かつて剣聖と呼ばれたアラサー社畜、会社の命令で撮ったダンジョン料理配信にてバズり散らかす~元最強のブラック社畜が、S級モンスターをあっさり食して伝説になった話~
第10話 アラサー社畜、レヴィアタンのいくら丼を作る(後編)
第10話 アラサー社畜、レヴィアタンのいくら丼を作る(後編)
「まずは、料理酒を鍋に入れまして。次にみりんを注ぎます!」
俺はカメラに向かって言いながら、それらを鍋に投入していく。
「で、強火で煮立たせて、アルコールを飛ばします」
俺と新城さんはしばらく液体が煮えるのを待った。
「……暇ですね」
新城さんは憮然とした表情で言う。
「料理なんてこんなもんです」
しばらく待っていると、水面に火の手が上がった。それは少しの間燃えていたが、やがて消えていく。アルコールが飛んだ合図である。
「ここでしっかり煮立たせておくと、甘みと香りが強まり、風味が豊かになります。アルコールはしっかり飛ばしていきましょう」
「詳しいですね」
「えぇ。動画で勉強しましたからね」
♢♢♢
ミレ:動画wwwwwwww
しまむー:ちょっと感心してたのにwwww
青爺:そこは見栄を張れ。見栄を
♢♢♢
「さて、しっかり煮立ったら、そこに醤油を投入します」
気恥ずかしさを覚えながら、醤油を投入していく。
「……この時点で良い香りがしますね」
新城さんは漬け汁の方へちらと顔を寄せる。
「深い醤油の香りですが、ツンとした角がみりんの甘さで消えていますね……そのまま飲んでも美味しそうな感じ……」
「塩分凄いですけどね」
彼女は口元に指を当て、じっと漬け汁のことを見ている。どうやら機嫌が直りつつあるらしい。
俺は大きめのボウルに、水筒に入れた氷水を注ぐ。そして、そこに漬け汁が入った鍋を浸した。
「あとは、漬け汁の粗熱を取ります。その間に、筋子の掃除をしましょう」
俺はお湯に浸けられた筋子へ視線を戻す。ざるを用意し、それを使って湯切りをした。そして再びお湯を注ぎ、それを切る。
「こうすることで、薄い膜や寄生虫を取り除くことが出来ます。まぁレヴィアタンに寄生虫がいるのかは分かりませんけど」
「ふむふむ」
「さ、さて、掃除も終わり、粗熱も取れたところで、筋子を漬け汁に漬けます」
俺は筋子を漬け汁へ投入していく。真っ赤な真珠が黒い海へ投入されていく。
「この状態で、しっかり漬かるのを待ちます。これでいくらの完成です」
「へぇ~こんな工程なんですねぇ」
新城さんは感心したように言う。彼女はごくりと喉を鳴らした。
「っていうかもう美味しそう。早く食べたいんですけど」
よかった。機嫌は完全に直ったようだ。俺はほっと息を吐く。いや、そもそもなんで怒ってたのかよく分からなかったが。俺、何も悪い事してないはずなのだが。
「ところで、何分くらい漬けるんですかこれ」
「丸一日ですね」
「へぇ、丸一日! そうですか……ん? 丸一日?」
そこで新城さんは弾かれた様にこちらを見て、
「丸一日ィ!?」
驚愕の顔と共に言った。
「はい。丸一日です。二十四時間、二度漬けします」
「え、え? えぇ?? 待ってくださいよ田中さん。もう時刻は午後八時ですよ! じゃあ一晩ここに寝泊まりするんですか?」
彼女は顔を真っ赤にして、わたわたと後退する。
「い、一緒に!?」
「そうですね。このままでは一緒に寝泊まりすることになります」
「そ、そんな、あの、私、ま、まだ心の準備が――」
♢♢♢
ミレ:おいおい新城ちゃん。ここだぞ
しまむー:チャンスだぞ、新城ちゃん
としのり:さっきの失敗を挽回したくないのか?
♢♢♢
「……」
彼女はコメントを見ると、そこで動きを止め、真剣な顔になった。
「……いや。そうだ。ここで日和っちゃダメ。せっかくのチャンスなんだから」
「……?」
「わ、分かりました!」
彼女は頷き、地面に三つ指を立てた。
♢♢♢
タツキ:お?
じぇしか:これは?
♢♢♢
「不肖、新城あきら!」
彼女は宣言するように言う。
「ふ、不束者ですが、今晩はご一緒に――」
「というわけで、ここに一日漬けた完成品があります」
「殿方と一緒に寝泊まりなんて初めてですが……って完成品ンンンン!?」
なぜか驚愕に叫んでいる新城さんを横目に、俺はタッパに詰めた完成品を取り出す。そこには漬け汁に漬けられた、小さな紅玉が光を受けて漂っていた。
「え? じゃあ田中さん、あらかじめレヴィアタンを狩ってたんですか!?」
「はい。クリムゾンドラゴンを倒した後、やっておきました。次はいくらにしようと決めていたので」
実は誤配信のあと、俺はレヴィアタンを狩っていた。どのみち翌日にならないと専務には会えない。であるなら、次の配信の準備をしておこうと思ったのだ。そうしてレヴィアタンから筋子を取り出し、自宅にそれを漬けておいたというわけだ。
♢♢♢
青爺:完成品wwwwwww
はうる:最悪すぎるwwwwwww
じぇしか:料理番組かな?
♢♢♢
「えぇ……寝泊まり、しないんですか……」
「新城さんだって早く帰りたいでしょう。嬉しくないんですか?」
「……」
「じゃあ、ご飯にいくらを乗せていきましょう!」
俺は鞄から小さい炊飯器を取り出し、それを開いた。保温されたほかほかのご飯が踊っている。それを茶碗にすくって盛った後、俺は、真っ赤な真鍮のようないくらをそこへふんだんに盛り付けた。
そして、俺はカメラに向かって言った。
「さぁ、レヴィアタンのいくら丼、完成です!!」
★★★
作者です。十話はいかがだったでしょうか!
前話の後書きにも書いたのですが、九話の内容を何度か大きく変更させて頂きました。優柔不断なうえ、読者の皆様には多大なご迷惑をおけけして、大変申し訳なく思います。しっかりと主人公の性格を把握していなかったこちらの落ち度でした。本当にごめんなさい。
このように未熟者ではありますが、できれば今後ともお付き合いを頂ければ幸いです。
それでは、また次話にて。
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