第12話 友情
朝の寝起き、白鳥さんのベッドで白鳥さんと一緒に寝てしまったことに気づいた俺は変な悪夢を見てしまったのかと思ったが、頬をつねったら痛かったためどうやら現実らしく、その状態で朝ごはんを食べさせてもらって白鳥さんと一緒に登校した。
白鳥さんは歩いて登校するのではなく、リムジンで登校するため、今日は俺もリムジンに乗っての登校となった。
「皇くん、そろそろ落ち着いたらどう?」
「落ち着けないですって、泊まるだけでも相当なのにそれが一緒のベッドで寝るって……バレることは無いと思いますけど、墓まで持っていかないといけない秘密ができてしまったと思うと落ち着くとか無理ですよ」
「お墓まで……?どうかな〜?案外早くそれを秘密にしなくても良い時が来るかもよ〜?……でも、その時までは私たち二人の秘密だね」
白鳥さんは人差し指を自分の口に当てながら小さな笑みを浮かべて言った……ドラマとかならドキッとしそうなシーンだが、現実はそう甘くない。
この秘密は、バレてしまったら白鳥さんにとってはスキャンダルになって、それが白鳥さんの親とかがやってる仕事に影響が出たりしてしまったら、それは俺の不注意のせいだ。
そうなったら、俺は────
「お二人ではなく、私も知っているので三人ですよ、お嬢様」
「もう〜!今のそういう空気じゃなかったじゃん!」
「そうでしたか?申し訳ありません、ですが事実三人ですので……ね?皇さん」
「は、はい、そうですね……」
そうか、俺と白鳥さんだけじゃなくて、一応このお付きの人も知っているから三人の秘密だ……相手が白鳥さんだけだったとなると俺に重荷があると思ったが、もう一人だけとはいえこのことを知っている人が居るという事実は少しでも俺に安心感を与えてくれるな。
お付きの人は前の席に座っているためよく表情は見えなかったが、横から見ると少し口角を上げているように見えた。
いつものように校門の前でリムジンが止まると、まずは白鳥さんが先にリムジンから出た。
「あ、白鳥先輩だ!」
「今日も綺麗……」
「いつも高い紅茶とか飲んでたりするのかな〜!」
白鳥さんがリムジンから出ると、その時登校中の生徒たちが各々白鳥さんを見て周りがざわつくという、いつもの光景だ。
「皇さん、学校前に長い間停滞するのも迷惑ですのでそろそろ車を出させていただきたいので、降りていただけますか?」
「……え?ちょっと待ってください、今出たら白鳥さんと一緒に登校したことがバレて────」
「時間をずらして降りたとしてもリムジンから出てくるのですから同じです、早くお降りください」
「え!?ちょっと待ってくださ────」
抵抗虚しく、半ば追い出される形で俺はリムジンから出た。
俺のすぐ隣には白鳥さんが居て、リムジンから出てきた俺に笑顔を向けた。
「じゃあ皇くん、一緒に教室行こっか」
「……な、何言ってるんですか白鳥さん、俺と白鳥さんが一緒に歩くなんて白鳥さんに迷惑かかっちゃいますよ」
俺は白鳥さんとは全く関係の無い生徒を演じることにした。
同じリムジンから出てきたところを何人かに見られているため矛盾は生じてしまうと思うが、その噂が広まった時には「怪我した俺を拾ってくれた、白鳥さんは本当に優しい人だ」と言えばただの偶然だったということで俺と白鳥さんには何の関係性も無いということを示すことができる。
白鳥さん、この意図を汲んでくれ……!
「え〜?何言ってるの皇くん、同じベッドで寝たんだから今更そんな他人行儀なのって無いよ〜」
「……今、白鳥先輩なんて?」
「同じベッドで寝たって言ってなかった?」
「嘘!?あの人って確か……三年生の皇先輩だ!」
「皇先輩って、あのバスケ部エースの神木先輩の友達の!?」
白鳥さんの衝撃発言を聞いた周りの生徒たちが、次々に噂話を加速させている……最悪なことになってしまった。
白鳥さんは常識知らずでそれがどれだけ重大なことかわかっていないのか……?いや、でもそれならわざわざ二人だけの秘密とは言わないはず。
……というか、そうだ。
「白鳥さん……!秘密って言ってたのにどうしてバラすんですか……!」
白鳥さんにしか聞こえない声で、俺はそのことを問い詰める。
秘密というワードを他の人に聞かれてしまうと、隠そうとしていたことがバレてますます怪しくなってしまうからだ。
だが、白鳥さんは特に悪びれた様子もなく言う。
「二人だけの秘密だったら私だって秘密にしたかったけど、知鶴……付き人も知ってるんだったら、二人だけの秘密じゃないしバラしちゃっても良いかなって、私わからないんだけどどうして皇くんがそんなに焦ってるの?」
「焦りもしますよ!こんなこと学校外にバレたら迷惑が行くのは俺と白鳥さんの個人間だけじゃなくて、白鳥さんの家の経営とかにも響くかもしれないんですよ?高校生の男女、もしただベッドで一緒に寝てただけって主張しても絶対信じてもらえません」
変な憶測が学校中を回って、俺たちは変な噂をされ続けることになる。
現に、こうしている間にも周りには俺たちを囲むように人だかりができている。
……本当に、どうしたら────
「だったらさ、嘘じゃなくしちゃう?」
「……はい?」
白鳥さんは俺の耳元に甘い声で囁いた。
「だから、高校生の男女がベッドでするようなこと、本当にしちゃう?」
「っ……!」
俺はすぐに白鳥さんから距離を取って大声で言う。
「こんな時に何言ってるんですか!」
「冗談だって!それに、皇くんが考えてるほど事態は深刻じゃ無いから、高校生が恋愛することなんて普通だし、そんなのでいちいちスキャンダルにならないよ」
「それは……スキャンダルにならないとしても、白鳥さんの親御さんとかに知られたら────」
「パパもママも私に甘いから大丈夫!こんなこと気にしないよ、何なら新しい家族ができたって喜ぶかも」
「家族……!?」
「だから冗談だってば!……今はね」
……今は?
白鳥さんは意味ありげな含みを持たせて言ったため、俺はその言葉を言及しようとしたが────
「おうおう、なんだこの騒ぎ、って綾斗と白鳥!?お前らまた今日も一緒に居るのか?」
人だかりをかき分けて、蓮が俺たちのところまで来た。
「まぁ……な」
「何だよ、気まずそうな顔して」
状況を理解していない蓮のことを察した周りの一人が、蓮に言った。
「か、神木先輩!その、皇先輩が白鳥さんと同じベッドで寝たって!」
「……あぁ、そういうことか」
蓮は一瞬真面目な顔になると、俺たちのことを囲んでいる全生徒に向けて大声で言った。
「全員聞いてくれ!ベッドで寝たのは本当なのかもしれないけど、それ以上のことは絶対にしてねえ!皇綾斗はそんなことをするようなやつじゃないことは俺が一番わかってる!」
そのことを大声で訴えている蓮を見て、俺は蓮に友情を感じていた。
いつもはくだらないことばかり話したり、たまに言い合ったりしてるけど、こういう大事な時に頼りになるのは、やっぱり友達……じゃないな、今はもう友達じゃない。
認めよう、蓮は俺の親友────
「綾斗にそんな度胸絶対ねえ!……マジで!ほとんど関わりも無いくせにあの白鳥とそんなことするとか無い無い、マジで無い……いや、ガチで無いな、こんなに無いのは逆に凄いぐらいには無────」
「蓮!!」
一瞬でも蓮に友情を感じ、親友だと認めそうになった自分に対して怒りを覚えながら、俺は蓮の口を塞ごうとする。
「な、何だよ!今俺はお前の誤解を解いてやろうとしてんだろ!?」
「解き方に悪意しかないだろ!度胸が無いって何だ!?」
「はぁ!?誤解を解くときに嘘ついても仕方ねえだろ!俺は本当のことしか言ってねえ!」
「ずっと思ってたけど、いよいよ本当に勝負する時だな蓮!!」
「こっちのセリフだ!綾斗、次の身体測定で────」
その後、俺と蓮はしばらく言い合ったが、結果的に次の体力測定で互いの力関係というものをハッキリさせようということになった。
そんな中、周りから声が聞こえてくる。
「誤解だったんだって!」
「みんな、変な噂広めちゃダメだよ!」
「それにしても、あの二人って仲良いよね〜、男の友情って感じ」
「ね〜、先輩にこんなこと言うのも申し訳ないけど、男の子って感じして可愛いよね〜」
少し気になる意見もあったが、とりあえず俺と白鳥さんのことは誤解だということで解決されて、この噂が変な形で広まることは無さそうだった。
一時はどうなることかと思ったが、落ち着いたみたいで本当に良かった……仕事のチラシを出したのが白鳥さんだったとわかった時もかなり驚きはしたが、焦ったことで言えば今年に入ってから一番焦ったかもしれない。
「身体測定、か……入学当初から何にも変わってないんだから────それはそれとして、ムキになってる皇くん可愛い〜!」
近くで俺たちのことを見ていた白鳥さんは、何故かとても笑顔で俺のことを見ていた……後で時間がある時、白鳥さんとは色々と話をしなくてはいけない。
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