第25話 菊③

1913年 日本 一条院家別邸


「やあやあ。君が会ってくれるとはね。」


 黒髪の少女、倉橋くらはし久遠くおんはある女性と会っていた。その相手は、


「土御門家の分家の人間が話に来るとはな~。」


 一条院いちじょういん菊花きっか

 床につくほどの長い色素の薄い茶色の髪。顔を五芒星の書かれた紙で隠している。

 当代の一条院家当主にして、“四ノ宮しのみやかずら”さえいなければ、上帝家の当主代行になるはずだった人物。厳密に言えば、そのうちのひとりといった所だろうか。


「一条院の狐...。流石といったところかな。僕でも一苦労など結界を屋敷全体に...それも多重に張り巡らしているなんてね。」


「全て解除したやつに言われとうないわ~。どう調理したろうかな~?」


二人の間を静寂が支配する。

両者とも相手の手札はある程度を理解している。


 遙か昔より“十二の鍵クレービス”の全てを知る”太裳たいじょう”を保有し続ける上帝家の一族。

 “六合りくごう”の能力を知らないはずがない。


 逆に、一条院家の“固有式”のネタは多くの人間に知れ渡っている。

故に、久遠くおん


「上帝家の料理番...。」


「微塵にしたるわ。」

 手札を強引にきることにした。


 冷たい声が聞こえたところで久遠の右手が消える。それと同時に体から力が抜ける。


(血が抜かれた...。少し...なめていたかな...。


上帝家当主の五感...。


“料理”つまり“味覚”

“諜報”つまり“聴覚”

“■■”つまり“嗅覚”

“代替”つまり“視覚”

“■■”つまり“触覚”


まあ、こちらも...ここまでは想定済みだからね。)


「この程度―」


「『想定済み』というのですか?」


「これは...しくじったかな」


 久遠くおんは“固有式”を発動させようと考えるが、ある人物が目の前に現れる。


「―霊峰の魔女アジール―...。」


 一条院いちじょういん菊花きっかは、はなから自身の能力に加えて、一条院いちじょういん家の本邸の人間達を信用していない。


狐は虎の威を借りる。


「君がここに呼んでいたのか...。」


「うちはな負ける戦いは挑まない主義の人間なんやわ。」


「流石に負けという事かな。“術式解放”も封じられているし...。数少ない魔女を連れてくるし...。なんで、魔法は僕に相性が悪いものしかないのかな。」


 久遠は起き上がることを諦め、仰向けになりながら会話を続ける。


「『否定』はしません。ですが、『厳密』に言えば、『過程』と『結果』が違うといったところでしょう。」


「そうか...。」


「魔法は『貴女』へのものではない。神代の理を『否定』するものです。故に、“ネロ”を最後に『魔女』は増えていない。」


―“霊峰の魔女アジール”―


 5人の魔女の内の一人。

 通称“ヴェルデ”。比較的温厚な性格と言われており、表舞台には出てくる機会が多い。魔女は基本的には、国、組織、個人に与することはない。

 そして、魔女が表舞台に出てくる場合は苛烈なエピソードを残す場合が多い。

 例えば、何らかの条件により、“教会”に協力した―“絶氷の魔女アブソリュート”、通称“ヴィオラ”は東方騎士団(第一次)をトップ3が不在の状況とはいえ、殲滅。“教会”と“正統派”の戦いを決定的なものにした。

 他には、―“罪血の魔女エルプズュンデ―、通称“ロッソ”は百年戦争初期にフランス側の占星術戦力を文字通りの血祭りに上げ、戦争を泥沼化させた。


 ほとんど、表舞台に出てこず、実態が分からない―“泡沫の魔女ファントム”、通称“ビアンコ”を除けば、気分で動く様にしか見えない魔女とはこちらの世界では厄災そのものである。


 そのような中で、温厚な性格と評される“ヴェルデ”は


“教会”の“四大騎士テトラモルフ”の一翼で「世界を記録している」といわれる―“霊智”―


十二の鍵クレービスより前から存在する。「

―“朱雀”―


 これと並び占星術の全ての歴史を記憶する。


 そう記憶するのだ。






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