第2話 アラサー社畜、配信を間違えてつけてしまう

 さて、準備のためにいちど帰宅したのち、そんなこんなで新宿に出来たダンジョン、【D-1】にやってきたわけだが。


「久しぶりだなぁ。この感じ」


 周囲を土で覆われた空間を見ながら、俺は呟く。壁には光る苔が無数に生えていて、地下ではあるがダンジョン内は明るかった。


「なんか、変わらないなぁ――と、感慨に耽ってる場合じゃないな。仕事仕事」


 俺は鞄からドローンカメラを取り出し、電源をつける。それは音も立てずに空中に浮くと、目線の高さでぴたりと止まった。どうやら機材も問題はなさそうだ。


「確か、予行練習として、実際に調理して、その様子を保存するよう言われてたな。で、配信はつけないでと」


 カメラの設定を行う。最新機種を使うのははじめてなので、見よう見まねだった。


「……ん?」


 そこで俺は眉を寄せた。カメラの横に、赤い光が点灯していたからだ。


「あれ、配信は始めてないはずだけど……いや、これ、電源ランプか? 説明書もないからわかんないぞ……」 


 ふむ、と少し思案する。


「まぁ、大丈夫だろ。多分」


 俺は一人頷く。


 その後で、支給された剣の状態も確認した。刃こぼれはなさそうだ。


「さて、じゃあ始めるか――」


 そこで、俺は小首をかしげた。


「といっても、何を作ろう。何を材料にすればいいんだ?」


 いまいち勝手が分からず、歩きながら悩んでみる。


「プルルッ!」

「ゴブゴブー!!」

「こいつらは食材にならなそうだしなぁ」


 スライムやゴブリンの攻撃を軽く躱しながら、顎に手を当てて考える。


「どいつを食えば良いんだろう。っていうか、どいつなら美味いんだ……?」


 うんうん唸りながら下層へ進む。そうしてとある広間に出ると、


「グォォォォォォォ!!!!」


 そこにドラゴンがいた。


「お、珍しい」


 ドラゴンは、襲いかかろうとするゴブリンの大軍を尻尾でなぎ払い、踏み潰しては返り討ちにしていた。ゴブリン達はやがて悲鳴を上げて逃げ出した。


「赤い鱗――クリムゾンドラゴンか」


 地響きにぐらつきながら、俺は呟く。


 S級モンスター、クリムゾンドラゴン。通常のドラゴンよりも凶暴で、高熱の火球を放つモンスターである。かなり数が少なく、出会うことは珍しい。そもそも本来はもっと下層にいるモンスターであるのだが……。


「ふむ――」


 俺はクリムゾンドラゴンの足を見る。引き締まった筋肉が鱗越しでも分かった。


「……あれ、もしかしたら美味いんじゃないのか?」


 普段食べてるステーキは、確か牛の筋肉だったはずだ。素人考えだが、引き締まった肉の方が、そうでない肉よりも美味そうな気がする。


 となれば――。


「よし。決めた。こいつを食材にしよう」


 俺は言いながらクリムゾンドラゴンに近づく。相手は俺の存在に気付き、臨戦態勢を取った。


「グォォォォォォッ!!!」

「さて、久しぶりにいくか――二割ってところだな」


 俺は腕まくりをしながら呟く。クリムゾンドラゴンは口を開くと、


「ゴギャァァァァァァ!!!」


 と、烈火の火球を吐き出してきた。


 大岩のようなその火球は、付近にあったゴブリンの死体を蒸発させながら俺の方へ近づいてくる。それを見ながら、俺は剣の柄に手を伸ばし、そして、


「――【サイキョー流剣術】、抜刀術の一」


 俺は息を整え、剣の柄を握ると、


「【理合】」


 剣を引き抜き、刃を横に振った。


 瞬間、眼前の景色が歪む。それはかまいたちのような飛ぶ斬撃がが、空気を攪拌した結果だった。斬撃はそのままクリムゾンドラゴンへ駆けると、火球をあっさりと切断し、そのまま相手の体へと到達した。


「グ、グギャァァァァァ!!!」


 斬撃はクリムゾンドラゴンに当たると、その体を両断し、その後方にある土の壁にクレーターのような裂傷を作った。赤い巨体はそれを背後に、そのまま、ずぅぅんと地上に倒れ込む。


「よし、一丁上がり」


 俺は袖を戻しながらドラゴンの亡骸へ近づく。


「腕もあんまりなまってないみたいで良かったな。これで仕留め損なってたら、師匠になんて言われるか分かったもんじゃない」


 そこで、ふと手が軽いことに気付いた。見ると、刃が粉々に砕けていた。


「やっぱ支給品はダメだな。次からは自分の刀持ってこよう」


 俺は言いながら、手刀でクリムゾンドラゴンの足を切り落とし、鱗を裂いて、キューブ状の肉塊にする。それは、ルビーのように赤く輝いており、白いサシが、天使の垂らす甘い糸のようにちりばめられていた。


「おぉ、結構美味そう!」


 不意に、腹が鳴った。そういえば晩飯を取っていなかった。


「よし、それじゃあ、腹も減ってきたことだし――」


 俺はフライパンを取り出しながら笑みを作る。


「料理といくか!」


 ♢♢♢


 春巻き春男:おい、この配信ヤバイだろ。どうなってんだよ


 しまむー:掲示板から。え? これソロでやったの?


 はうる:!? 今来たけど、クリムゾンドラゴンじゃん! ひ、一人で倒したのか? この疲れ切った感じのアラサーっぽい奴がひとりで?


 ミレ:ヤバイよな。普通、数十人がかりでやっとだぞ


 あおい:それもこいつ、剣の一撃でぶっ倒してたぞ。スキル使わずに


 ろーれんす:しかしネーミングセンスは壊滅的な模様www サイキョー流ww


 レネ:っていうか振った衝撃で剣が壊れてるんだが……どんな力だよ


 青爺:こいつ、どっかで見たことある気が……


 ミレ:おい


 はうる:は? 手刀で????


 はうる:え? あの鱗って斬れるもんなの……? し、しかも手刀で……?


 ゴッチ:正気じゃねぇわ。強すぎだろ


 としのり:スレから。三行で


 高山:アラサー 強すぎ ヤバイ


 ぺこ:拡散拡散拡散!!


 青爺:!!! こいつ、アイツだ!!! 思い出したぞ!! 数年ぶりに見たが、相変わらずの強さだな!! 当時から最強だとは思ってたけど


 ミレ:え? こいつ配信してたの? こんな強い奴無名なはずないんだけど


 青爺:danntyann.c0mで検索しろ。過去動画見れるぞ


 ゴッチ:助かる


 あおい:wwww過去動画見たけど最強過ぎるwww なんでこんなのが埋もれてたんだよwwwwww


 青爺:当時は配信者が飽和してたからな。そのせいで目にとまらなかったんだよ


 はうる:うん? 料理?


 島内:料理するの? クリムゾンドラゴンを? モンスターを調理なんて初めて聞いたぞ


 としのり:っていうか……


 ぺこ:うん


 ゴッチ:美味そうだな、あの肉……


 あおい:あと、なんかカメラ回ってるの気付いてなさそうじゃない?


☆☆☆

 

 作者からのお願い


 二話はいかがだったでしょうか! 楽しんで頂けたなら幸いです!


 今後も皆様を楽しませられるような物語を頑張って書いていくつもりですので、お付き合いの程よろしくお願い致します!


 また、フォローや☆などで応援して頂けると、本当に励みになります! 何卒、何卒よろしくお願い致します!!

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