第21話 幕間・ミッション前夜ミナ視点



ミッション前夜・ミナの視点



 * * *



自分の脳内が不安になってくる。


わたし、こんな感じじゃなかった。



目の前には可愛らしいパジャマを着たメタニンちゃん。


今まで服を着ていなかったロボットの女の子が衣装を身にまとう事で尋常ならざる可愛さを得て、ついでに肌の露出という概念が発生した。下着をつけても着けなくても謎の背徳感があり、頭がおかしくなる。


その隣にはふりふりでお嬢様みたいな寝巻きのナインさん。


普段中性的で短髪の子が突然フリルをまとったことにより、その、こう言ったら絶対怒られるけど、女の子にしか見えない男の子が女装をして女の子より可愛いみたいなややこしい背徳感を元々女の子であるナインさんに感じている。もうその感じ方自体が邪悪で絶対良くないと思うので、誰にも言えないけど誰かどうかわたしを叱ってほしい。



メタニンちゃんはわたしを一番の大事な友達と言って懐いてくれていて、ナインさんはわたしに憧れているとまで言ってくれて、それはそれとしてこの2人は彼女同士であり、わたしのベッドの上でイチャイチャしている。


そうはならんと思うの。


いや絶対そうはならんと思うの。



メタニンちゃんは本当に本当にわたしを大切に思ってくれていて、友達になるまでの紆余曲折でそこまで想われていたことに夜中勝手に涙が溢れるくらい嬉しかった。自分の浅はかさに絶望しながらも、メタニンちゃんが慕ってくれる自分の事を簡単に嫌いとか言っていられないとまで思うようになった。世界の色を鮮やかに変えていく、わたしの一番大切な人。わたしを大切にしてくれる人。わたしの全て。


それはそれとしてナインさんの彼女。



ナインさんは本来なら誰もがわたしの生存を諦めている筈の状況下で投げやりになったわけでも復讐でも無くただ一途に真面目に命懸けで助けに来てくれた後輩で、わたしを慕ってくれていて、それはもうとてもとても可愛い。変な性癖を植え付けられそうになってもいる。地球防衛隊の人達の中でここまで気にかけてくれて、そしてわたしも気にしている存在なんて他には居ない。


それはそれとしてメタニンちゃんの彼女。



「なんでーーー!?!?」


ベッドに頭を叩きつける。もう3度目くらいなので慣れた手付きで2人にあやされていく。



わたし、こんな感じじゃなかった。

構図は両手に花だ。構図は。片側から愛しいロボット少女。片側から性癖が不安になる可愛い後輩。わたしを挟むように3人同じ大きなベッドの上で語らい合う図。まるで思春期の学生の合宿のようなくすぐったくて柔らかな光景の中、わたしの中では温度差の激しい感情達が急旋回でぶつかり続けていて脳が摩擦熱でカリッカリに灼けていく。



なにより、お似合いすぎる。わたしはこの2人の構図を嫉妬に焼き焦がれつつ愛している。


ナインさんは自分をとんでもなく過小評価していてそれがまた脳を炙るが、メタニンちゃんから見れば完全に突然現れて迷子の自分を見つけてくれた王子様ヒーローそのものであり、その出会いのキッカケすらもわたしを救いに来たヒーロー行為が発端と、冷静な言動とは裏腹に紛うこと無き英雄体質である。


もしかしたら本人は全く気づいていないのかも知れないが、どう考えても力の及ばない場面で全く挫けず思考し続けるその性質は現実で望まれるヒーローの資質そのままだ。スーパーヒーローとはまた別の正解の形。


勿論力はあったほうが良いに決まってるけど、エースとまで呼ばれながら力で出来ることしか出来ないわたしという存在こそ資質の意味を際立たせる。「仕方がない」という諦めの言葉を常に胸に抱えてきたわたしは、きっと今まで自分で気づいていない取りこぼしが無数にある。


子供達の夢の塊であるスーパーヒーローと現実でかくあるべきヒーローのカップルを見て、いわゆるヒーローオタク気質な側面のわたしが胸を焦がし、メタニンちゃんに心を奪われ尽くした別側面のわたしが脳を焦がす。



「大丈夫だよミナ!」


メタニンちゃんの鈴のようなかわいい声。今の所わたしの脳内にはあんまり大丈夫な要素が見当たらないけど、なんだろう。


「私ロボットだから、最終的にはルール無用だもん」


最終的にも何も何らかの規格内に収まっていたことが一度たりとも無い。


「だから最終的にはミナともナインとも結婚していいんだよ」


……?……!?!?


「だからハーレムルートなの!」

「「ハーレムルート!?!?」」



突然正気に戻ったわたしと油断していたナインさんの裏返った声がハモる。



「だから全部の事件が片付いて、いつか好感度が皆マックス同士になったら、私達全員結婚しようね!!」


「んんーーーーー!!」

「あああーーーーーーー」



複数の意味でわたしとナインさんが同時に頭を抱えてベッドに顔をうずめる。


嬉しいとか驚愕とかどんな学習データなのかとか頭の中を無数の言葉が駆け巡るが、それに加えてこのタイミング。



まさか重大ミッション前夜に建設されるフラグの中でも伝説級の代物の当事者になる日がくるなんて。

それもハーレム????


こんなの感情が追いつくはずもない。

絶対そうはならんと思うの。本当に。


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