第6話 白鳥さんの部屋

 白鳥さんの家は玄関からとても豪華な装飾が施されていて、玄関の前には左右に長い廊下があって、前には左右対称に同じところに登る構造になっている階段が置いてあった。

 ……とても俺が今まで住んでいた国と同じ建物だとは思えない、別の国に旅行に来たみたいだ。

 俺と白鳥さんは靴を脱いで、家に上がった。


「白鳥さん、今からどこへ?」

「私の部屋」

「え……?さっきのお付きの人も俺に白鳥さんの部屋を案内してくれようとしてたのに、どうしてわざわざ案内役を買って出たんですか?」

「それは行ってからのお楽しみ」


 お楽しみって……仕事とはいえ初めて白鳥さんの家に来て、その家は邸宅という豪華な家で、とてもじゃないがお楽しみという感情よりも不安の感情の方が強い、だから何か俺にすることがあるなら先に言って欲しい。

 だが、それが雇い主である白鳥さんの方針であるならば反抗するのは仕事的には良くないこと。

 俺はどうにか不安を感じないでいることに努めながら、白鳥さんと一緒にある一枚のドアの前まで来た。


「もしかして、ここが?」

「そう、私の部屋」


 白鳥さんは特に恥ずかしがったり動揺したりするわけでもなく、白鳥さんの部屋のドアを開けた。

 ……仮にも異性を家に上げていて、その異性を今から自分の部屋に入れようというのに、白鳥さんは一切緊張していない様子だ。

 白鳥さんは異性を自分の部屋に上げるのが初めてでは無いから緊張していないのか、仕事だと割り切っているからなのか、そもそも俺のことを異性だという認識すらしていないのかどれかだろう。

 別に良いけど一番最後だとしたら何とも言えない心の傷を負うことになりそうだ。

 なんて考えながら、俺は白鳥さんの後ろから白鳥さんの部屋に入った。


「ここが、白鳥さんの部屋……」


 全体的に白色の物が多いが、ところどころにピンク色があるのが女の子らしさを感じる。

 ベッドは明らかに二人分ぐらいの大きさがあるし個人の部屋なのにしっかりと勉強机、テレビ、ソファー、ローテーブルと何から何まで揃っている。

 俺が家賃を自分で払っていて家賃が安い家に住んでいるというのもあるが、この一室だけで俺の家と同じか、下手したら少し大きいぐらいの広さだ。

 白鳥さんはゆっくりとドアを閉めると、ソファに座って俺にも隣に座るよう促してきたので隣に座る。


「白鳥さ────」

「皇くん、どう?仕事、引き受けてくれる気になった?」

「え……まだ、具体的な仕事内容があまりわかってないので、何とも言えないです」

「具体的な仕事内容?私と一緒に居てくれて、ちょっと私が皇くんと話したくなったら話す、ぐらい?」

「そ、それだけ……?そ、掃除とかは?」

「掃除とかはさっき居た付き人とか、他のお手伝いさんたちがやってくれるから皇くんはしなくて良いの」


 ……それだけで時給二千円ももらえるなんてとてもじゃないが信じられない、けど白鳥さんほどのお金持ちならそれが本当だったとしてもおかしくない、が。


「あの、今回の仕事って、俺がたまたま一番最初にあのチラシの電話番号に電話したから俺が仕事をするってことになったんですか?」

「ううん、あのチラシは皇くんにしか届けて無いよ」

「そ、そうだったんですか!?」


 俺にしか届けていないのにわざわざチラシを作るって……それよりも、気になることがある。


「どうしてわざわざ俺の家だけに?」

「それは、その……そ、それより皇くん、何かしたいこと無い?」

「したいこと……?」

「うん!何でも良いよ?お勉強でも映画鑑賞でも」

「ほ、本当に何でも良いんですか?」

「うん、良いよ?」


 ……俺は何でも良いというのが、社交辞令でそう言っているのか、それとも本当に何でも良いのかというところで判断を迷っていたが、後者だと信じて俺は遠慮なく言うことにした。


「じゃあ……ちょっとだけ、仮眠取らせてもらっても良いですか?」

「良いよ、眠たいの?」

「それほど眠たいっていうわけじゃ無いんですけど、ちょっと色々ありすぎて体は疲れてないんですけど脳が疲れた感じっていうか……」

「そういうことなら、寝て良いよ」

「ありがとうございます」


 お言葉に甘えて、ソファにもたれる形で俺は目を閉じた。

 ……白鳥さんの部屋で眠るのは緊張して難しいかとも思ったが、意外とそんなことはなく、すぐに眠りに入ることができた。


◇白鳥side◇

「……入って来て」

「はい」


 私は付き人を部屋に入れると、まずは今の気持ちを共有することにした。


「皇くん可愛くない?」

「……ただ寝ているだけだと思いますが」

「寝顔の話」

「はぁ……」


 付き人は呆れたようなため息を吐いた。

 この皇くんの可愛さが理解できないなんて、女として性を受けた意味を見失っているとしか思えない。


「とりあえず皇くんとある程度の接触をすることはできたから、次はどうにか皇くんに定期的にここに来てもらった上で、私とお友達になってもらいたいの」

「……お嬢様、意外と落ち着いてるんですね、二年間ずっと私に『皇くんと話したい!』とか『皇くんと遊んでみたい!』とか言ってた割には」

「皇くんにそんなところ見られるわけにはいかないし……本当なら鎖とか付けてたいけど、そんなことしたら嫌われちゃうと思うから」

「嫌われるどころか、通報されてもう二度と皇さんと会えなくなってもおかしくありませんよ」

「通信は妨害して、もし何かあったら揉み消すだけ……それより、早くこの状況から私と皇くんが距離を縮められる方法を考えて」

「……はい?」

「今は、皇くんが隣に居るから思考が回らないの!だから早く考えて!皇くんが起きる前に!!」

「……かしこまりました」


 私が皇くんの寝顔を堪能している間、付き人はこの状況からどうすれば私と皇くんが距離を縮められるのかを考えて、それを実行に移した。

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