第16話 三①

 パチパチと乾いた拍手の音が扇雪みゆきの耳に入る。

 勿論、片腕を吹き飛ばし目の前で凍り付いている“赤髪”が拍手をできるはずもない。


 扇雪みゆきは冷めた目で後ろを見る。


「てめぇは生きてたのかよ。ミカエル。」

「口が悪いな~。女の子だろ?」

「お前だけには言われたくないな。」


 扇雪みゆきの後ろに立つ女性。桃色の長い髪は手入れされていないのか所々はねている。そして、最早見えているのか不明な瓶底眼鏡をかけている。


「教会“正統派”の最高権力者“総主教”直属“東方騎士団”の最高幹部“七騎士”第三席でありながら、“総主教”お前のことであれば真っ先にやられそうだったんだがな。」

「んなわけないだろ?俺は単なる“歴史家”だ。良くも悪くも俺は干渉はしない。」


 女性は“歴史家”を名乗っているが、彼女は“東方騎士団”の幹部の一人である。


 ミカエル=アタライアテス。それが、彼女の名である。


「お前が干渉を決めれば、ビザンツが滅びることはなかったか。」

「まあな。だが、惜しい事をしたとは思っている。」

「?」

「今となっては、古来より続く国は日本だけになってしまった。」

「エチオピアがあるだろう?」


 扇雪みゆきはミカエルに尋ねる。


 確かに、日本は長く続いている国であるが、エチオピア帝国もソロモンの時より続く国と言われている。


「ん?まあ、数年?くらい待ってみろ。ローマの再興を望むもの達がな...。」


 ミカエルはベンチに座り、どこからか取り出したコップに固まった麺を入れてお湯を注ぐ。


 そして、少し経つと箸をどこからか取り出し麺を食べる。


「どうした?日本人はこれが大好きじゃないのか?」


 ミカエルが摩訶不思議なものを食べているといった顔をした扇雪みゆきにミカエルは首を傾げる。


「んなもん食べねーよ。」

「おかしいな。インスタントラーメンという代物だったはずなんだが。」

「あぁ、南京そば?とか言ってたやつかの一種か...?」


 本来、この時期には存在するはずのないもの。いや、技術といった方が正しいのかもしれないが、ミカエルはそれを食していた。


「まあ、いいや。」


 ミカエルは箸を止めると呟く。


「なあ、扇雪みゆき。お前は何で俺の言葉が分かる?」

「ん?」

「何故、日本語を話す日本人であるお前が、俺の話すギリシア語を理解できている?」

「?」


(待て...。いつからだ。いつの間に...。)


「多くの占星術師は気づいていないが、いつの間にか占星術師の言語の統一が行われている。」

「まさか...。」

「“バベルの塔”の契約が消えた。」


 ミカエルは少し間をおいて話す。


「“神の門”が作れない最後の条件が達成しやすくなってしまった。じゃ...今はラスプーチンか...。あいつは“聖域”の展開にこだわっているが...。まぁ、いい。神の“代行者”達が来る。今の状況は奴らにとって好都合過ぎる。」




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