第28話 労働組合とか機能してない


「大精霊!総合病院ー!」


対地球防衛隊有人機戦に限って言えば、ビーム一発で決着はもうついた。正確には一発というか大量の追尾光線だけど。


で、何はともあれ、生身の人間と戦ったらまず病院。私はかなり賢いので以前の戦いで人間の脆さを学習済みなのだ。あとあんまり言いたく無いけど地球防衛隊の方針がろくでもないのでパイロットが元からダメージ背負いがちなのも学習してある。


マジカル空間を元に戻し魔法少女の変身も解いたので基地の周囲は一瞬元の姿に戻ったが、気を緩める隙も無く今度はすぐ隣に巨大な病院が突然建って、エアロックも無い入り口に主力部隊のパイロット達が自分から勝手に入っていくので、基地内部はだいぶ騒然としている様子だった。申し訳無さが凄い。


変な怪我してる人とか重いダメージ背負ってる人が居なかったらすぐ帰すから。安全性能高めた機体とセットで帰すから。



AIを搭載していない補助機体みたいなのはさすがにNTR出来なかったが、お願いを聞いてくれるようになった無人機やAI搭載有人機はハート目を灯したまま周辺に無数に散らばっているパクリ機体を鹵獲していき、まず最低限必要な新有人機を元機体とのパッチワークで組み上げ始める。


ナインごめん。上層部の説得が云々とか、現場がどうなるかとか、きっとどうやって上手いこと鹵獲して貰う実際に使える段階まで持っていくかみたいな事を真面目に考えてくれてた筈なんだよね。


実際これって相手の意思を奪ってこちらの都合を強引に押し通すどう考えても悪役な洗脳系の裏技なので、もちろん本当はあんまりやっちゃダメで、本来ならナインに作戦を考えて貰ってミナと私で実行する方がきっと良かった。


ただ、緊急時にすぐ解決出来る手段を持っていて、それをあえて使わず状況の悪化を見過ごすのもどうかと思うから、一旦許して欲しい。なんかこんなんばっかりだな。というか緊急時に必要とされるのがヒーローなんだから毎回緊急特例になってしまうのでは。予定通り万全に解決するような異常事態って異常事態では無いのでは。



「メ……!何やっ……!」


まずい、ナインにバレかも知れない。メテオタベタラーはかなり遠くにいるが、その近くでセットで動いていてもナインが乗っているのはレーダー機だ。突然病院が生えてきたらさすがに分かってしまうか。もしかしたらミナにもバレている。


そして今すごく眠い。ヒーローモードの反動もあるし、やっぱり大精霊は度合いが違う。本来存在しない巨大物質の維持と、医者の精霊と、わりと魔法の混ざってるマジカル科学医療だ。さすがに処理が複雑なのかも知れない。


でも、まだ叱られたり眠ったりしていられない。無茶でずるいことをしてでも段階を無理やり進めたのはこの後の問題がまだ不確定だからだ。


大精霊病院の待合室に行って、診察の順番待ちをしている地球防衛隊員のハート目女性パイロットに声をかける。出払っていた理由である事件の内容を早く知っておきたい。



「事件というか、火星労働者が火星人として独立するからって地球に宣戦布告したのよ。で、該当企業お抱えの上層部から穏便に鎮圧してこいって指示が出まくって大変だったわけ」

「めちゃめちゃ大事件じゃん!?やばい私達もすぐ行かなきゃ」

「でももう意味無いから大体解散してたわよ」

「えっ」

「ほら、地球からの避難先が火星になったら、今火星に飛ばされてるような人達はもっととんでもない場所に追い出されるでしょ。だから居場所を渡さないために最後の悪あがきで宣戦布告みたいな話になってたんだけど、これって今思えば博士がすぐ目の前の火星に攻撃を仕掛けないっていう甘々な前提での揉め事だからもう意味無いのよね」

「んーーー」


今は通信が大変な上に距離も遠いので地球側がどこまでリアルタイムの状況を把握出来ているかよく分からないけど、「博士から逃げる為に博士が今居る場所に避難なんてバカなことするわけ無い」というのと、「火星以外どこに避難するんだ」という二択で向こうもどうせメチャクチャになっているだろうと教わる。


たぶん宇宙ステーションとかでっかい宇宙船が一時しのぎ案として採用になるだろうけど、コロニーとかは無いらしい。


「まずとにかく水とか氷のある天体に基地を作らないと。少人数での調査ならともかく大勢の人間が滞在となったらせめて酸素や飲料水だけでも近場の水から作れないとさすがに怖いもの。水素燃料も欲しいし、やっぱり地球から行ける距離で氷がある星が安牌よ。まぁそれが月とか火星なんだけど避難先にはちょっとね……水星かいっそ金星……うーん……」

「そういえば火星以外の基地ってどうなってるの?」

「調査用とか小規模なのが色々な星にあるにはあるんだけど、この色々厳しい火星にいる人達が絶対に行きたくない感じね。金星が意外といけそうに見えてヤバかったのよね」


ハカセがなんでも取り出してくるから感覚がおかしくなるけれど、どうやら現代の普通の科学力では普通に水を分解して酸素と水素を取り出したりしているらしい。私は一応かわいいマジカルロボットなので呼吸もしないしご飯も要らないからそこらへんの把握がちょっと苦手だ。


公的な宇宙探査記録などは沢山データにあるけどまぁまぁ難しくてよく分からないし、企業による宇宙開発の方は経済ニュースなのでそこまで逐一分類化や学習データ化がされていない。暇があったら脳内の情報を色々漁ったり普通に地球防衛隊の端末とか借りてゆっくり色々調べたいけど、それはまぁ時間を作ってからだ。


まずは今この現場を問題ないレベルまで解決しておかなければ。


「後はまぁパニックが起きて警備じゃどうにもならなくなったらうちらで沈静化かな。でもああいう派遣されてる事自体が心に来る現場じゃ精神安定させる処理とか装置が大体あるからねー。衝動的な大暴れは冷静な反逆よりむしろハードル高いのよ」

「うわ……」


なんか、今のところ私の観測範囲内の人類の職場って基本ろくでもないような気がする……。学習データ内の情報だともっとマイルドなんだけど、人類による人類の扱いがなんかちょっとなぁ……。


ナインが私にあんまり外のことを言いたくなかったのもちょっと分かる。データによる知識はあっても具体的な現場事例を言われるとやっぱりちょっと生々しい。


色々話してくれた姉御感のある褐色お姉さん隊員は、その後何かの薬を院内薬局に受け取りに行き、私に投げキッスしながら病院外へと去っていく。



外では鹵獲機と既存機のパッチワーク有人改修機が着々と準備されており、NTRビームを食らっていない基地内に居た隊員達も意外とすんなり協力しはじめていた。


露骨に警戒していたり安全性を確認しようと頭を悩ませて様々なテストをしているメカニックっぽい人達が多分一番頼れる人達だが、どうやら上からは企業含む各派閥から鹵獲機に対し色々利益確保の為の指示が飛び交っているらしく、そして第三波を恐れる現場目線からも壊された有人機や目をハートにして動かなくなった意味不明の有人機の緊急改修が必須であり、わりと本来の目的であるボロ有人機の入れ替え自体はこのまま達成出来そうな感じになっていた。


普通はせめてコクピット部分だけでも信頼ある自分達のものを使いたいだろうけど、申し訳ないがそこだけはまともに機能せず交換必須になるようハート目有人機にお願いしてある。一番変えたいのがそこなので許して欲しい。


既に基地周辺だけでもミナにバラバラにされたパクリ機体のパーツが多すぎるので部品が足らなくなることはまず無いだろうけど、今までの話から想像するに色々全部解決できても今度はこれの企業間での奪い合いがあるんだろうなぁってのが見えてきて、ちょっとげんなりする。ハカセがメンテナンス性やパイロットの安全性だけに絞って強い武器とかは持たせなかった理由が今更よく分かったよ。


ハカセと夢で見る黒髪の女の子はメリットを生み出すとデメリットも生み出してしまうのを失敗だと認識して辛くて嘆き続けているけれど、実際に見て回るとこういうのって良し悪しが表裏一体のものだから普通はどうにもならないんだ。魔法でも無い限り。



多分このパーツの山が他所に流れたり、流用技術で他所のパイロットまで安全性が高まったりするのだろう。それ自体は大きなメリットだ。反面、コクピットの強度が上がればより過酷なところに行かされる事も増えるんだろうなとか、色々考えてしまう。ハカセのコクピットなら大丈夫だと思うけど、問題の本質はそもそも安全性能が足りていないのに平気で運用している人間の方であって、別にボロ有人機だって使い所が間違っているだけなのだ。


これで下手にこじらせたら人間を正しく導かなくてはみたいな考えになって私がラスボスルートになりかねない。それはそれで地獄を見がちな中間管理職や頑張ってる人も居るであろう上層部を一人一人の人間だと認識せず大きな主語で悪者だと決めつけている視点の偏った失敗思考なのだが、AI物語の定番になるだけはあるなとも思う。いっそ誰か上位存在にずばっと解決して欲しいみたいな欲だって分かるもの。



ただ、まぁそれはヒーローではない。ヒーローはみんなと友達なのであって、上に立つ指導者では無い。

群れ全体を良くしようと管理職の中で足掻いて頑張っているという意味での現実ヒーローは居るのだろうけど、そっちはジャンル違いなので任す。


教育要素を含む良い子の味方パターンともちょっと違う。悪い子とも友達だから悪いことをしてたら喧嘩するし困ってたら助けるのだ。



「まだちょっと眠れないかな……」


自分に言い聞かせるように呟く。頭がふわふわするが、第二波殲滅確認と、周辺施設が実際にどうなのか話だけじゃなく確認しておきたい。


それに、私が離れていたり眠っている時の保険をかけたい。


毎回毎回その場しのぎの強引な手ばかりではいつか取りこぼす。適任の精霊に今からもう適任の場所を守ってもらっておいたほうが良い。


ミナとナインとメテオタベタラーの手伝いもして、早く片付けたい。


ああ、考えることとやることが多過ぎる。


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