第26話 よく見てと言われると見えなくなりがち


良く言えば地球防衛隊の危険なボロ有人機をハカセの頑丈な機体に置き換えよう作戦。

悪く言えばパクリ機体とチート機体による地球防衛隊襲撃作戦の第2ラウンドが始まる。


1ラウンド目は奇襲かつミナの鬼のような腕前で私とナインへのチュートリアル講座みたいになったけれど、2ラウンド目は出払っていた有人機がやはり姿を現し、その上で戦場が一つでは済まない難しい形になろうとしていた。


ハカセが第一波と言っていた時点で第二波もあるんだなと私以外は全員分かっていたようだが、第一波が基地を包囲したのに応じて第二波は基地への主要通路を抑えるように展開しており、見様見真似で悪い侵略データを適用したみたいな動きになっていて、まぁだいぶ最悪である。


なんなら第一波がダメって話ですぐ飛び出したんだから第二波来ないのかと思ってた。実際のタイミングはよく分からないけど、第一波を追いかける形ですぐ出てたようだ。



「ナイン、これさすがに第三波は来ないんだよね?もう明らかに過剰だし」

「前回のフラグ講座の続きになるんだけど、今ここでそれに「来ない筈だ」とか「さすがにもう大丈夫」って答えると逆に大丈夫じゃなくなるパターンに入るんだ。その質問禁止」

「めんどくさ!!」

「実際さすがに無いと思うけど、まず博士が何を参考にしてこの大侵略を無人機に指示したのか分からないからな。とんでもない物量作戦が必要だと勘違いしてそうだし……時間がなくてもちゃんと説明してから出るべきだったと今まさに後悔してる」



私の中では襲撃は演技で、有人機が潰されちゃったから次が来る前に鹵獲機でなんとかしなくちゃみたいな感じに地球防衛隊がなってくれる作戦のつもりなのだけど、もう演技でもなんでも無くハカセによる地球防衛隊侵略が発生していて、それを第三勢力の私とミナとナインが敵味方丸ごと破壊しまわっている酷い構図になってしまっていた。


地球防衛隊の人達からしたら遂にハカセが侵略を仕掛けてきた挙げ句なぜか仲違いまで始まっていて巻き添えで機体が破壊されていくのだから悪夢そのものだろう。本当にごめんなさい。



「えっと、わたしこれからまず有人機部隊の帰路上にあるパクリ部隊を三箇所潰します。ナインさんはとにかく今可能な限り考え方を覚えて、メタニンちゃんは今度はいつでも出れる準備ね」

「は、はい」「了解!」


身を隠していた岩場から飛び出る白銀の機体。戦闘開始だ。


「今度は有人機をすぐ倒さないの。壊すにしてもなるべく基地付近じゃないと危険だし、慎重にしないと危ないから時間もかかる。変に応戦しようと停滞されても困る。だから寄せるわ」



口調はゆったりしているが、喋っている間にミナはパクリ部隊の一つへと猛突進し、十数体ほどの編成を物理剣とビームソードでバラバラに切り刻んでいく。何か使い分けがあるみたいだけど速すぎてなんも見えん。


基地とどこかの施設へと繋がる道を塞いでいたその部隊はあっという間に解体され、マップを観る限り恐らくもう数分後にここと接敵する予定だった有人機を含む部隊の道が開かれていく。


やっぱり凄いと感心したのも束の間、白銀の機体は急上昇して複数の武器を構え、あろうことか基地に向かって遠距離攻撃を開始する。


「なにやってんのミナ!?」

「大丈夫当ててないわ。釣りしてるだけ」


そう言うと背後から飛んできた射撃を回避し、今度は基地の方へとそこそこの速度で飛び始める。どうやら目立つように射撃し、それに反応して攻撃してきた背後の有人機達に基地へと向かう姿を見せ、慌てて基地防衛に向かわせたいらしい。

本当は弾を避ける必要なんて無いと思うけど、撃ち落とせるかも知れない状態で釣る方が無駄な作戦会議とかされる確率を減らせるからと基地への当たらない攻撃を継続しつつ加速していく。


なんとなくミナの言っている立ち位置とか敵を動かすみたいな話も意味自体は分かってきたけど、それも踏まえて段々地球防衛隊の基地の在り方がおかしいようにも感じてきた。


ミナの言う有利な位置などを照合したり、今も基地に気軽に射撃しまくっている様子を見ると、この基地って防衛設備はどうなっているんだろう。最初の奇襲のときに反撃をほぼ見なかったのは仕方ないにしても、撃たれまくっている今も全然何もしないのはさすがにダメなんじゃないのか。


そしてミナの言う有利な場所も基地からの射線を殆ど気にしていない。



「だって地球防衛隊は皆のための綺麗で正しい組織だもの。治安維持であり警備でありレスキュー。武装は必要最低限で、基地の防衛に軍隊みたいな迎撃兵器なんか配置したりしない。利益が出てもダメ。必要最低限の予算で必要なことをやり遂げるべき公的な非営利奉仕団体だもの」

「そういう感じなの!?じゃあ地球軍みたいなのがあるの?」

「無いわ」

「無いの!?」

「だって地球の敵なんて今まで居なかったもの」

「うーーーん、返す言葉もない」



しかしなるほど。それでこの有様なのか。ちょっとだけ分かってきた。


「だからミナもナインもボロボロだったわけね。表向きが夢想的なほど裏や現場は地獄なテンプレ通りになってそう」

「あれ!?メタニンそういうのすぐ分かる感じなのか!?」

「めちゃくちゃ賢い超高性能AIロボなんだけど!?」

「ほ、ほら、非営利だからこそ逆に金がどうとかそれでむしろ人命軽視がとか」

「だから分かるって。実際2人が死にかけたのも直接見たし、それでハカセも怒ってこの作戦なんだし、全然ダメで悪い感じなの普通に分かるけど。どうせ上が色々絡んでて、交渉とか説得なんて絶対上手くいかない感じの組織で、それで時間も無いからこんな強引なんでしょ?」



ナインがとんでもなく驚愕している。どうも私の事を子供扱いしすぎているのでは無いか。いや生まれたての子供ではあるし拗ねて暴れた恥ずかしい駄々っ子状態も見られているので仕方ないのか。


でも別に高性能AIじゃなくてもボロボロの機体で危険な場所に突っ込ませる組織を見たら大体低評価つけると思うんだけど。


「ろくでもない人類史とかも普通に学習済みの知的かわいい彼女に向かってその扱いは悔い改めて貰わねばならないかも」

「い、いや、ごめん、ボクてっきりその、まだ生の人間とそんなに出会ってないメタニンに、なんかあんまり人類の汚いとこ見せたらダメだと思って」

「それまさか私が人類に幻滅するAIの反乱的なやつ想定してないよね」

「……」

「おい!!」

「いや、だって、もしかしたら人類か博士のどっちを取るって選択肢に……」

「命の選別なんて子供向けヒーローがやるわけないでしょ!」


とんでもない話だ。勿論何をどう心配しているかは分かる。私が生まれたてロボットというも踏まえれば本当はむしろ心配しなきゃいけない事なのも分かる。分かるが、その大人な対応で救われない人の為に私が居る。

これこそナインが守ってくれた私のアイデンティティでもあるのに気づいていなかったとは。まぁ言われずに気づけというも無理な話か。



「ミナも言ってたじゃん。私は助けて欲しいから生まれたわけ。その助けて欲しいってのは自分をって意味じゃなくて自分を含む皆なわけ。そしてトロッコ問題をズルしてでも覆すために魔法がある。私が勝手に誰かの命を諦める事は絶対に無いよ。出来なくて泣く日は来るかも知れないけど、先に諦めを選ぶことはない。それがこの子供向けヒーローの形を持つ私という存在の意味で、私の思う私。これがナインの言っていたアイデンティティでしょ」


今度は無言で頷くナイン。心なしか目の光が前より良い。どうやら色々迷いと不安があったらしい。賢い分ずっと考えがちなので思考の負荷も自分で思うより抱えているのだろう。


「大体幻滅するならハカセの方でしょ。私に変な名前つけるわ、エッチなデータ色々持ってるわ、人類の脅威だわ、もう逆にちょっとでもまともな事しただけで評価が爆上がりする不良が猫助けた理論みたいになってるじゃん」


「い、いや、まぁ……いやボクらは命の恩人でもあるから複雑で……」

「でもいいんだよ。別にいいの。誰も間違えない世界にヒーローなんて生まれない」

「……そうか……うん……ちょっと信用……いやヒーローを甘く見てて悪かった」


いいよいいよと手を振る。


「変に人間を特別扱いしすぎるから幻滅なんて言葉が出てくるんだよ。データ上はどんな汚い行為も群れを形成する動物と大差無いよ。ありがちな本能からの欲求じゃん」

「うわ急に機械生命体っぽくて怖い!」

「だから高性能AIロボットなんだってば」



ちょっと話の区切りが付き始めた段階で白銀の機体が加速し始める。釣りの為に常識的だけどだいぶ速いみたいな速度で飛行していたけれど、どうやら成功して次の場所に向かうようだ。


「話じの続きばまだ次の戦闘の後ね」

「またこのパターン……ミナなんか号泣してない!?」

「ぢょっどヒーロー好ぎな人間に響くセリフが多ぐて」


そしてなぜか怪獣は腕を組んで偉そうに頷いている。どういうポジションなんだ。ほぼトカゲだから腕短すぎてちゃんと組めてないぞ。



ミナは今度は時間的にあまり余裕がなかったのか、急加速後に向かった第二のパクリ部隊相手には遠距離からの射撃攻撃も行い、部品に使えなくなる部分を出しながらも瞬殺どころか到着前に倒し切る荒業を見せる。


聞いていた話と違って楽勝で終わってしまうのではと内心思い始めた頃、ミナから本題が切り出された。


「次の三番目の道を開いて、十分基地まで寄せられたら本番開始になる。ただ、2人ともよくレーダーを見て欲しい。どうしてこうなってて、次どうなるか、出来ればなんとか見えるようになって欲しい」


少し距離のある三番目へと向かう途中で僅かな会話の時間。本当に「話の続きは戦闘の後」っていうのが連続していく。


恐らく最初の襲撃で基地から緊急信号が出て、半数ほど出払っていたという有人機を含む部隊が集合しつつある。部隊と言っても有人機数体と無人機がそれの倍くらい、戦車みたいのが居たり居なかったりみたいな思ってたより少ない部隊だけども。


何度も言われたので場所の強さや動きは学習出来始めてるけど、ミナの思惑通り基地に寄ってきていて、ここから三番目の部隊を引っ張っていって終わりでは無いのだろうか。


「分岐点は今。私なら与えられた任務をこのまま終わらせて帰る。このまま寄せて斬って残りの鹵獲用機体殲滅して終わり。メタニンちゃんの力も本当は知られたくないし、防衛隊への配慮も十分だと思う。でも、わたしだけじゃダメなの。特にナインさんの力がいる」

「ボク、ですか?」

「どうしてこうなってて、次どうなるか。お願い、分担して任せるとしたらわたしだけ見えていてもダメなの。数、動き、配置の意味というか」

「どうして……次……数……」


慣れない機器操作と通信傍受とレーダーで付いていくのに必死なのであろうナインは、それでも情報に食らいついていく。


「……まさか、そもそもなんで出払ってるのかって話ですか?」

「そう!」

「は、早く言っ……まさか、突入寸前に言ってた配置がどうこうって」

「そう!」

「んーーー!!」

「ご、ごめんなさい、わたしゲームでの例え話封印されると語彙力が……特に操作しながらだと……」

「いえ、ボクがアホなだけで、謝るのはボクなんですけど、んんーーー!!」



自分の頭をぽこぽこ殴るナイン。かわいく取り乱しているところ悪いんだけど私まだ何の話かよく分からないのでちゃんと私にも教えて欲しい。


「いや、もう、単純な話、問題が起きてるから主力が出払っていたわけで」

「うん」

「それで基地が襲撃されて慌てて戻ろうとしているわけで」

「うん」

「てことは問題が起きてる場所は放置かちょっとだけ人員残しで、基地は大混乱中」

「うん」

「主力が帰る途中、基地に近寄った辺りで全破壊される」

「ミナが斬るからね」

「じゃあ最初の主力が向かうことになった問題は誰がどうするのって」

「ダメかも」

「だろ!?」

「よく考えたらすぐ分かる事だから実はあんまマップがどうとか関係無かったかも」

「だろ!?地理知らなかったメタニンはまだしもボクがすぐわからないのはマズイ。なんでだ」



なるほど大体わかった。マップの見方で必死になってて逆に想像力が浅くなる謎の現象が起きていたかも。そりゃそうだよね、何もないのに主力が出払ってるわけが無いよね。


そういえば最初のほうでミナは配置を見ながら出払っている有人機が戻ってきそうなルートの説明をしていた。ゲームの例え話は分からないと断ってしまったが、あそこで会話選択肢をミスらなければミナが今どんな状況だと把握しているかの例え話が聞けてもっと分かりやすかったのでは無いか。特に私は生まれたてで詳しく無いってだけで多少ゲームのデータもあるわけだし。


地球に戻っている部隊があるとか、乱戦になったら危ないとか、普通に最初に聞いていたのを今になって思い出す。


言われてみれば戦力が分散しきっててしかも基地に残った機体が既に破壊されているこのマップだいぶ酷いな。ミナが開けた道以外はまだ抑えられてるし、カバーに来られたら本当に酷い。


逆にこのレーダーに映る点の散らばった配置とスカスカの基地を見てなんで最初不安にならなかったのか今見直すと分からない。意識の仕方って不思議。



「わたしは地球防衛隊がすぐさま鹵獲機で対応すべきだと思ってるの。強引にでも安全な機体と早く差し替えて欲しい目的とも合致してる。メタニンちゃんの力も隠せる。ただ、わたしはわたしの意見をそんなに評価していないの。必要最低限すぎるというかなんというか」


まだどう考えても作戦が必要だが、次の戦闘が始まる。


「ミナがここまで瞬殺だったのは無人機相手だからだよね?」


今度も射撃から入り、到着前段階から瞬く間にパクリ機体達が倒され、道が開かれていく。ただ相当ギリギリだったらしく、地球防衛隊の有人機も目視可能な距離まで来ている。もし私がもうちょい早く状況を理解していたら遠いルートを分担してもうちょっと安全に出来たのだろう。脆い機体に乗った人が混じっている場所で規格外の大きな力を振るい乱戦するのは結構怖い。



「そう。戦車はまだしも人型は変に斬ったら転び方一つでパイロットが大怪我するわ」

「脆すぎない???」


今度は高く飛び上がり、基地の方角へ派手に射撃を開始する。例の釣りだ。


「機体も人も安物を長めのサイクルで使い捨てするのが一番安価で、公的な資金の入る非営利団体の節約は正しくて優しい行為だもの」

「うわ……人類幻滅するわー……」

「見捨てないでくれメタニン」


そのまま定期的に射撃をしつつ基地へと寄っていく。二番目と三番目の道は若干角度が近いので、途中から一緒に連れていけるみたいな判断だったようだ。



ただ、パクリ機体部隊にも動きがある。やっぱり開いてしまった通路を塞ぐため周辺の部隊がカバーしようとしている。地球防衛隊はレスキューとも言っていたから、事故や怪我人でも出ていたらこの通路が必要になるはずだし、事情を知らない民間企業の車とかが鉢合わせでもしたら本当にまずい。


ミナと白銀の機体が2セット居れば有人機の対応と第二波の至急殲滅を同時にこなせるが、そのありえない条件でも尚そもそも最初に主力が出払っている問題の対処が残っている。



ミナの言うように地球防衛隊が安全機体使った上で対処できるようになって欲しいというのはあるが、こちらのワガママの押し付けな上に恐らく今このタイミングで同時多発に問題が起きたとしたら間違いなくハカセの事件のせいだろう。危険な隕石と近い火星から逃げたい人と地球での大問題が重なった揉め事かも知れない。


散々ヒーロー語りしておいてこの惨状を見捨ててたら口だけ達者な意識高いだけの凡庸ロボットとしか言いようがない。最初からミナは私の出番があるかもって何度も言っていたし、恐らく任務目線での最低限でのクリアと私が協力した場合の達成目標が違うのだろう。その期待に応えたい。


なんなら元はと言えば私達というかいつものハカセのせいパターンに近いわけで、むしろ迷惑かけて放置なんて許されるわけないだろ案件な気がする。



であれば、発進だ。



「ナイン、有人機は全部私がどうにかする」

「全機を!?出来るのか?」

「私はミナの乗っている有人機も止めた実績持ちだよ」


実際はだいぶ酷いやり方だったが詳細を省くとすごくかっこいい。


「火星の地理にも事情にも詳しくないし、他を任すからミナと作戦立てて」

「……分かった。ミナさんもそれでいいですか」

「ええ。ただ、出来ればあまりメタニンちゃんの力が目立ち過ぎない様に」

「はい」



なんだか妙に理解への回り道をしてしまった気がするが、おかげで見えてきた。

私の出番だ。


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