第4話 仕事内容

 リムジンに押し込まれた俺は、今からどんな酷い目に遭わされるのかと恐怖していたが、特に何か酷いことをされるわけではなく、すぐに白鳥さんもリムジンの中に入ってきた。


「まさかあんな風に強引に押し込むなんて……皇くんが私に対して悪いイメージを持ったらどうするつもりだったの?」

「……申し訳ありません、お嬢様、プライベートな話になるため、最優先はプライバシーが守られた場所で話をすることだと判断しました」


 ……この黒髪でスーツを着た若い女の人の声、どこかで聞いたような気がする、けどそんなわけないよな。

 見たところ白鳥さんのお付きの人みたいだけど、俺がそんな人と話す機会なんてあるはずないもんな。


「まぁいいや……それより皇くん、今日からよろしくね!」

「……よろしく?」


 よろしくって、何をよろしくするんだ?


「話が見えないんですけど……」

「私の方から説明させていただきます……出してください」


 説明を始めると同時に、お付きの人は運転手さんに車を出すように伝えると、リムジンが動き出した。

 ……何から何まで気になることだらけだが、今はひとまずその説明というのを聞くことにしよう。


「昨日の夜、私は皇さんからお電話をいただきました」

「……電話?」


 俺が、白鳥さんのお付きの人に……?

 そんなこと、あるはずがない。

 確かに俺は昨日チラシに書いてあった電話番号に電話をしたが、それは決してこの人では……まさか!


「もしかして、昨日俺が電話した人ですか?」

「はい、それと同時に仕事も依頼しました」

「仕事って……じゃあ、俺が働く場所って────」

「白鳥家……正確には、お嬢様の部屋になります」

「お嬢様の部屋!?それって白鳥さんの部屋ってことですか!?」

「その通りです」


 仕事先が白鳥さんの家だというだけでも俺にとっては十分驚くことなのに、細かく言うとそれが白鳥さんの部屋なんて……でも、それなら時給が二千円と高いことにも納得が行く。

 白鳥さんの家は色々な事業をしていたり寄付をしていたりしてとにかく家柄がすごく当然お金持ち、時給二千円ぐらいの出費で嘆くようなことは無いんだろう、俺とは全く真逆な財政状況だ。

 そして、仕事として受けた以上、俺も仕事としてそれを割り切って、ペットのお世話の仕事に専念するしかない。

 俺はその仕事を受ける覚悟を決めたところで、さらに詳細に仕事内容を聞くことにした。

 今回の仕事において、一番重要なことと言っても過言では無いことだ。


「あの、具体的にはまだ聞いてなかったと思うんですけど、俺がお世話するペットってどんなペットなんですか?白鳥さんの部屋に居るってことは犬とか、ハムスターとかですか?」

「それは────」

「皇くんがお世話するのは私のこと、皇くんのお仕事は、私のことを常に見て、私が話したそうにしてたら話し相手になったり、私が寂しそうにしてたらその腕で私のことを安心させたり、もし私が色々と────」


 白鳥さんが突然話に入ってきたと思ったらハイテンションで何かを語り始めたが、即座にお付きの人が白鳥さんの口を塞いだ。


「申し訳ありません、私の方から説明させていただきます……皇さんにしていただきたいのは、お嬢様のお世話です」

「……はい?」


 さっき白鳥さんも似たようなことを言っていたが、どういうことだ?お嬢様のお世話って……


「言ってる意味がわからないです、白鳥さんとは別に、そのペットの名前がお嬢様っていう名前なんですか?」

「いえ、お嬢様というのは、紛れもなく今ここに居るお嬢様のことです」


 俺は改めて白鳥さんのことを見る。

 学校では優等生というイメージだったが、今は口を塞がれて不満そうな顔をしている……当たり前だが、感情を覗かせることもあるんだな。

 ……それはそれとしても、やはり意味がわからない。


「白鳥さんのお世話ってどういうことですか?白鳥さんは学校で勉強もできるし運動もできると噂されていますし、俺もそれを何度か見たことがあります」

「えぇ、日常生活のお世話をして欲しいと言っているのでは無いのです……ただ、お嬢様は二年間もの間ずっと私に妄想を話すだけで我慢していましたが、いよいよ我慢ができなくなったようで────」

「ちょっと!余計なこと言わなくて良いから!」


 今度は白鳥さんがお付きの人の口を塞ぐと、率先して話し始めた。


「ちょっと最近部屋の掃除とかが行き届いて無かったりとか、精神が不安定だったりするから話し相手が欲しかったの」

「は、はぁ……そういうことなら」


 よくわからないけど、それで時給二千円ももらえるならありがたいものだ。

 俺は将来のためのお金を貯めたいし、妹がもしいつか帰ってきた時に妹のために使えるお金も用意しておきたいし、いつも俺と居てくれる蓮と遊びに行くためにもとにかくお金がいる、そのためなら……その程度のこと、成し遂げて見せる。


「……では、家に着くまでの間に、軽いテストをしましょう」


 白鳥さんの手をどけて、お付きの人はテストを始めると言い始めた。


「テスト……?」

「はい、皇さん、このリムジンが家に着くまでの間に、お嬢様のことをときめかせてください」

「ときめ……は、はい?何を言って────」

「ときめかせてください」


 っ……質問も反論も受け付けてくれる雰囲気じゃないな……だが、俺の今後の人生のために必要なことだというのなら、やるしかない。

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