第3話 アラサー社畜、クリムゾンドラゴンを料理する

 まずは鞄からフライパンを取り出し、作った焚き火の上に置く。


「確か、強火で良かったよな」


 俺は火加減を見ながら呟く。火の手は十分強いように見えた。


 次に、キューブ状にしたクリムゾンドラゴンの脂身をフライパンの上に置き、油を引く。


「しかし、モンスターって美味いのか? なんか、不安が……」


 だが、そんな懸念は、最後、切れ目を入れたかたまり肉を投入したとき消えた。じゅわぁ、と音がした。同時に、甘い芳醇な香りが鼻孔をくすぐる。それだけでも涎が出るのを感じる。


「じゅる……いい音だな……」


 で、確か、短時間焼いて焼き色をつけたら、余熱で火を通すんだったか。


 考えながら、すべての面に焦げ目をつけた後、フライパンを焚き火から上げ、地面に置いた。蓋をし、その間、しゃがみ込んで熱が通るのを待つ。


 その間に、副菜のユッケを作る事にした。


 まず、ボウルに焼き肉のタレを垂らし、そこに、ごま油とチューブのニンニクを入れて、混ぜる。これでユッケタレの完成である。


 そこに、包丁で叩いて作ったクリムゾンドラゴンの生挽肉を投入し、よく混ぜた。その上に持ってきた刻みネギをまぶして、最後に卵黄を落とし、クリムゾンドラゴンのユッケが出来た。光を反射するその様は、まさに小さな肉の海だった。


「ふふ……美味そう……は生で食ってたからな。多分平気だろ。牛だと違法だけど……ドラゴンなら法律上も問題ないよな? 多分」


 そこで、視界に前髪がかかった。


「……そういや、髪切ってないな」


 俺は自分の前髪を持ち上げながら呟く。


「前髪長くて邪魔だし。そろそろ床屋行くか……」


 そこで、スマホのタイマーが鳴った。俺は鼻歌交じりに蓋へと近づき、それを持ち上げる。


「おぉ~」


 そこに、小麦色のステーキ肉ができあがっていた。


 ナイフを手に取り、二つに切ってみる。断面を確認した。


「おぉ~~!!」


 そこに、たおやかなピンク色の断面ができあがっていた。

 

 ナイフで押してみると、塊肉はマシュマロのように柔らかい。レアに仕上げたピンク色の肉は、さながら薔薇のような色合いをしていた。そこから煌めく肉汁が滴り、フライパンに落ちていく。まさしく、赤い宝玉。俺は漏れ出る涎を袖で拭った。


「カメラにも映ってるな。じゃ、じゃあ早速……ここは豪快に……」


 俺は二つに切った塊肉のうち、一つにナイフを刺すと、持ち上げ、そこに塩をまぶした。そして、それを豪快に口へ放った。


「う、うめぇぇぇ~!!!」


 思わず大きな声が出る。


 柔らかい肉は、噛むと簡単に切れた。しかし歯ごたえがないわけではなく、食べ応えも十分。重厚な肉の味からは、荒々しいクリムゾンドラゴンの躍動を感じた。あふれ出る肉汁は甘く、芳醇で、舌が蕩けそうになってしまう。


「マジで美味いぞこれ。モンスターって、食えるもんなんだな! ……あ、そうだ」


 俺はそこでようやく思いだし、新商品の調味料を取り出した。


「これをかけて食うんだったな。こうしてふりかけて……と。……うん。まぁ元が美味しいからな。あんま関係ねぇな。いや、それにしても美味い! 美味いぞ!! そして、ユッケの方も――」


 箸を取り出し、ユッケを取る。それを口に放った。


「んん~! 美味しい!!」


 俺は頬を抑え、微笑みながら肉を咀嚼する。


「生肉っていいな! しっとりしていて、それでいて歯ごたえもある! タレがよく絡まってて、本当に美味い!」


 なんだろう。生食だからこそわかる力強い味わいが伝わってくる。まるで狩猟時代から連綿と続く人間の遺伝子が刺激されている感覚だった。本当に美味しい。


 一度準備のために帰宅した際、鞄と一緒に持ってきたクーラーボックスから、キンキンに冷えた缶ビールを取り出した。缶の蓋を開け、一気に飲み下しながら、ステーキとユッケを頬張る。


 幸せに、頬が緩むのを感じる。


 案外この仕事、悪くないかも知れない。そう思った。


「……あ、そうだ。一回アップで撮ってみるか」


 俺はそう言いながら、ドローンカメラの方を振り返る。


「撮影の練習に来たわけだしな。本番の練習を――」


 そこで、スマホが揺れた。


 画面を確認してみる。島内さんからだった。


 なんだろう。


「はい。もしもし」

『……田中さん』

「はい。なんでしょうか」


 俺はステーキを食べながら訊く。


『私は確かに、配信をつけるな。練習の為にオフラインでカメラを回してくださいと言いましたね?』

「えぇ。そうですね。それが?」


 沈黙。溜息が聞こえた。


「えっと……?」

『回ってます』

「……何が?」

『配信がですよ。田中さん。最初の方から、配信が回ってるんです』


 俺はドローンカメラを見る。


 赤い光は、煌煌と灯っていた。


『それともう一つ』


 島内さんはため息交じりに言った。


『いま、あなたの配信を百万人が見てます』


♢♢♢


 春巻き春男:おい、この動画ヤバイだろ。どうなってんだよ


 はうる:うん。ヤバイよね。深夜に見るもんじゃない


 島内:え、めっちゃ美味そうなんだけど。うわぁぁ、肉汁すっご


 じぇしか:ユッケもいいな~店で食えなくなって久しい……食べてぇ~


 ミレ:いいな~、マジで腹減ってきた


 ゴッチ:俺ちょっとコンビニ行ってくるわ……


 はうる:マジで美味そう~最高すぎる


 としのり:白米とか合いそうだよな。次は持ってきてくれ、アラサー


 高山:白米いいね~ そうなるとタレも欲しいな。次回はそれで頼む


 青爺:視聴者も増えてきたな。俺はお前が色んな人に見て貰えて嬉しいぞい……


 高山:古参乙


 ミレ:お


 あおい:気付いたwwwwwwwww


 ゴッチ:やっぱ回ってるの気付いてなかったのかwwwww


 あおい:イエーイアラサー見てる~?


 青爺:久しぶりだな! アラサー!


 はうる:みんなアラサーアラサー言い過ぎw


 しまむー:これからもモンスター料理配信頼むぞ~!!!


★★★


 作者です。三話はいかがだったでしょうか。皆さまが「おいしそう」と思えるような描写ができていれば幸いです。


 これからもおいしそうな食べ物がどんどん出てきますので、フォローや☆で応援いただけると、非常に励みになります! とくに☆を頂けると泣いて喜びます!


 今後もお付き合いのほどよろしくお願いいたします! それでは!


 

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