕被せたのってもしかしてその時のこと思い出して照れた顔してるからなのかな?

 もう!こんなの好きにならない方が無理!

 その後、知鶴が冷たい水と冷たいタオルを持ってくると、皇くんにはすぐに冷たい水を飲んでもらって、皇くんのおでこに冷たいタオルを置いた。

 ……それから数分すると、もうのぼせが治ったのか、皇くんはゆっくりと体を起こして、知鶴は私と皇くんを二人にするためかそっとこの部屋から出て行った。


「もう大丈夫そうです……迷惑かけてすみません」

「だから、気にしなくて良いよ」


 皇くんには言えないけど、私としては皇くんに膝枕ができて可愛い皇くんも見れて良かったから、迷惑どころか私としては嬉しいことだったし。

 ……もちろん理想なのは、皇くんがしんどく無い時でもそうできることだけど。


「白鳥さんは、今日手を繋いだことに対して思ったこととかあったりしますか……?」


 やっぱり今日手を繋いだことでまだ考えてることがあるのか、皇くんは私に直接そのことを聞いてきた。

 そんなこと言い出したら嬉しいっていう感情を言語化しないといけなくなっちゃうけど、それを直接皇くんに言うともしかしたら引かれちゃうかもしれないから、ここはオブラートに包まないと……


「うん、心地良かったよ」

「そうなんですか……!?不快感とか、手繋が無かったら良かったっていう後悔とかは……?」

「無いよ」


 なんならずっと皇くんと手繋いでたいって思ってる私が皇くんと手を繋いだことに対して不快感とか後悔とか感じるわけない。


「……白鳥さんからしたら、手を繋ぐことなんて別になんともないっていうことなんですか?そういうことなら、俺も深く考え無いことに────」

「違うよ!私は手を繋ぐことの重みはわかってるし、誰でも彼でも手を繋いだりしないから!」


 もし今皇くんが聞いてきてくれて無かったら皇くんの中で私は手を繋ぐことなんて軽いと思ってる軽薄な女だと思われてた……危なかった〜。


「だったら、どうして俺とは────すみません、忘れてください!」


 皇くんは逃げるようにベッドに飛び込んだ。

 もうずっと私と皇くんは一緒のベッドで寝てるから、逃げても同じなのに……でも、今日でかなり皇くんとの距離は縮まった。

 あとは……私が頑張るだけ。

 まだいつも寝る時間より早い時間だけど、今日は皇くんと初めてのデートで浮かれて体力使っちゃったから、早めに寝ても良いよね。

 私はそのベッドに入ると、いつものように皇くんのことを抱きしめながら眠ることにした……もう皇くんも、それを当たり前のように受け入れてくれている。

 色々考えることは多いけど、今はただただ皇くんを抱きしめているという現実に喜びを覚えながら眠ることにした。


◇皇side◇

 俺と白鳥さんの距離感が大きく縮まった日の次の日。

 朝早くに起きた俺は、顔を洗うために洗面所に向かって廊下を歩いていた最中に、知鶴さんと出会った。


「おはようございます、皇さん……お早い起床ですね」

「今日は、たまたま……知鶴さんの方こそ、早いんですね」

「毎朝五時には絶対に起床しているので」

「大変ですね……そういえば、昨日は迷惑かけてすみませんでした」

「お気になさらず」


 ……おそらく今日俺が早く起きてしまったのは、昨日から俺の頭の中にあるモヤモヤが原因だ。

 ……そうだ。


「あの……このあと顔洗い終わったら、少しの間だけ話聞いてもらっても良いですか?」

「話……?仕事に関することでしょうか?」

「仕事……白鳥さんのことを仕事のことというのであれば、仕事、なのかもしれないです」

「……なるほど、のお話ですね、わかりました、ではお嬢様の部屋の隣にある部屋でお話をお聞きしましょう」


 ……知鶴さんには、この話が仕事としてではなくプライベートな白鳥さんとの話だということを見抜かれているようだ。


「ありがとうございます」


 俺は顔を洗うと、知鶴さんと一緒に白鳥さんの部屋の隣にある部屋に入り、早速話を聞いてもらうこととなった。

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