第19話 カップル

 胸元上部から肩にかけて布が無い白色の服に短い黒のスカート……こんなことを思うのもなんだか申し訳ないけど、白鳥さんはボディラインがしっかりとしている上に胸部はしっかりと出ていて目のやり場に困ってしまう。


「どうかした?皇くん」

「なんでも無いです……それじゃあ行きま────」

「待って!……私の服装について、感想とか無い?」


 感想……!?


「……すごく、魅力的だと思います」

「っ……!」


 白鳥さんは嬉しそうな顔をすると「じゃあ、今度こそ行こっか」と言って、歩き始め、俺もその隣を歩いて、一緒にプラネタリウムのある場所まで向かった。

 そして、プラネタリウムのある場所の前。


「先に皇くんに割引チケット渡しとくね」

「あ、ありがとうございます」


 俺はその割引チケットを受け取ると、一応チケットの有効期限を確認しておいた……今年いっぱいは使えるみたいだから、期限の心配をする必要は無────


「……え?」


 俺は右上に書いてある文字を見て固まった。


『カップル割引券』


 カップル割引ってことは、恋人限定ってことか……!?


「し、白鳥さん!このチケット、カップル限定らしいですよ!?」

「うん、そうだよ?」

「そうだよって────」

「別にカップル割引券をカップルじゃない男女で使うなんて、よくある話だと思うよ?」

「それは、そうですけど……一瞬でも、俺が白鳥さんと恋人に扱われるなんて、申し訳無いです」


 白鳥さんとこうして二人で出かけている今でも、俺は常に自分に言い聞かせている────俺は本来なら白鳥さんと出かけたりすることができる器では無いと。

 ただひたすらにバイトと勉強をしてきて、それでも白鳥さんに比べれば俺なんてすごくもなんとも無い。

 白鳥さんは色々なプレッシャーもあるのにそれに負けずにずっと学年一位を取っていて、見た目も綺麗で性格も優しい。

 そんな白鳥さんと俺が、一時的とはいえ恋人なんて────


「……白鳥、さん?」


 俺が深く考え込んでいると、白鳥さんが突然俺のことを抱きしめた。

 それも、前俺のことが心配で勢いよく抱きしめてきた時とは違い、今回は────とても優しく。


「皇くんは、皇くんが思ってるよりずっと頑張ってて、すごいよ?だから、皇くんは自分のこと悪く言ったりしないで……皇くんは、私の恋人になったとしても、全く見劣りしないぐらいすごい人だから」

「……白鳥さんは、褒め上手ですね」

「褒めてないよ、事実しか言ってないからね……皇くんはもういっぱい頑張ったんだから、そろそろ自分に優しくしてあげる時が来たんだよ」

「自分に、優しく……?」

「うん、今からプラネタリウム行くみたいに、今後もいっぱい遊んで、楽しんで、それこそ恋愛なんかもしちゃったりして」


 遊んで、楽しんで、恋愛をする……そんな普通の高校生みたいなこと、今まで考えたこともなかった。


「良いんでしょうか、俺なんかが……」

「良いの!」


 白鳥さんは俺のことを抱きしめるのをやめると、改めて俺の前に立って笑顔を見せてきた。


「……ありがとうございます、今まで恋愛とか考えたことなかったですけど、今後はしっかりと考えていきたいと思います」

「……ちなみになんだけど」

「はい?」


 白鳥さんは体をモジモジさせながら聞いてきた。


「今、気になってる人とか居ないの?」

「今まで考えたことなかったので、とにかく今は居ないです」


 俺がそう答えると、白鳥さんは頬を膨らませながら言った。


「ふ〜ん?へ〜?そっか〜?居ないんだ〜?」


 白鳥さんは何か思うところがあるような含みを持たせた口調でそう言った。


「なんですか……?」

「別に〜?身近な女の子とかで誰か気になる人とか居ないの?」

「身近……」


 俺は女の子とプライベートで関わったりしないため、身近というと白鳥さんしか居ない……けど。

 白鳥さんに恋するなんて、分不相応にも程がある。


「やっぱり居ないです」

「……へ〜!!」


 白鳥さんは少し怒ったような様子になっている。


「ど、どうしたんですか……?」

「別に!!もうそろそろ中入ろっか!!」

「は、はい」


 何故か怒った様子の白鳥さんと一緒に、俺たちは中に入った。


「カップル割引券……こちらはカップルの方専用のものですが、お二人はカップルの方で間違いありませんか?」


 中に入るとすぐに受付があって、受付の人に本当にカップルなのかを確認された……そうだった、俺たちは一時的にカップルという扱いになるんだった!


「カップル……!は、はい……!」


 白鳥さんは少し声を上ずらせて言った。

 やっぱり緊張しているんだろうか。


「では、左側にあるカップル様ご専用のプラネタリウムルームをお使いください、そちらの部屋にある椅子はカップル様専用の椅子となっていて、一般の椅子に比べるとかなり特殊です」

「わ、わかりました……!」


 白鳥さんは相変わらず声を上ずらせて言うと、俺に「い、行こっか……!」と緊張した様子で言って歩き出し、俺たちは一緒にそのカップル専用というプラネタリウムの部屋に入った。

 部屋の中にはソファとベッドが混ざったような円形の椅子があって、他のカップルの人たちも何人か居るようだ。

 いや、俺たちはカップルじゃ無いけど……!

 そして二人で一緒に一つの椅子の前まで来た。

 椅子の上にはご丁寧に枕のようなものもあって、寝転がって上に映る星々を見てくださいということらしい。


「やっぱり、カップル専用ってこともあって、人全然居ないね」

「そうですね」

「……立ってても仕方ないし、寝転がらないとね」

「……はい」


 俺たちは靴を脱いだ後一緒に椅子の上に座ると、ゆっくり頭を枕の上に置くようにして寝転がった。


「……」

「……」


 思ったよりも白鳥さんとの距離が近い。

 肩は当然のように当たっているし、顔を横に向けて少しでも近づけたらキスもできてしまいそうな距離だ。


「……ねぇ、皇くん、今私たちって、カップルなんだよね?」


 白鳥さんはこの少しだけ光が当てられた薄暗い雰囲気と静かな雰囲気に合わせて小声でそう言った。

 俺もそれに合わせて小声で返す。


「……形式的には、そうですね」

「……何か、カップルらしいことした方が良いのかな」

「え……!?」


 カップル……らしいこと!?


「どうしてそんなことを……?」

「だって、もしかしたらスタッフさんとかに監視されてるかもしれないでしょ?それでもしカップルらしいことして無かったら疑われちゃうかも」

「それは……そうかもしれないですけど」

「……キスとか、どうかな」


 キス……!?

 俺は白鳥さんから出た強烈なワードに、一気に心臓を高鳴らせた。


「そういうのは好きな人とした方が良いと思いますよ」

「私は────……」


 白鳥さんは何かを言おうとしたが言うのをやめて、その代わりに物悲しそうな顔をしている。

 ……カップル、らしいこと。


「でも、手を繋ぐとかなら、しても良いかも……なんて」

「っ……!」

「す、すみません……!手を繋ぐのもかなり────」

「ううん!繋ぐ!……絶対繋ぐ!」

「……わかりました」


 俺たちは慣れない手つきで手を繋ぐと、互いに手の位置を調整し合って、いつの間にか恋人繋ぎと呼ばれる繋ぎ方になっていて、次第に部屋が暗くなると、天井や壁に星座が映し出され、とても綺麗な景色を白鳥さんと一緒に見ることができた。

 ────そして、プラネタリウムが終わった後も、何故か俺たちは互いに手を離さずにそのまま一緒に食べに行くと決めた洋食屋さんに向かった。

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