第13話 迎①

「んあ?どういうことだ?」


 ゴシック調の黒い服を身にまとい、日傘をさした白銀の長い髪を持った女性。日本人離れしたような容姿を持つ御井みい扇雪みゆきはコンスタンティノープルの街を散策する。


  人っ子一人いない街。


 “聖都”ゆえにありえる話であり、“聖都”ゆえにありえない話である。


「こんなに人がいないとは...戦争中ですかな?」

「いや、ないだろう。まず、人の気配がない。」

「はぁ~。私は探索はからっきしですので...。」

「殺気は分かるのにな...。」


 扇雪みゆきの横を歩く軍服少女。柳生やぎゅう但馬守たじまのかみ


 扇雪みゆきの長いビジネスパートナーでありながら、扇雪みゆきは未だに通り名である“但馬守たじまのかみ”しか知らない。


「さて、お出迎えか...。“東方騎士団”の人間か?」


 二人の前後に一人ずつ人間が現れる。


 ―分断―


 その声が聞こえた瞬間、扇雪みゆきの目の前に立つ男以外の気配が消えた。

但馬守たじまのかみと後ろにいた人間の気配が完全にたたれてしまった。


「誰だ?」


「明日は明日の風が吹くかもしれないし、昨日は昨日の風が吹いたかもしれない。今日がどんな風が吹くかは分からない。」

「?」

「お嬢ちゃん。君は何のためにここに来たんだい?」


 よれよれのスーツに無精ひげを伸ばした男。

 髪の色は赤い。


「?」

「君がどんな風を吹かせられるかを聞いているんだ。」


 男は紙煙草を一本取り出し火をつける。


「ここは既に死地だよ。“東方騎士団”は大半が壊滅。団長は行方不明。幹部もほとんどが死んだ。」

「?」

「あぁ、一つ言っておくけど僕は“東方騎士団”の人間じゃない。既に各国の占星術組織の精鋭達が訪れた地点でこの状況だ...。」

「じゃあ...。」

の占星術組織はある命令を下した。“六合りくごう”の確保を最優先事項とし、“勾陳こうちん”の確保及び“聖都”における他国の占星術師達を殲滅せよと。」


「!?」

(かずらが...?いや、陸軍省か...一条院いちじょういんの狐、二タ月にたつきの双子か...。あいつらが指示を出したのか...?)


「お嬢ちゃんの反応を見るに日本の子みたいだね~。」

「...。」

「日本は一つの家がトップに立ってるけど指揮系統が複雑だからね~。知らないなんて表情をするのは本当の馬鹿か...。指揮系統のミスか...。」

「なるほどな...。で、お前はオレを殺すのか?」

「...。ん~帰ってくれるなら~って話だけど。どうする?」

「...。“聖都”とか“勾陳こうちん”はどうでもいいんだが...“六合りくごう”だけは渡せないんでな。」

「なるほど...。交渉決裂というわけか...。」


 次の瞬間、扇雪みゆきは撃たれた。


「なっ...。」


「僕がこんな状況でだらだら話しているとでも?初めから僕の間合いだ...。そして、君が御井みい扇雪みゆきであることも知っていた...。」


「...なるほどな。お前は既にオレと接触した地点で準備ができていたわけか...。」


「化け物かい?お嬢ちゃん。」


 扇雪みゆきは立ち上がった。まるで、防弾チョッキを着ていたかのように外傷は存在しない。


(あばらは数本やられたな...)


 扇雪みゆきは弾丸を分解したが、その弾丸の威力そのものは分解しきることはできなかった。


(僕の方としては困るんだけど...。後、3分...。)


 だが、男の方としても厄介な話である。一撃で扇雪みゆきを撃破できなかったのは、手痛い。


 彼には名前が存在しない。

 彼にはコードネームの“赤髪”という名前だけが


 アメリカの占星術組織“A”は多くは固有式を持たない占星術師達で構成されており、例に漏れず“赤髪”も同じである。


「...。」


(固有式じゃねーなこれ。単純な霊力弾っていったところか...。まあ、あの威力となると銃身に圧力がかかり過ぎるから...2、3分といったところか...。)


 扇雪みゆきは既に、“赤髪”のネタを大半理解してしまった。


 どんなに占星術に詳しくても、どれだけ強くても、どちらともができていても“赤髪”には勝てずに死ぬ。


 だが、扇雪みゆきにとってそれは造作のないことだった。


(後、一発撃たせてリロードのところを狙うか...)


(とか、お嬢ちゃんは考えてるんだろうね~。)


「!?」


 先に動いたのは意外にも扇雪みゆきの方であった。


 扇雪みゆきは下手に動かずとも一発を待てばいい。


 特に、防ぐ手段が存在するのであれば


「...。」


 “赤髪”は扇雪みゆきの攻撃を数度を防いだ後、流れるように引き金を引く。


 よけられない距離、初速は音速を超える弾丸。


 だが...


 “赤髪”は扇雪みゆきの防ぐ手段を理解していない。


 ゆえに


「!?」


 ガンというものが何かにぶつかった大きな音がした後、にゅっと手が伸びてくる。


 “赤髪”はそれが扇雪みゆきの手だと反応するまでに時間がかかってしまった。


「終わりだ。」


 扇雪みゆきの手が“赤髪”の肩におかれる。


 “赤髪”の方はもう一つの拳銃を取り出しそれの引き金を引く。


 どちらにとっても誤算。


 扇雪みゆきにとってはもう一つ拳銃があったこと。


 “赤髪”にとっては扇雪みゆきの手が肩に置かれた瞬間、腕が飛ばされたことであった。


「なっ...。」


「ちょっとはびびったがオレには届かねーよ。」


 扇雪みゆきは“赤髪”に回し蹴りを入れたあと、亜空間庫から刀を取り出しさやから引き抜く。


「―静まれ―“霜零そうれい”」


 

 一帯が凍りついた。

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