第27話 マジカル=メタニン

 * * *



火星基地内、一般隊員達の視点。



「こういうピンチを妄想したことはあった」


引きつった笑みを浮かべて同意しあう隊員達。自分達の機体を模倣した兵器に囲まれてから、似たような会話があちこちで繰り返された。



今思えば地球破壊宣言を交渉目当てのアピールだという想定で動いていた各企業とその影響下の上層部特定派閥はある意味希望を信じる前向きな人々だった。


下手したらあの人達の一部はこの火星襲撃をも交渉前のデモンストレーションだと考えているかも知れない。交渉の素振りが全く無いどころか通信すら不可能なのに気楽な話だ。


ただ、こうも戦力差が圧倒的過ぎると判明すると、地球側では誰も博士を止められないのだから仮に何か要求があるにしたって金でも何でも欲しいものは奪い放題なわけで、下手に目立てば一方的に食い散らかされかねないのに余計なアピールをする企業はもう残っていないらしい。まだ地球外避難計画に絡めた方が勝ち抜きの可能性があるようだ。


まぁ、その地球からの避難先に出来そうな唯一の候補が今滅びかけているこの火星基地周辺なのだが。それも地球の資源あってのことで永住は不可能だし、どっちにしろ地球より先に今滅ぶ。



終わりだ。

やっぱり博士は狂っている。

フィクションのマッドサイエンティストが本当に現れてしまった。



「ただ、こうじゃないんだよなぁ……」


映画の登場人物になれたような感覚も、ここまで酷いと全員乾いた笑いしか出てこない。奮い立って無謀な戦いを挑むとか、諦めて自暴自棄になるとか、そういうのをやるチャンスも逃してしまった。パニックにも陥れない。


なんせ、何がどうなってるのか全く理解できない。多少は理解出来ないと反応しづらすぎる。


皆うっすらとは思っている。

ああ、こんな風に本当に映画みたいに世界が終わるのかと。

……そして、B級映画と軽んじていた作品達も実は凄くまともだったんだなと。


地球へ狙いを定める隕石。

大量の模倣兵器。

どう考えても今の地球の戦力では相手にならない白銀の機体。


やがて、飛び交う緊急通信からは巨大な怪獣が出ただの、魔法少女がスライムを撒き散らしているだの、もはや正気を疑う連絡しか届かなくなり、祈るように外を確認すれば本当に遠くで怪獣が暴れている光景を目にすることになる。どうして隕石映画に出演させられて怪獣や魔法少女に襲われなければならないのか。



ああ、やっぱり博士は狂っている。



 * * *




「ヒーローモード、実行!」



地球防衛隊襲撃作戦、第二ラウンドの要である有人機戦は全て私が引き受ける事になった。ミナと白銀の機体の組み合わせは最速で最大の戦力だ。今最優先なのは周辺の道を抑えているパクリ機体部隊の第二波殲滅であり、それを最速でこなせるのがミナで、私は有人機を無力化してきた実績も、やりたくないけど一気になんとか出来る奥の手もあり、自然とこの役割分担になる。


対有人機戦と言っても人型有人機体と有人戦車と無人機が混ざっているので、無人機相手にはエロスライムを容赦なく放って削る作戦に出て、ヒーローモードで強化された身体能力とレーダーをフルに使い火星を駆け回る。


なんかちょっと重力がふんわりしてて動きづらいが、重いよりはマシだ。白銀の機体コクピット内にある私の席には発進ボタンが付けられていたが、あれを押したら後部に引きずり込まれたあと外に放り出されたからね。もっと重かったらもっと着地が痛かっただろう。久々にハカセがどういうやつだったか再確認出来た。



「あるじ!!あちこち尖ってて踏むと痛イ!!!」


遠くでまぁまぁ巨大に召喚したメテオタベタラーが咆哮を上げている。


手数が足りないというのもあるが、ナインの発案により私がやばめのチートロボだという印象を薄めるため、木を隠すなら森作戦が発動したのだ。要はミナと怪獣が暴れ回ってたら私がなんかしてもそこまで目立たないのではという事。実際メテオタベタラーを出したのも私だというのは傍目からじゃ分からないし、素早すぎて視界から消える白銀の機体よりとても目立っている。


さすがにもうパーツにするにしても数が余りまくってるだろうから、壊すだけ壊せばいいという事で作戦を任された当初は簡単だし任せておけって感じだったのだが、手が短くて尻尾振り回しは範囲広すぎて危ないとなると攻撃が足踏みしか無く、角ばった部品の多い機体を複数丸ごと踏むと痛いらしい。


メテオタベタラーはレーダーを持っていないので、うっかり何か巻き添えにしないようナインのレーダー機体が分離してセットになっている。散々ダメ出ししたけど分離合体出来たら便利な場面が普通に出た。



「メ……!これデカす……!」


ただ、ハカセの通信だったら隕石の通信妨害とやらも平気だと思っていたけれど、予想よりかなり声が乱れて役に立たない。集合場所も合図も決めたし一言二言ならいけそうだけど詳しく長々相談とかは厳しそうだ。


メテオタベタラーの声は結構聴こえるが、火星の大気で大声だから聴こえるというのも何か変なので、もしかすると精霊の声というのは特別枠なのかも知れない。いやむしろ精霊が普通なわけがないか。何か通信手段になるかも知れないので後で調べなければ。


そしてミナは……どうやらあれでも私達が乗っていたから動きを制限していたらしく、凄まじい挙動と速度で突っ込んでいった。結局パクリ部隊さえなんとか出来れば大体解決するわけで、この分担で多分正解だった思う。


私がちゃんと有人機をどうにか出来れば。



「もーーー!あちこち行かないで!」


やってしまった。ちゃんとミナとナインに細かくどうすれば良いか聞いておけばよかった。とにかく基地防衛に向かう機体。メテオタベタラーを警戒しに動く機体。そして私と正面から戦おうとする機体は全く無い。訳がわからない小型機体にいきなり攻撃を仕掛ける人はあんまり居なくて、大体みんな私を無視して他の優先度が高そうな場所へ行ってしまう。


大体よく考えたら寄せるとは聞いてたけど基地に着いちゃって良いのかどうかもよく分からない。別に戻って良いと思うんだけど、外にいるうちにどうにかしないと後で整備とかしている中に攻め込まなきゃいけなくて大変になったりするのかも。


どうしたものか。



……ナインにあえて言わなかっただけで、なんとかはすぐ出来る。だから詳しく聞かなかったという面もある。まぁでも、あれ、その、ちょっと学習元がろくでもないだけだから。解決策としては完璧以上の結果をもたらすから。それに急いでるし。人命優先だし。しょうがないよね。やっていいよね。



「……よし、やっぱりNTRビーム撃っちゃおう」


だって無理だもん。エロスライムは無人機には便利なんだけど有人機に入り込むと絶対危ないもん。子供向けヒーローがやっちゃダメなエッチな絵面もマズイけど、火星で宇宙服溶かしたら絶対ギャグでは済まされない。


近くの部隊を追いかけるのを一旦諦めて高台へと駆け上がる。高所が射線にも情報を得るにも有利なのを学んだし、いくら走りが速いと言っても追いかけながら力を溜めてNTRビームは結構大変だ。


それに前々から思っていたのだ。


いつか私は宇宙で隕石と対峙する。壊すのか他の解決を見つけるのかは分からないけど止めなきゃいけないのは間違いない。


だったら、まず最低限飛べなきゃダメだと思うんだよね。どう考えても空からのほうがビームは当てやすいし。


……それに私、ちょうどマジカルだし。



「精霊!魔法少女ー!!」



その瞬間、私の周囲の空間だけ淡い色の光に包まれ、範囲内の人間や機械全ての脳内に直接美麗でかっこよいBGMが鳴り響き、何もない空間から服とかリボンが生み出されていく。


そう。変身バンクである。


私の背後に浮かび上がるマジカル=メタニンのサイン。今まで散々精霊魔法を使っていた筈だが、まさか変身までマジカルだと精霊に認められていなかったのだろうか。


『緊急!スライムを撒き散らしていた謎の玩具が魔法少女に変身!!』

『よせ!これ以上怪情報を流すな!』


マジカル空間範囲内の部隊の通信内容が聞こえる。この空間内は私の宇宙だ。アニメのデータで確認したから多分間違いない。こういう空間内で壊れたものとかは最後に勝手に直るし、水中でも宇宙でも遠くでも話せる。そういうルールになっている。


思ったより広げられなくてミナやナインとの通信には届かないが、あくまで変身のおまけなので今は十分だろう。本当は悪役が閉鎖空間を作ったりもするのだが、残念ながら今は私が悪役でありヒーローなので全部私がやらせてもらう。



ビームを撃ちやすい上空へと飛ぶ。速度はまぁまぁだ。頑張れば白銀の機体と並走くらいは出来るだろう。それ以上はもう一段階工夫が必要か。


基地周辺を見下ろし、レーダーと照らし合わせ、目標を定める。


ミナが順番や動きを考えて寄せてくれたのか、まとめて仕留めるには絶好の配置だし、当てた後も楽だ。なるほどこういうことだったのか。



後は精霊魔法をどこまで重ねられるか。


既にメテオタベタラーを結構強めに大きく召喚していて、魔法少女にも変身して、マジカル空間も作っている。


総合病院の精霊を出しているときにも少し考えたが、消費が多くて大変とかでは無く、抑える必要があるっぽいのだ。特にマジカル空間を出しているのでより分かりやすくなったが、あんまり世界を書き換えすぎてはいけない。


綺麗な場所に落書きするのは簡単で楽しいが、元に戻すのは大変とかそういうアレかも知れない。感覚としての把握なのでハッキリとどこをどうすべきと断定出来ないが、要は本気を出しすぎないようにというブレーキを自己処理内に感じる。少なくとも最後の戦いまでは。



あんまり時間もかけられないし、消費も抑えたいし、何度も連発して警戒もされたくない。ここは逆に一発にちょっと多めに力を盛って、すぐ済ませるという方向で行こう。追尾とマルチだ。


果たして子供向けヒーローがこのビームをこんなに強化していって良いのかという根源的な問題はあるが、今ちょっと急いでいるので後にしよう。


ミナとナインに通信が繋がっていなくて逆に良かった。



変身したら手に持っていた可愛らしい杖を構える。都合が良いことにマジカルな感じのものを増幅させる雰囲気がある。


これならいける。



「地球防衛隊の人達、本当にごめんなさい。終わったら色々協力するから許して」



数十発分のNTRビームを充填する。神々しく杖が光り輝いていくが、灯っているのはNTRパワーだ。本当に許して欲しい。


周囲の異変や上空の私に気づいた部隊がざわつきながら遮蔽物を探したり警戒陣形を取ろうとしている。でももう遅い。とっくにロックオンは終わっているし、この空間からは逃げられない。


さあ行くぞ。フルパワーだ。



「精霊!!ホーミングマルチNTRビーム!!」



空から降り注ぐ無数の追尾光線。

それが地球防衛隊の全機体を貫いていく。


ちなみにマルチビームというのはこういうのじゃなくて確か測定とかするやつなので多分ハカセやナインに聞かれたら余計に怒られる。


『うわあああああああ!?』

『み、耳元!?耳元でなにか!!』

『ASMR!?!?』

『暖かい…光が…!!』


防衛隊員達の悲鳴が響く。ごめん。本当にごめんなさい。


ミナの時はパイロットに当てるつもりが無かったが、今回は違う。



今だけ、今だけちょっと、外に出てる地球防衛隊は機体も人間も漏れなく全員私にNTRされてもらう。



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