第13話 好きなタイプ

 一限目の終わりになると、蓮がいつものように話しかけてきたが、話の切り口がいつもとは違っていた。


「綾斗〜、話掘り返すみたいなことして悪いとは思うけどやっぱり綾斗の親友として気になるんだよな〜」

「……俺が白鳥さんとベッドで寝たって話か?」

「それだ!何でそんな話になってるんだ!?冷静に考えたら意味わからねえ!」


 蓮は頭を抱えながら言う。

 だがそれも普通の反応だ、一体何がどうなったら俺と白鳥さんが同じベッドで寝ることになるのか。

 もしあのチラシを見る前の俺がもう一人居たとしても、そんな話到底信じられることでは無いだろう。


「それは────」

「それは、皇くんが私の家に住み始めたからだよ」


 俺が白鳥さんとのことをオブラートに包んで表現するかどうか悩んでいると、白鳥さんも俺たちのところに来て笑顔でそう言った。

 それを聞いた蓮は驚きで表情がすごいことになっていた。


「はぁ!?あ、綾斗が白鳥の家に住み始め────」

「声デカいから、別に私としてはそれを広めてくれるのは好都合でもあるけど、皇くんはまだ照れちゃう時期だから皇くんのためにも広げないでもらえる?」


 ……好都合?照れちゃう時期?

 表現に色々と語弊があることは確かだが、とにかく広げないよう言ってくれているのはありがたい、が……なんというか、白鳥さんの雰囲気が怖い。


「広めねえよ!俺は白鳥と違って何年も綾斗の親友してるからな、そんな綾斗の生活邪魔するようなこと広めるわけねえって」

「私と違って……何年も?……何年もとか言ってるけどたかだか高校入ってからでまだ二年とちょっとだけでしょ?」

「綾斗の生活事情知ってたらそんなこと言えねえと思うけどな、放課後居残りも遊びにも参加しない綾斗と二年も親友で居るのは俺以外にはできない、断言できる!」

「知ってるけど?皇くんが大変な境遇に置かれててバイトで忙しくて放課後とかほとんど学校に残ってないの私が痛いほど知ってるけど?」

「知っててその発言────うわっ、だからその目だよ!その目やめろって!普通に命の危機感じるって!」


 ……俺以外の男子とここまで会話している白鳥さんのことを見るのは初めてだったが、客観的に見ているからなのかだいぶいつもとは違う白鳥さんがそこには居た。

 敵意があるというか、嫌悪感を示しているというか。

 そういえば蓮は前にも白鳥さんの目が怖いとか言っていたけど、どんな目をしているんだろうか。

 今もだけど怖い目をしているというときは蓮の方を見ていて一向に俺の方を向いてくれない。


「……はぁ、とにかく、私と皇くんは一緒に住んでるの、わかった?」

「なるほど……でも、一緒に住んでるからって一緒のベッドで寝るのは意味わからなくね?」


 当たり前の主張だ。

 もしベッドが一つしか無かったとしても、普通なら俺の方がフローリングで寝るとかイスで寝るとかしないといけない。


「高校生の男女が同じベッドで寝ることをそんなに理解できないの?」

「恋人同士とかならもちろん理解できるに決まってんだろ?でも、綾斗と白鳥が恋人同士とかまず無いだろ?」

「それは当たり前だ、俺と白鳥さんが恋人になるなんて絶対にあり得ない」


 俺がそう断言すると、白鳥さんが手をモジモジ動かしながら言った。


「そんなことも、無いんじゃない?」

「……え?」

「だから、私と皇くんが恋人になる可能性だってあるんじゃない?」

「白鳥さん、もし俺に同情してくれてるならそういうのは大丈夫ですから」

「同情とかじゃないよ!私、本当に────」

「そんなことより聞いてくれよ、俺今度部活の練習試合でめっちゃ強いところと────」

「神木蓮!!」


 白鳥さんと蓮はまた軽く言い合いになりそうになったが、そのタイミングでチャイムが鳴ってその言い合いは未然に防がれることとなり、その後の休み時間は蓮と話していたこともあって、白鳥さんと話すことは無く、そのまま放課後になった。


「俺バスケ行ってくるわ、今日も頑張ってな」

「あぁ、そっちも頑張れ」


 俺と蓮がいつものように別れの挨拶をすると、今度は白鳥さんも話しかけてきた。


「皇くん、一緒に帰らない?」


 帰る場所は同じ、一緒に帰った方が色々と効率が良い、が……


「すみません、今日は他のバイトが入ってるので、多分21時とかになったら白鳥さんの家に着くと思います」

「他のバイト、21時……そっか、頑張ってね」

「ありがとうございます」


 俺は白鳥さんに軽く頭を下げると、バイト先に向かった。


「……」


◇白鳥side◇

 自分の部屋に着いた私は、早速ベッドで寝転びながら知鶴に愚痴を聞いてもらっていた。


「────それでね?後ちょっとで良い空気になりそうだったのに、いつものことながら神木蓮が邪魔してきたの!もしかしたら私の気持ちも伝えられて恋人になれちゃうかもしれなかったんだよ!?許せない!!しかもいちいち自分の方が皇くんのことわかってるみたいなこと言ってきて!私の方が絶対わかってるから!!」


 私は足をバタバタさせて今の感情を表現した。

 知鶴とはもう生まれた時からずっと一緒だから、知鶴の前では基本的に感情を隠すことは一切しない。

 ……神木蓮さえ皇くんの近くに居なかったら、今頃もっと皇くんと距離縮めてて恋人になれてたかもしれないのに!


「それは災難でしたね」

「でしょ!?それで、皇くんは皇くんでバイトがあるからって私のこと置いて行っちゃうし」

「仕事に励むのは良いことです」

「わかってる……けどさ〜!だって皇くんの時給って確か千円とちょっとなんだよ?21時まで働いたとしても五千円……だったら私が五千円あげて皇くんと五時間過ごしたい〜!!」


 私はもう一度足をバタバタさせて、布団を皇くんだと思って強く抱きしめた。


「お嬢様、わがままが過ぎますよ……財政事情だけでなく、他の要因で仕事をやめられないこともあります」

「他の要因って?」

「たとえば、バイト先に仲の良い友人が居るとか」

「神木蓮以外にってこと?そんな話聞いた事無いけど」

「自ら公言していない限り、学校内で学校外でのことが広まることはそうそう無いと思います」


 確かに……でも、もしそうだとしたらかなり厄介。

 要はそれって、神木蓮みたいなのがもしかしたらあと一人二人居るかもしれないってことでしょ?

 ……笑えない。

 で、もっと笑えないのは、そのバイト先に皇くんのことを好きな女の子が居るパターン、そうなったらいよいよ仮で考えてた皇くんのことをこの家から出られなくする計画も視野に入れないといけなくなっちゃう。


「……皇くんって、どんな女の子がタイプなんだろ?」

「それはもう白髪で青い瞳で、スリムなのに胸元だけはしっかりと出ていて皇さんに優しい方じゃありませんか?」

「え〜!それ私のこと〜?ありが────じゃないの!今忖度とか求めてないから!ちゃんと推察して!」

「と言われましても、私は皇さんとは趣向の話をしたことがありませんので……気になるのでしたら、聞いてみてはいかがですか?」

「皇くん本人にってこと?できるわけないでしょ、どんな女の子がタイプ?なんて軽い言葉使ったら皇くんに品性疑われちゃう」

「そうではなくて、神木さんという方にですよ」

「はぁ!?」


 私は大声を上げながら上体を起こした。

 私があの神木蓮に皇くんのタイプを教えて欲しいって助けを乞う?冗談じゃない、どうして私がそんなこと!


「シンプルかつ一番有力な手だと思います」


 ……悔しいけど、知鶴の言ってることは合ってる。


「……今って何時?」

「16時半過ぎです」


 ……バスケ部は平日16時から18時までやってる。

 神木蓮は今日も皇くんにバスケ行くって言ってた。


「……車だして」

「もしかして、今から学校へ行くおつもりですか?もう部屋着に着替えてしまってますよ?」

「ちゃんと制服に着替えて行く、皇くんのタイプを知るためだから」


 私は制服に着替えて身なりを整え、車に乗って皇くんの好きな女の子のタイプを知るために学校に向かった。

 神木蓮……普段は邪魔者で憎たらしいけど、皇くんとの関係を発展させるためならいくらでも利用してみせる。

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