第14話 交換条件
校門前で車から降りると、車は一度別の場所に駐輪することにして、私が連絡したら迎えに来てくれることになった。
私に挨拶してくる人たちに挨拶を返しながら、バスケ部の練習が行われている体育館に向かう。
体育館に着くと、今は試合の最中だったみたいで、私が来たタイミングで神木蓮がバスケットゴールにダンクを決めた。
……最悪のタイミング。
「きゃあ〜!」
「神木先輩かっこいい〜!」
女子部員マネージャーから、バスケ部とは何の関係も無い女の子までが、神木蓮のゴールを見て黄色い声援を飛ばしている。
あんなチャラついた男のどこが良いのか私にはさっぱりわからないけど、神木蓮が皇くんの魅力の隠れ蓑になってるからその点だけで言うならありがたい。
私は部活顧問の人に話しかけて、神木蓮に話があることを伝えた。
「神木!白鳥がお前に話があるそうだ!」
「え!?し、白鳥が俺にっすか!?」
神木蓮は汗だくで部活顧問と私のところに走ってきた。
周りから騒ついた声が聞こえてくる。
「え、もしかして白鳥先輩って……」
「でも、ありえるよね?美男美女だし……!」
「最近皇先輩と居るところ見かけるけど、もしかしてそれも神木先輩狙いだったりしたのかな?」
「え〜!皇先輩可哀想〜!でも、じゃあもしかして皇先輩ってフリーなのかな?」
「嘘……!実は私、皇先輩も結構────」
「あなたたち、不快な噂話をしないでもらえる?」
「し、白鳥先輩!」
私が?神木蓮のことを好きだからそれで皇くんを利用するために近づいた?皇くんが可哀想?フリー?
人生で聞いてきた噂話の中でもトップレベルで不快な噂話に全力で嫌悪感を示しながらその噂をしていた女の子たちの前まで来て言った。
「す、すみません!別に悪気は無かったんです!」
「今度から気を付けて……次言ったら、容赦しないから」
女の子たちは私に頭を下げた。
私の中では何も鬱憤は晴れてないけど、ひとまずは落ち着いたことにして神木蓮の居るところに向かった。
「白鳥、話っていうのは……?あと、目が怖い」
「……練習の邪魔になっても悪いし、別の場所で話そうよ」
「お、おう」
私と神木蓮は、一緒に誰も居ない階段の踊り場まで来た。
この階段は普段からほとんど誰にも使われないのに加えて、今は放課後でそもそも人が少ないから、誰かに話を聞かれる心配は無い。
「で、もう一回聞くけど、話って?」
「その前に神木蓮、皇くんとは本当に親友なの?」
「はぁ?当たり前だろ、俺ほど綾斗と仲良いやつなんて絶対居ないって断言できるぜ、俺は綾斗の一番の親友だからな!」
「そう……なら当然、男の子同士、皇くんと女の子のタイプとかの話はしたことある?」
「あ〜、あるにはあるけど、そっち方面はいつも俺ばっか話してて、綾斗は熱入ってないっつうか────って待て待て、失望の目を向けるな!」
だったらもう神木蓮と二人で話す意味なんて無い。
私は階段を降り────
「階段も下りようとするなって!普段は熱入ってないだけでちゃんと綾斗の好みは把握してる!」
その言葉を聞いて、私は足を止めた。
「何?簡潔に話して?やっぱりこの際完結じゃなくても良いから詳しく話して?」
「話しても良いけど、その前に聞かせてくれ……どうして綾斗の女の子のタイプが知りたいんだ?」
「私に交換条件を持ちかけるつもり?……でも良いよ、教えてあげる、それは────私が、皇くんのことを好きだから」
「……やっぱりか」
神木蓮は肩の荷が下りたように体から力を抜いた。
「気付いてたの?」
「そりゃ、同じクラスであんなに綾斗に情熱的な視線送ってることに気づいたら、誰だってその気持ちぐらいなんとなくわかる……で、綾斗の好きなタイプだったな」
「うん、早く話して」
「わかってるって……最近はそんな話してねえけど、確か一年前に言ってたのは────」
◇一年前◇
「綾斗ってさ、どんな女の子がタイプ?」
「いきなりだな……優しい人とか」
「なんだよその定番!もっと具体的に!そうだな、人の名前とか!」
「人の名前って言われても、俺女優さんとかそんなに知らないしな……」
「じゃあ学校の人とかでも良いって、誰か居ないのか?この学校結構可愛い子多いと思うんだよな〜」
「学校で……タイプっていうのかはわからないけど、俺のクラスに友達が居るのか定期的に俺の教室に覗きに来てる人が居るんだ、その人とか可愛いと思った、って言っても、きっとみんなが言ってるだろうから今更俺が言ったところで何も面白味無いと思うけど」
「ほう〜、あの綾斗が可愛いと思う人か……誰なんだ?」
「────白鳥さん」
◇現在◇
「────ってことで、少なくとも見た目でタイプなのは白鳥だ」
「……今の話って、私のために捏造したりしてない?」
「してねえよ、もし捏造なら白鳥がいつかこの話を綾斗にした時に綾斗がそんな話してないって言ったら俺が白鳥に何されるかわかんねえだろ?」
「うん、もしそうだった時は私自身も何するかわからない」
「怖えよ!……でも、ちゃんと本当のことだから安心しろ」
……皇くんはそのクラスに私の友達が居るからその教室を覗きに来てたって思ってたみたいだけど、それは違う。
私は────皇くんのことを見に行ってた。
他の人なら簡単に話しかけられるのに、皇くんに話しかけるのは人生で一番緊張しちゃって、結局一度も話しかけられ無かった……けど、そうなんだ。
皇くん、私のこと可愛いって思ってくれてたんだ。
皇くんは「俺が言ったところで面白味無い」って言ってたみたいだけど、それも違うよ?皇くんが言ってくれるから意味があるの。
……今も、私のこと可愛いって思ってくれてるのかな。
「ありがとう神木蓮、今の話には何億円もの価値があったわ」
「……なら良かったぜ、頑張れよ、白鳥」
私はその言葉を聞き届けて階段を下り、そのまま車を呼んで家に帰った。
その間、私はある言葉をずっと心の中で呟いていた。
皇くんのタイプは私、皇くんのタイプは私、皇くんのタイプは私、皇くんのタイプは私────皇くんのタイプは、私!!
家に帰ってからは、皇くんが帰ってくるのを楽しみにしながら私は知鶴にこのことを延々と話した。
────でも、約束の21時になっても、皇くんは私の家に帰って来なかった。
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