第17話 恋愛

「おう……教室入って綾斗の顔見ると毎朝何かあったような顔してるから見てて飽きねえな」


 蓮が俺の顔を見て面白そうにしている。


「うるさい」


 俺は遠慮なく端的に言い放った。

 今日の朝も白鳥さんと一緒に登校してきた俺だったが、寝起きの瞬間は本当に気まずかった……起きたら目の前には白鳥さんが居て、何故か抱きしめられていて。

 しかも俺が目を覚ました時にはすでに白鳥さんも起きていて、俺が困惑している様子を楽しそうに見ていた、純粋に恥ずかしいという気持ちでいっぱいだ。

 俺より早く起きれるなら何の為のお世話の仕事なのかわからなくなりそうだ、と思いながらも白鳥さんが楽しそうにしていたためそんなことを言うことはできなかった。


「そういや、綾斗って白鳥の家に住み始めたんだよな」

「あぁ、成り行きで」

「俺がどれだけ俺の家に住んでも良いって言ったのに住まなかった綾斗がどんな成り行きがあれば白鳥の家に住むことになるのか、聞かせてもらおうじゃねえか!」

「────そんなの説明する必要無いよ、皇くん」


 蓮の言葉を聞いていたらしい白鳥さんが、そのことを説明する必要は無いと会話に入ってきた。


「理由なんて単純なんだから」

「理由が、単純……?なんだよ」

「神木蓮の家に住むのは嫌だけど私の家には住みたいと思ってくれた、それ以外に理由とか無いでしょ」

「はぁ!?そ、そうなのか綾斗!?」

「そういうわけじゃない」


 この白鳥さんの言葉を肯定してしまうといくら相手が蓮とはいえ可哀想すぎるため、俺はその白鳥さんの言葉を否定しておいた。


「だよな……ま、今は気にしないことにしとくか〜」

「そうしといてくれ」

「……神木蓮、私が今望んでること昨日のこと踏まえたら簡単にわかるよね?」


 白鳥さんは蓮に向かって小さな声で何かを言うと、蓮が突然慌てた様子で言った。


「あ、あ〜、飲み物買い忘れたし飲み物でも買ってくるかな〜」

「そうか……?行ってらっしゃい」


 どこか気まずそうにしながら、蓮は教室を後にした。

 よって、俺の席には俺と白鳥さんだけが残された。


「皇くん!あの……次の休日、一緒に美味しいもの食べるって話だったけど、何が食べたいとかある?」

「辛くないのだったら大体何でも食べれるので、白鳥さんが食べたいもので良いですよ」

「私も皇くんが食べたいもの食べたいから、皇くんが食べたいの選んで良いよ」

「そ、そうですか……?……やっぱり、家に帰ってから一緒に決めませんか?白鳥さんと一緒に決めたものを食べたいです」

「っ……!うん、わかった!そうしようね!」


 朝、そう話しをし終えて────昼休み。

 今までは朝と放課後以外白鳥さんと話すことは無かったが、白鳥さんが昼休みに俺の席に来て言った。


「お昼ご飯、一緒に食べない?」

「……え?」


 クラスの人たちから視線を集めている。

 当然だ、朝話す時は何か朝にしかできない学校に関連する話だと解釈されることもあるだろうし、放課後はそもそもすぐに部活に向かう人や帰る人がほとんどで、とにかく人が少ないからあまり視線を集めることはない────が、昼休みは半分以上の人は教室に残っている、そんな中であの白鳥さんが異性である俺と一緒にご飯を食べるとなると、当然注目を集めてしまう。


「昨日は渡せなかったけど、皇くんのお弁当!住み込みしてたらお弁当作る時間って取るの難しいと思うから……それに、元々チラシにも書いてたと思うけど三食付きだからね」


 そう言いながら、白鳥さんは俺に弁当箱を一つ差し出してきた。


「良いんですか……?」

「うん」

「ありがとうございます」


 その弁当箱を受け取って、少しだけ何も言わないでいたが……いくら仕事の約束事で三食付きだからと言っても、弁当箱をもらうだけ貰って一緒に食べるのを断るというのは要するに「弁当箱は貰いますけど、白鳥さんと一緒に食べるのは嫌です」という最悪な人間像になってしまう。


「……わかりました、一緒に食べましょう」

「やった!」

「……でも、場所だけ変えませんか?」

「うん、皇くんと一緒ならどこでも良いよ」

「あ、ありがとうございます……?」


 思ったよりも話が大きくなっていたことに困惑したが、とにかく場所を変えてくれるということらしいので俺と白鳥さんは教室の外に出た。

 ────そして、着いた場所は屋上。

 意外にもこの学校の屋上は使っている生徒が少ない、その証拠に今は俺と白鳥さんしか屋上には居なかった。


「二人っきりって感じして良いよね」

「そうですか……?」

「うん、とっても」


 俺と白鳥さんは一緒にベンチに腰掛けると、それぞれ弁当箱の包みを解いてお箸を手に持ち「いただきます」を言ってご飯を食べ始めた。

 しばらく黙々とご飯を堪能していた俺たちだったが、白鳥さんが意外な話を切り出した。


「……皇くんって、今まで彼女とか居たことあるの?」

「無い、ですけど……白鳥さんがそういう話するの意外ですね、恋愛とかは興味無いと思ってました」

「え!?」


 ご飯を食べている時に限らず、基本的にどこまでも品性を感じられる白鳥さんだが、驚きを隠せなかったのか大声を上げた。


「どうして私恋愛には興味無いって思われてるの?」

「どうしてって……白鳥さんどんなにかっこいい人とか頭が良い人とかに告白されても断ってるって聞いたので」

「だって私と話したことも無いのに外見と成績と家柄だけで判断して告白してくるんだよ?そんなの受け入れられない」

「それは……そうですね、すみません、勝手な思い込みでした」


 となると……もしかして。


「白鳥さんも、恋愛に興味あったりするんですか?」

「うん……実はね、好きな人が居るの」

「え!?」


 ビッグニュースにも程がある、あの白鳥さんに好きな人!?


「相手がどんな人かとか、聞いても良いんですか……?」

「かっこよくて、優しくて……私の心理状態に合わせて行動してくれたり、肝心なところ恋愛では全然気づいてくれなかったりするけど、でも基本的には私の外側の面に囚われて私のこと判断しなかったり、ずっと一人で頑張ってて、でも可愛い一面もあったり……そんな人」

「そんなすごい人居るんですね」


 そんな人が居るなら白鳥さんが好きになってしまってもおかしくない。


「うん、でも本当!肝心なところでは気づいてくれないんだよね〜!!」

「気持ちはわかりますけど、俺に対して大声で言っても何も変わらないですって……」

「……皇くんも男の子だから、参考までに相談しても良い?」


 恋愛相談というやつだろうか、人生で受けたことは今まで一度も無いが、せっかく白鳥さんが頼ってくれているのなら力になりたい。


「はい、良いですよ」

「皇くんだったら、もし色々アプローチしても好意に気づいてくれない人が居たらどうする?」

「そうですね……その好きな人の友達に色々話を聞いてみると思います」

「話……?」

「その人が好きな食べ物とか好きな遊び場所、とにかく仲を深められそうなことです」

「……参考にするね」

「役に立てたならよかったです」


 俺たちはその後ご飯を食べ終えると教室に戻り────数時間後。

 放課後の時間になったため、生徒たちは次々に教室を出て行く。

 そんな中、白鳥さんは今日も話しかけに来てくれた。


「皇くん、今日もバイト?」

「……はい、でも今日は19時には帰れると思います」

「……ちゃんとスマホの充電ある?電源切っちゃダメだよ?」

「大丈夫です、もう心配かけませんから」

「うん……ありがと」


 俺が教室から出ようとすると、今度は蓮が話しかけてきた。


「毎日お疲れ様だな〜、バイト頑張れよ、綾斗」

「蓮も部活頑張れ、そういえば今度強いところと練習試合あるって言ってたな、その時はバイト空けて応援しに行く」

「マジでか!?綾斗が応援来てくれるならいつも以上に活躍しねえとな〜」

「その意気だ」


 俺はいつも通り元気な蓮を見届けてから、バイト先に向かった。


◇白鳥side◇

「さてと、俺も体育館に────」

「神木蓮、ちょっと話があるの」


 私は教室から出て行こうとする神木蓮に後ろから話しかけた。

 

「白鳥!?ま、またかよ!?」

「何?私だってわざわざ神木蓮と話なんて本当はしたく無いんだけど」

「……はぁ、わかった、なんだよ」


 私は一刻も早く神木蓮と居る時間を終わらせるためにも、早速本題に入った。


「────皇くんに恋愛対象として見られる方法を教えて」

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