第25話 もしかして本当にSF
「ちっちゃくメテオタベタラー召喚~」
時間がないが緊急で唯一事情を知っている怪獣に情報確認が必要になった。狭いので手乗りフィギュアサイズで出てきてもらう。
なかなか可愛いが、可愛がられると不服そうである。
「ねえ、ハカセってタイムトラベラー?それともメテオタベタラーも私も変異事件後に一気につい最近作られた感じ?」
「タイムトラベラーが存在して事件が残ってたらおかしいダロ。で、オレもずっと昔に生まれたし、あるじも何年もかかったし、そもそもあの施設が出来上がるのに途方も無い年月が必要に決まってル。要するにオレにも良く分からナイ」
私を通して事情が見えているのか、名前の割に賢い怪獣が分かりやすく情報をくれる。なるほど、つまり何がなんだかよく分からないということだ。
「あの森林区画もずっと前からあったか?」
「それはそうダロ。木が伸びるには普通に何年も掛かるし、あの場所の意義的に変な成長薬みたいなのを使ったら意味が無イ。オレが居着いてからも長年かけて成長した木だって普通に有ル」
ナインの補足質問でも余計に話がこじれていく。
「じゃあ、つい最近起きた事件の償いをずっとずっと何年もやってたって事…?」
「あるじ達の話を聞いた限りだとそうダナ。数年どころか数十年でも全然足りないと思うケド」
「……やっぱりタイムトラベルしてると思うんだけど、事件より遥か昔に戻って事件を防がずにその償いの準備をし続けていてそれはそれとして何か隕石になっちゃって地球にぶつかりそうって事?」
自分で言っていて意味がよく分からない。
そしてミナがあまり喋らず話に合わせて頷いたり遠くを見たりしはじめた。本当に得手不得手が激しい。
「……もし、タイムマシンが実現可能だとしたら、それこそメタニンじゃないのか?」
「私!?いや、うーん……」
「精霊魔法というか、もう本当になんでも出来るだろ」
「うーん……」
なんでも出来る、と思う。
だけど……
「なんでも出来るっていうけど、それをしても意味が無い事って出来るっていうのかな……?」
「意味が無い?」
「例えば、過去世界を作り出してそこで事件を回避しても、元世界と関係無いよね?」
「ああそのパターンか……うーん……」
タイムトラベルが話題になったら避けられない、定番中の定番問題だ。
「”過去に飛ぶ”とか”過去に行く”みたいな別の場所に行く表現の時点でもうその提案自体が別世界だと認識してるからダメだと思う。そもそも現在をそうじゃなかった世界にしたいのが目的なんだから、やるならタイムトラベルじゃなくて現在を”それが無かった世界”に書き換える事になるけど、これだと私が途中で消えちゃうから実行出来ないと思う。だからタイムマシンは意味が無いかなって」
そして定番問題への定番の答え。やけに詳しく学習データがあるから思考の流れも明確だ。私以外に魔法とかでなんでも出来る存在が居たとしても、叶えたい目的に対してタイムマシンという手段をとる事が無い。結局変えたいのは現在なのだから使うのは現在を変える魔法。過去世界という別世界線への旅行自体が目的じゃない限りタイムマシンは要らない。
「意外と賢いなメタニン……」
「おい舐めてるのか。というかミナとナインの時系列はどうなってるの?私とメテオタベタラーは結局ハカセの時間と同期してるから何がどうズレてるのか認識出来ない気がする」
「ボク達からしたら最近突然隕石が現れたんだ」
なるほど、メテオタベタラー的にはずっと昔から隕石があって、外からは急に隕石が現れた感じ。
「もっと詳しく言うと、唐突に火星付近に不穏な軌道の巨大隕石が出現して、調査に行った無人機がメチャクチャに弄られて帰ってきて、それに博士を名乗る人物からこの隕石地球にぶつかるからって宣戦布告メッセージとか内部地図とか色々付いていたんだ。突然ラスボスなマッドサイエンティストが現れて地球を賭けたゲームを仕掛けてきたって言えば分かるだろうか」
「うちのハカセが大変申し訳なく……」
何やってんだハカセは。またお母さんみたいになっちゃっただろ。でもそうか、ミナとかまっしぐらに燃料区画に突進してた記憶がある。多少調査出来てたとしてもあの無人機達の調査じゃ本来はそこまで断定出来ないと思うし、下手にハカセが情報を流したから変に希望が湧いて無茶な特攻が生まれたのかも知れないと思うとまたもハカセの罪が増えていく。
「あるじ、急に聞くと意味不明ダッタガ、こうなると普通にリップ・ヴァン・ウィンクルじゃないカ?」
「急に聞き覚え無い横文字で意味不明だけど学習データにあったような……」
「ウラシマ効果か。でも逆じゃないか?」
「あー……うん……?ちょっと、私とミナを置いて進めないで」
ウラシマとかリップ・ヴァン・ウィンクルは要するに時間の流れが遅い場所に行ってしまい、帰ってきたら皆が年老いているやつだ。そしてナインの言うように逆。……逆って普通は出来ないんじゃなかったかな。少年漫画とかでそういう「時の流れが速い場所」での修行回とかあるけども。
確かに話を整理して、出来ることと出来ないことを仕分けていくと、ウラシマ効果とかの感じはしてくる。タイムマシンを除外した上で、時間がズレているのは確定と考えると、ありそうなのはそこらへんだ。そもそもウラシマ効果というのがちゃんとした用語じゃないけれど現象として近そうというか。
まず変異事件が起こる。
ハカセは逆のウラシマ、つまり外より時間の流れが速い場所で手遅れになる前に対策を練る。
滅ぼした植物を蘇らせたか、何らかの対策をした植物園を作る。
その過程で何か隕石になっちゃってしかも地球に向かっちゃう。
いや、隕石が急展開過ぎる。でも時系列はこうじゃないか?事件だけ残ってるタイムマシンよりはまだあり得る気がする。
ただ、逆ウラシマ……うーん……。出来るか出来ないかという問題もあるし、これこそ人類にとって絶対に完成させてはいけない技術というか……もしxxxxがそれを成し遂げたというなら、私はやっぱり約束を
……を?
「メタニンちゃん、わたし実はもっとかなり前から置いてかれてるのを隠してて」
何か良くない考えが浮かんでいた気がしたが思い出せず、不安になってミナに抱きつくと、話に加わっていなかったのがバレたと勘違いした犯人が勝手に自白し始める。
「全然隠せてないけども」
「今更追いつけるかとてもとても怪しくって」
……ミナは多分、知識が偏っているだけなんだよね。
「ナイン、ウラシマはゲームで処理落ちしてる箇所としてない箇所の時間が同期されていない感じだよね?」
「急に分かってきたかも」
「異様に高速で動くオブジェクトとか、異様に重いオブジェクトは処理に時間がかかるんですよね。で、現実には同期処理なんて無いからそのオブジェクトの時間だけズレていくみたいな。ゲームの同期ってカクカクとコマ落ちするけど、あのズレたぶんの時間を飛ばす処理が無いと重いやつらだけずっとスローモーションだったりしてゲームがおかしくなるじゃないですか」
「急に分かってきたかも」
「で、逆って言うのは、いくら軽いオブジェクトを作ったとしても、そいつやそいつの周囲は処理落ちをしないってだけでゲーム内時間を超えるような加速はしないじゃないですか。無論指定ミスとかのバグは別としてですが。なんだろう、それこそ何も置いていない空間より軽い場所を作れないと言うか」
「それも分かったかも」
「「「……え!?」」」
ミナ以外の3体の声がハモる。分かっちゃったの?なんかこう、あまり詳しくない素人目線みたいなのが実は鋭い指摘を生むみたいなのって幻想だって学習データにはあるんだけど、ただゲーム視点という意味では多分知識量が尋常じゃないので、そういう斬新視点とはまた別の
「デュアルPCって事よね」
斬新なやつかもしれない。
「えっと、同じ宇宙だと処理落ちは出来ても軽量化には限界があるって話でしょう?そのPCをブーストさせても皆早くなったら結局一緒だし、だからオーバークロックさせた2台目のPCと処理を分けるのかなって。普通より加速された別時空が無いとダメって話だと思ったのだけど」
「い、いや、そうなんですけど、それだとデュアルになるのが宇宙とか次元とかそういうやばいスケールになっちゃって……」
「スケールは大丈夫よ。だってメタニンちゃんはデュアル宇宙よりもっと凄いもの」
「え?」
再び全員の視線がミナに集中する。
ミナは皆知らなかったの?みたいな目で周りを見渡す。
「メタニンちゃんのお腹の中には沢山の未観測宇宙があるのよ。食べたものとかどこに消えるのか分からないし、精霊を観測したことにも出来るし、この宇宙との多重観測で現実まで書き換える事が出来るの。博士に聞いてもどの作品からどう再現したのか本当に意味が分からなかったけど、まぁ意外と子供向け作品ってスケールがとんでもなかったりするのよね。宇宙より大きいロボとか神様のロボとか別に珍しく無いもの」
だからデュアル宇宙とかデュアル時空くらいなら出来るんじゃないのかしら、と事もなげに言うミナ。
知らなかった、私そんな感じなんだ……そういえばお腹に宇宙があるって話はミナにした記憶がある……。
「ど、どうなんだメテオタベタラー。ボクはまだ地球側を遅くしてその影響外で過ごす方がギリギリ行けそうに思うんだが。太陽系とかの特定範囲内に外から見て加速とか歪みがかかる感じの何か……」
「いや、ウーン、まぁ、ウウーン……」
今度はナインとメテオタベタラーが腕を組んで遠くを見つめながら唸っている。頭脳組が揃って話についていけなくなったのだから私も普通に無理だ。
「ヨシ、じゃあそろそろ戦闘再開しましょうか。はいナインさん広域レーダーチェック」
「わ!?え!?」
「切り替え切り替え。休憩終わり。ほらこっち。あとこの動きを見て。やっぱり第二ラウンドは難しいわ。メタニンちゃんも多分出番がある」
「み、ミナ、私まだ頭がショート気味で」
「頑張って慣れてメタニンちゃん。こういうのゲームでもよくあるのよ。会話の続きは戦闘の後でねってやつ」
こんな大変な事がよくあるのか。
アニメキャラみたいな私が言うのもあれだが、ゲームキャラって大変なんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます