第32話 機体入れ替え作戦佳境、ミナの視点
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機体入れ替え作戦佳境、ミナの視点
博士の送り込んだ第三波部隊の端を削るように、地表と空中から複数の射線が鹵獲用機体達を貫いていく。
下手に陣形を広げさせない。分散されたほうが手がかかる。
ナインさんはもうかなり見えている。そして求めていた以上の成果を出しつつある。この射線は、地球防衛隊からの射撃が含まれている。
通信自体うまく出来ないのにどうやっているのか分からないが、基地に対する立体包囲を目指す上空の部隊に対し、それを変に弾こうというのではなく周囲に被害を広げないよう周りから押し潰す動きになりつつある。
数が圧倒的に負けている相手に上を抑えられていて、その対応にこちらが下から包囲する形をとるなんて馬鹿げているけれど、あのパクリ機体達は爆撃機でもなければ戦闘機でも無い。元となる設計が人型の棺桶と多脚の霊柩車だ。遮蔽の無い空に浮かんでいるとむしろ不安に感じるくらいで、そのうえ積極的な攻撃行動も取らずただ上を抑えようとしているだけ。既に別の包囲が崩れていて意味が無いのに、そのまま元の動きを実行しようとしているだけ。
こんな形で心配する箇所があるとしたら、それは変な所に落として変な被害が出るかも知れないという位置関係による物理的な問題であり、ナインさんも明らかに理解した動きになって尚且つそれを周囲に伝えている。
もちろん意図のズレた射撃やわたしを狙う射撃などもある。いつどんな場面でも全員が全員百点満点正解だけの動きになんてならない。
でも、理想的な動きというのは何一つ失敗しない動きの事ではない。正しい設計には正しく誤差を許容する公差があるように、理想的な動きには失敗率という絶対に数値が0にならないものを十分カバー出来る予測と実行の許容幅がある。
だからこそ、マップやレーダーからは”今”ではなく”過去と未来”が見えなければならない。どうしてこうなっているか理解し、次の予測幅を広く取れれば取れるほど出来ることが増えていく。特にナインさんには絶対に要る。彼女のようにヒーロー資質があり誰かを救うための嗅覚が優れている人こそ、その為に動く時の視野や選択肢は広くなければ。
もっと前の時代の地球防衛隊には多少なりともこの手の座学や訓練があった筈だけど、今の地球防衛隊でそれが分かっていて教えられるような人が長生き出来るわけもなく、気長に職場内学習設備を作ったりそこで学ぶような時間もお金も無い。多少は伝えられるであろう知識と経験のあるわたしだって本当ならとっくに死んでいた。ついでに物事を教えるのが苦手というか知的な会話が致命的に下手だし、ゲーム由来の知識も混ざっていて信頼度がとても低い。
好きなことや得意なことについて語ると喋りすぎて逆に伝わらず、苦手なものは全然分からない。恥ずかしながらこれでエースを名乗っているわけで本当に恥ずかしい。
わたしがもっとちゃんと喋るのが上手で、人の気持ちにもっと気付ける人間だったら、役割をこなしたメタニンちゃんから笑顔で後を任せてもらえた筈だった。
いつもいつも、どうしてわたしには好きな相手の気持ちすら分からないのだろう。あの期待を遥かに越える成果でまさか謝らせる羽目になるとは夢にも思わなかった。これをやらかす度に喉の奥をなにかに掴まれたような苦しさを味わう。もうこれに怯まないと決めてはいるが、また見えていなかったと気づいた時に感じる苦味が消えることは無い。
あの僅かな時間で複数の有人機部隊を丸ごと無傷で倒して、蓄積ダメージを含む今動いてほしくないパイロットを選別して病院に叩き込んで、棺桶機体の改修を既に始めていた。メタニンちゃん以外の誰にこれが出来るというのか。
あの状況から体勢を整えられるだけの時間を生み出し、わたしがフリーになった。この戦闘だけじゃなく博士や地球の状況を把握する別の戦いを抱えてくれているナインさんとは違い、わたしは完全に自由に動ける状態になっていた。
この状況で安心して頼られなくて、何がエースなのか。
メタニンちゃんがなにかした結果突然現れたオーパーツとも呼ぶべきゲーミング機器。予測処理や自動補正に人間が合わせる今の主流の装置と違い、わたしのやりたいことそのものをそのまま伝えてくれる旧世代の機器。そして自在に調整出来る感度と、強弱を好きなように決められる補正調整。
この白銀の機体だけでも世界がひっくり返るようなバランスブレイカーで、それを今は操作面まで完全に任せられている。この状況を夢見たわたしの同類は無数に居るだろう。それも大好きな人を守るために託された機体であり、大好きな人に強化された機体でもある。
やってみせるし、出来ないわけがない。
十分以上に役割を果たしてくれて、あれは当然のように任せて良い場面だったと、謝る必要なんて全く無かったんだと思わせて見せる。
友達として、エースとして、絶対に。
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