第34話 はじめての外出の終わり

眠くなりすぎてどこまでが現実だったかもうよく覚えていない。


病院の精霊にバリアを張ったような気がするし、地球防衛隊の人達も参戦して凄く良い感じの撃退シーンになっていたような気もするけど、分身した白銀の機体が超巨大な光の剣を持って乱舞してたのは寝落ち後の夢というかゲームと誤認整理して混ざっちゃったデータ化ミスだと思う。



「あっ……ナインさん、メタニンちゃんが起きそうかも」

「了解です」


ミナとナインの声。スリープが解除されていく感覚。そういえば夢をあれから見れていないな。


いや、まずは夢より現実だ。そうだ、そうだった、大ピンチの途中で眠るとかいうとんでもないミスを犯したような。


「お、お、おはようございます。あの、大丈夫だった……?」



恐る恐る目を覚ますとそこは白銀の機体のコクピット内で、リクライニングというかもう180度水平になってる後部座席でだいぶ長いこと爆睡していたようだった。


どうやら睡眠時間は10時間ほどで、ついさっき防衛隊の人が全員病院の精霊から退院し終わり、もうじき私が目覚めるかもと話していた所だったらしい。既に大きな精霊を喚んでいる状態なので人数が複数でも消費はナインの時とさほど変わらなかった感じっぽいし、こうなると余計に起きるまで100時間ほどかかったミナがどんな状態だったのかますます不安になる。


どこだか良く分からない岩場の影に居るので直接目視は出来ないが、精霊に届く感じで中に誰も居なくなったら閉館するようお願いするとすぐに精霊界へと帰っていったらしく、負荷が無くなりレーダーからも建造物が消えていった。


状況を聞く合間に「急に眠っちゃってゴメン」と謝ると、それをキッカケに気遣い合戦が発生してしまい大変なことになる。確かにちょっと信頼してなかったみたいな悪さもあるけど、その、普通に人手は多い方が良いし、病院を喚ぶにしたってもっと安全に出せる状態で喚べたほうが良かったわけで、以後ちゃんと頼りつつ改善すべきは改善する為に今後の検討材料とさせて頂こうと思います。はい。


ただ確かにどんな行動もメリットとデメリットがあって、私の行動でミナが万全の状態で迎え撃てて、地球防衛隊の怪我人が強制入院させられ無茶する事も無かったんだという説得により、心がちょっと軽くはなった。エースに託すのはなんかチームっぽくて格好良いし、思ったよりは悪くなかったんだ。良いとこだけ捉えて安心し切るのもアレだけど、ちょっと安心。


そう言うと向こうも少しホッとしたような反応をして、なるほど思いやりとかそういう優しい心の方向でもすれ違う時はすれ違うし難しいものは難しいんだなと学ぶ。



「で、集めきれるはずもない大量の鹵獲用パクリ機が民間企業にも流れた」

「しれっと急にマズイ情報が出たけど!?」

「せめて火星独立とかいう大きめの問題を覆して逆に本社に感謝されるような取引材料になれば良いんだけど、そんな上手くいくかボクには分からない。あくまでコクピットが頑丈になる方向だけで、他は既存と大差無いと言うかパクリ設計だから大丈夫だとは思いたいけどパワーバランスに影響あったら火種かもなぁ……」


着実に火種が撒かれているというかやっぱりハカセが世界の揉め事を左右出来る死の商人として着実にデモンストレーションされてしまっているような。


「今火星に居る企業は大体地球防衛隊と繋がっているからどこが拾っても大差無いと思うわ。自社だけが損する構図は絶対に回避するけど、睨み合いの中で欲をかきすぎて出る杭が打たれない程度には抑えて動くはずだし」


ミナが優しく助け舟を出してくれるが全然真っ黒である。穏やかな口調で聞きたくなさ過ぎる。



そして不穏な会話をしながらも、どうやら2人は帰る準備を進めている。地球防衛隊の仲間と話したり情報交換とかもっと数日かけてやらなくていいんだろうか。


「なんだかとんでもないビームで洗脳された奴らが誰かから色々聞いてある程度事情を分かってくれていたからな」

「あっ、ご、ごめん、つい急いでて……」

「おかげで色々楽だったけど、後であのビームの学習元について博士とも話がしたいかな」

「お、おっしゃるとおりで……」


白銀の機体がふわりと浮かび上がる。


基地が視界に入ると、病院のあった近くの地面に「ありがとう」とか「ミニロボLOVE」とか「ASMR頼む」とか色々書いてあるのがコクピットモニタにズームで映し出され、近くで叱られたり揉めてるっぽい隊員が見えたり、死んだ目をした整備班っぽい人達が働いているのが見えたりする。


おお……こういう感じ……



「浅い欲にまみれた新参ミーハー共にメタニンちゃんを近づける気は無いの」

「ダメな感じの古参アイドルファンみたいになってるよミナ!」

「じゃあミナさん帰りましょうか」「そうね」

「あれ!?ナインは宥める感じじゃないの!?」

「ボクの彼女のハーレム要員が増えすぎるのはさすがに困る」

「ナインさん、あのね、最初で一番の人なのはわたしであってね」



何かの挨拶みたいに白銀の機体が剣を構えて何かポーズを取った後、ミナは本当に隕石に向かって急発進する。ナインのスラスターだらけの戦車ケンタウロス機体も結構なスピードで白銀の機体についてきて、私は挨拶もせず火星基地から去ることになる。



「うう……こっちの都合で迷惑をかけたのに謝罪どころかまともな会話も……」

「新参へのファンサービスは適度に控えめくらいでいいのよ」

「メタニンによる治療と部品の儲けで許してもらおう」


どうやらレーダー機部分による通信をかなり改善したらしく、隕石による通信妨害圏内でありがなら、ある程度の距離でなら物理回線じゃなくても離れた機体間で会話が出来ている。眠っている間に色々本当に頑張ってくれていたようだ。



「もっと情報とか集めなくて良かったの?」

「拾えるだけ拾った。それで急いでるのもある。道中説明する」



あっなんかちょっと不穏。やっぱり地球の方の事件も大きな問題だった気配がしてきた。


「とりあえず簡単に説明しておくと、植物変異事件をなんとかしないと地球が滅ぶ」

「思ったより最悪すぎる!!」

「あの隕石は破壊しちゃダメだ。あの森林区画が世界の希望かもしれない」

「でもあの隕石ぶつかったら多分地球滅ぶよね?」

「あの隕石は破壊しなくちゃダメだ」

「うーーーん!!話の整合性が!!!!」



ごめん火星の人達、本当に挨拶してる場合じゃなかった。


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