第39話 隕石内不本意戦闘、ミナの視点
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隕石内不本意戦闘、ミナの視点
「おねがい、ミナ!」
大丈夫、絶対大丈夫。
わたしはかつてないほど集中出来ている。読み合いを外さない。リカバリールートも作れている。
「がんばって!」
ただ、返事は出来ない。ちゃんと聴こえている。頼られているのも分かっている。でも、今は声を発することが出来ない。
集中が一瞬でも緩むとすぐ視界が滲む。
下手に返事をすれば、すぐに泣いているのがバレてしまう。
「……っ!!!」
感情を無理やり飲み込み、メタニンちゃんと最初に出会った侵入口の向こうへと、苦しげに戦う小さなヒーローを追いやっていく。
瞬発的に発生させるタイプのバリアでは自動迎撃装置とわたしの同時攻撃を防ぎきれず、しかもそれを大雑把な攻撃に用いている為本体はかなり無防備で、射撃が当たる度にアニメチックで簡素でかわいい顔が痛そうな表情をしながら徐々に後退していく。
単調で単純な戦術と兵装を恐らくあえて使い続けて負けようとしている。
いくら単調と言っても、白銀の機体より明らかに強力なバリアを転用した不可視攻撃はかなりの脅威で、発動の度に巨大な破壊痕が壁や天井をえぐり取っていくので、危険度としても手加減している余裕は無いし、心情的にもメタニンちゃんに無闇な破壊行為なんてさせたくは無い。
好きな人が操られて大切なものを無理やり壊させられているのも辛いし、好きな人を自動装置とわたしで寄ってたかって痛めつけているのも辛い。
久々に苦味を強く感じる戦闘だ。
『せめてあと10分、メタニンを頼む!』
ナインさんの機体を通し、博士からも何度も通信が入る。
約束について博士から聞いてから、通信にもうまく応答出来ていない。ナインさんがうまく察してくれてなんとかなっているが、彼女も泣きかけていて防衛隊組は会話力が怪しい。
約束。メタニンちゃんが夢で見ていたという黒髪の女の子、メアリーさんとの約束。
メタニンちゃんの約束は、現人類のレベルから逸脱してしまった脅威を倒すこと。
博士の約束は、作りかけだった薬剤とメタニンちゃんを完成させること。
2人は当初それが何を意味するのか理解出来ていなかったらしい。
……そして、多分今もまだ理解しきれていない。
この隕石を破壊してしまうとメアリーさんが死んでしまうらしく、メタニンちゃんと博士はそれを必死に止めようとしている。詳しい状況や助け方はまだ聞けていないが、恐らく普通の状態ではないし、普通の手段でも無理なのだろう。
2人にとって大事な人を助けるか自ら殺すかのとんでもない重大な岐路のようだから、「その先」なんて考える余裕は無いだろう。
今まで話を聞いていた限りは博士と黒髪の女の子が同一人物みたいな感じだったと思うのだが、そこらへんの詳しい事情を聞いていられる時間もまだ無い。
お願い。お願いナインさん。多分メタニンちゃんは次が「最終決戦」だと思っている。わたし達の戦いは「その先」にある。
メアリーさんの事は全然知らないけれど、約束の内容だけでも何を危惧しているのかは分かる。過ぎた力を持つものとして、過ぎた力を葬ろうとしているのが分かる。
ずっと前、力が争いの火種になる的な話をナインさん達がしていたのを思い出す。
ダメだ。これはダメな流れだ。
きっと、メタニンちゃんの物語は思い出した辛い約束を覆すことで完成するのだろう。詳しい状況や条件は知らずとも、メタニンちゃんは必ず目的を果たす。
でもダメだ。単純で、明らかにダメな構図。過ぎた力を封じるのに過ぎた力が必要となる。過ぎた力で変異を起こし、その解決の為に更なる過ぎた力を生み出し、そして最後に生まれたのが全てを魔法みたいに解決出来る最強のヒーロー。
最後の、逸脱し過ぎた最強で最後の力。
ダメだ。
間違いなくメアリーさんはこの問題に気づいている。その約束をしたのなら見落とすわけがない。
自分と、自分の生み出した力を見逃したりしない。
メタニンちゃんにとっての「最終決戦」が終わった時、わたしが大事な友達と一緒に居られる可能性は限りなく低くなった。
嫌だ、本当に、嫌だ。理屈はちゃんと分かっている。何がダメなのかちゃんと分かっている。でも無理だ。わたしにはもう、メタニンちゃんが居ない世界は無理だ。
泣いていられるような場面じゃない。でも本当に無理だ。喉の奥が詰まって息がしづらい。このまま結末を迎えたら恐らくどんなエンディングにも博士とヒーローの姿は無い。
それにメタニンちゃんは博士や自分の力が争いの火種になりかねないとかなり初期段階から気づいていた。
もしかしたら別れの可能性を予見できていなかったのはわたしだけかも知れない。それを考えると余計に悔しくて苦しくて目元が潤む。
きっと、ナインさんは分かった上で今必死に考えてくれていると思う。地球を救いメタニンちゃん達の戦いをハッピーエンドで終わらせないとその先に進めないのだから、考えるべき事もやるべき事も山程あって、それでも絶対考え抜いてくれると思う。
時間だ。時間を作らなければ。今はこれがわたしにしか出来ない最優先事項。
泣いていられない。怯んでいられない。
覚悟を決めなければ。
一番愛している相手を叩きのめしてでも、正しいハッピーエンドを崩してでも、わたしはメタニンちゃんと一緒に生きていきたい。ヒーローに救われヒーローが去る他人任せの物語を越えたい。
なぜ平和になった世界からヒーローが去るのか分かった上で、ヒーロー作品を愛しヒーローに恋焦がれた自分を裏切ってでも、結末を変えたい。
幸い、感情がぐちゃぐちゃで動揺しきっていても、とにかく戦闘に全振りされているわたしの体は勝手に最適解で戦い、勝手に分析し、そして勝手に違和感を見出してくれている。
テンポの変わる行動。
時折何か強大な攻撃な気配がわたしに向けられて、苦しそうにメタニンちゃんがそれを止めている。恐らくこれが鍵になる。
意志に反して人類から逸脱した脅威に攻撃してしまう今の彼女が、わたしと白銀の機体に反応しているのならば。
メタニンちゃん達にとっての最終決戦の「その先」に、わたしの戦いが待っている。
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