第3話 校門前

 今日の放課後ペットと触れ合えることを活力として、俺はいつもより少し良い気分になりながら学校に登校した。

 席に着くと、その数分後に蓮も学校に登校してきて、いつものように俺の席にやってきた。


「おーっす、ってあれ?お金が尽きたとか言ってた割には今日はちょっと元気そうじゃね?」

「実は昨日良い仕事に就く事ができたんだ」

「良い仕事……?」

「時給二千円」

「二千円!?」


 その額を聞いた蓮は開いた口が塞がらない様子だった。

 高校生の時給が二千円というのは、全国的に見てもかなり高い方だから驚いても無理は無い、事実俺自身もまだあまり現実感が無い。


「な、何する仕事なんだ?」


 蓮は恐る恐る聞いてきたが、俺はそれに堂々と答える。


「ペットのお世話だ」

「ペットの、お世話!?そ、それで二千円!?」

「あぁ、かまって欲しがりなペットだったりするかもしれないらしいけど、そんな可愛いペットをお世話しているだけで時給二千円ももらえるなら嬉しい話だ」

「うっ……良かったな、それでようやく綾斗の財政事情もひとまず落ち着きそうだ……」


 蓮は少し涙目になって俺が良い職に就いたことを喜んでくれている。


「ありがとう、これでとりあえず蓮に悩みを打ち明ける日常も終わりだ」

「なら、そのお金を貯めて余裕ができたらどこ遊びに行きたいかとか話そうぜ!」


 俺たちはその日の休み時間、今後どこに遊びに行きたいのかをひたすらに話し合い、今日の授業が全て終わって放課後となっていた。


「今日がペットのお世話の仕事初日なんだろ?頑張れよ!」

「帰ったら感想をメッセージで送る」

「了解!じゃあ部活行ってくるわ〜」


 蓮は笑顔でそう言うと、教室を後にした。


「俺はどうするかな」


 17時まではやはりあと少し時間がある……かと言って俺は交友関係は広く無いため、その少しの時間を楽しく潰せるような相手も居ない。

 とにかく教室の外に出て、適当に校内を見て回るか。

 俺は鞄を持つと、教室の外に出────


「皇くん、ちょっと良い?」


 白鳥さんがいつの間にか俺の隣に居て、話しかけてきた。

 ……ここ数日、毎日のように話しかけてくるけど、その理由が一向にわからない。


「何ですか?」

「一緒に校門前まで行かない?」


 白鳥さんが突然わけのわからないことを言い出した。

 ……話している相手が蓮だったなら軽く蹴っていたところだが、相手は優等生の白鳥さん。

 何か理由があるはずだ。


「一緒にって、どこか体調でも悪いんですか?」

「一緒に行ったほうが効率良いから」


 ……効率?何の話だ?


「な、何かの心理実験とかですか?」

「何意味のわからないこと言ってるの、良いから早く校門前行くよ」


 そう言うと、白鳥さんは俺に詳しい事情を説明せずに歩き出してしまった……まさか白鳥さんから意味のわからない扱いされてしまうとは思わなかったな。

 俺は何が何だかわからなかったが、残りの学校生活のことを考えても白鳥さんと喧嘩して良いことは何も無いため、素直に白鳥さんの横を歩いて校門前まで向かうことにした。


「……」

「……」


 俺に何か話でもあるのかと思ったが、白鳥さんは沈黙している。

 おかげで場は沈黙して気まず────


「重っ……あ、あとちょっと!」


 目の前で女子生徒の一人が重たそうなダンボールを抱えて歩いていた。


「……すみません、ちょっと待っててもらっても良いですか?」

「うん」


 俺は白鳥さんに待っていてもらうよう告げると、その女子生徒の所に向かって、その段ボールを持った。


「この荷物、どこに持って行く?」

「も、持って行ってくれるんですか!?あ、ありがとうございます!えっと、すぐそこの化学準備室です」

「わかった」


 俺はその段ボールを持ち、化学準備室まで運んだ。

 ほとんど毎日働いているからか、体力と筋力が働いていない時に比べてかなり増えたような気がする、やっぱりバイトを三つ掛け持ちするのは大変だったけどちゃんと大きなメリットもあるんだな。


「わざわざ運んでくれてありがとうございます!」

「気にしなくて良い」

「あ、あの!皇先輩、ですよね?」

「ん?そうだけど……」


 どうして俺の名前が知られているんだ?

 俺は全校生徒が俺の顔と名前を一致して覚えられるほど何かをした事はないはずだ。


「バスケ部の中で話題になってますよ!神木先輩が普段から関わってる皇先輩ってどんな人なんだろって!」


 あぁ、おそらくバスケ部のマネージャーとかをしていて、だから蓮のことを知っていて、蓮とよく話している俺のことも知っているのか。


「それで、皇先輩のことかっこいいって言ってる人とかも居ましたよ!」

「俺が?だったらその人は優しいな、蓮がかっこいいっていう話が出たから俺が浮かないようにそう言ってくれたんだと思う」

「ち、違いますよ!放課後は全然学校で見かけないけど、多分皇先輩がバスケ部とかに入ったら神木先輩と同じくらいモテると思────」

「……皇くん、荷物運び終わった?」

「し、白鳥先輩!?す、すみません!失礼します!」


 さっきまで元気に話していた女子生徒だったが、白鳥さんのことを見た途端に化学準備室を後にした。

 ……やっぱり白鳥さんは下級生の間でも品のある優等生というイメージが強くて、関わるのは難しいみたいだ。


「待たせちゃってすみません、運び終わりま────」


 返答しようとしたところで、白鳥さんは突然俺の左手を触り始めた。


「な、何するんですか!?」

「生の皇くんに触ってるだけだから気にしないで」


 生の、皇くん……?


「ゴツゴツしてるのに肌は綺麗、とても不思議な感触……いつもお金が無いって言ってるし、それでバイトとかいっぱい入れてるの?もっと体調に気を────」

「ま、待ってください、何してるんですか」


 俺は白鳥さんが触っている俺の左手を白鳥さんから離して、少し距離を取った。


「あ、ごめん……ちょっと気が早まっちゃった」


 気が早まった……?

 さっきから何を言っているのか一つも理解できない。


「俺、先行きますから!」


 これ以上関わると俺は戸惑いに頭を埋め尽くされてしまいそうだったため、急いで白鳥さんから離れることにした。

 時間的にあと十分か、二十分は仕事の人が来るのを待たないといけないかもしれないが、そのぐらいなら問題無いだろう。

 俺は白鳥さんを置いて、一足先に校門前に出た。

 校門前に出ると、白色のリムジンが置かれていた。


「あれは、確か……いつも白鳥さんが登下校に使ってるリムジンだ」


 特別白鳥さんの登下校に興味があったわけではないが、白色で目立つリムジンで毎朝登校していれば、嫌でもそんな情報が入って来る。

 まぁ、俺には関係無いことだし、とにかく17時までここで仕事先の人を待っておくとしよう。

 それから三分ほどした頃、白鳥さんが校門前に出てきた。


「お待たせ、皇くん……私は一緒に校門前まで歩きたかったのに、先行っちゃうなんて、今回は初回だから許してあげるけど、今後したら怒っちゃうよ?」

「……すみません、本当に何を言ってるのか理解できないです」


 俺が一言白鳥さんに返したところで、白色のリムジンから黒髪のスーツを着た若い女の人が出てきた……若いというのは社会的に見て若いというわけではなく、俺と同じぐらいの年齢という意味だ。


「お嬢様、本日もお疲れ様です」

「えぇ……それより、彼が皇くんよ」

「かしこまりました」


 白鳥さんは何故か俺のことをこの若い女の人に紹介すると、俺は白いリムジンから出てきた複数の人に囲まれて無理やり白色のリムジンに押し込まれてしまった。

 ど、どうなってるんだ!?

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