第19話 出発前の編隊確認
ハッキングか襲撃か。やるべきミッションはどちらも子供向けヒーローにやらせるものじゃ無さ過ぎるが、受注してしまった以上はもう完了まで降りることは出来ない。
最初はミッションが2つあるので2班に分かれて行動しようという意見が優勢だったのだが、メテオタベタラーが「地球防衛隊の方をさっさと片付けないとまた無謀な特攻されるぞ」と脅してきて、ハカセは『プロテクトって外して問題が起きない可能性のほうが少ないんだよな』とか他人事みたいにとんでもない事を言い出したので、満場一致でまず先に地球防衛隊の有人機破壊ミッションを実行することになった。
別に破壊が目的ではないのだが、ゴミカスだの棺桶だの散々なあだ名で呼ばれる機体に保護性能の微妙なパイロットスーツを着た人間が乗ってウロチョロしてたら普通に私も困るのでなんとかしたい。
……AI搭載無人機をAI搭載ロボの私が壊す場合も地味になんだか良くない感じがするので、そこらへんもまぁ可能ならなんとかしたい。
「そういえばナインにあだ名決めて貰い損ねてたな」
少し下層にある組立区画で、既に完成し数十体ほど並べられている「鹵獲して貰う用の新機体」を見学しながら呟く。ハカセが地球防衛隊の機体に使われている寸法と仕様に合わせて作り上げたものなので鹵獲するだけで互換性バッチリというか、設計を丸ごとパクって素材と各部構造を改良しただけの海賊版ロボである。私も特定の作品の海賊版に近いのでなぜか妙に胸が痛い。
「この機体達を見ながらあだ名について考えるのはやめてくれ。絶対センスに悪影響が出る」
名前を呼ばれたナインが反対側に並べられた「鹵獲して貰う用の新戦車」から顔を出す。もちろんこれもパクリだ。ただ、ナインとこれに乗った時私が勝手に付けたスラスターやイナーシャルキャンセラーまでパクってしまっているので、果たしてこれを戦車と呼んで良いのかちょっと怪しい。割りと高速で跳ねたり空飛んだりするよこの車両。そういうロボゲー見たこと有る。
どうもハカセが改良したいのはコクピット部分とメンテナンス性で、他はあまり興味が無いようだ。コアとなる搭乗箇所だけは絶対にしっかりして、他は好きなように組み替えて欲しいらしい。
まあ地球防衛隊という位だから任務次第で戦闘だったり災害救助だったり色々な用途があるのだろうし、わざと壊されて鹵獲されなきゃいけないから向こうの人達が自力で修理とメンテナンス出来ないといけないし、想像していたよりあまり凄い機体や車両じゃないけど逆に丁度よい気はする。
「元々のあだ名センスがちゃんとしてるかどうかまず聞いてみないと分からないよ」
「じゃあメアリーかタニー。メイとかメニメニとかも有るか。」
「ああ、うーん。どれも別人感が凄いけどセンスは一番普通かも……普通がこんなに尊い……」
メアリーはもう完全に他人だが、口にすると音が結構メタニンと似てて、タニーはまぁまぁかわいい。
そして私が彼女とイチャイチャし始めた事によりまたミナが混乱しているのか、奥の広い区画で動作中の白銀の機体が手足をガクガクさせ意図不明な挙動を起こしている。他より圧倒的に巨大な機体がコミカルな動きしていると普通に怖い。
『ナイン、もう一度あだ名言って貰って良いか?』
「メアリー、タニー、メイ、メニメニ、あとなんでしょうね。メアリ寄せでモリーやポリー?」
『……うーん』
突然戦車の下から黒い四角い箱が生えてきて会話に混ざりだす。どう見ても手足の生えたスピーカーだからずっとスピーカーボディだと思ってたけど、下手したらこれがハカセのメインボディの可能性まで出てきている。見た目と用途が尖りすぎている。
「まさかまた彼女の服のセンスに口を出したみたいなのの続きじゃないですよね」
『いや、うーん』
なんだか良く分からないジェスチャーをしているハカセ。顔が無いのでどういう表情なのかすら伝わらないが。
『確かに何か言われてみると色々プロテクトを感じる。名前とかそういうのに』
「何か気になる名前でもあったんですか?」
『あったかどうかも分からなくなる。聞いてるのに聞き流すような変な感じがする』
「なるほど……?」
「ハカセ、マジカル=メタニンには何も違和感無いの?」
『かっこいい』
「なるほど……故障かも」
『なんでだ!明らかに強そうだろうが!』
せっかく彼女が比較的普通のあだ名を考えてくれたものの、元が癖のある名前すぎて定形のあだ名だと全て別人感が出てしまい、結局メタニンそのままになった。まぁここまで来たら耳馴染みもあるし分かりやすいほうが良いか。私もみんなを呼び捨てにしてるし。
雑談をしながらも準備は着々と進み、パクリ戦車10台、パクリ人型機体20台、白銀の機体、私のまぁまぁ多めな部隊が完成する。
てっきりもっととんでもない大群でわーっと行くのかと思っていたが意外とそこまででも無かった。
『本当はパイロットスーツを一番受け取らせたいんだが、引っ剥がして着せるわけにもいかんし取り敢えず載せておくだけにする。出発は明日朝。ワタシは恐らく外に出れないし通信は遮断される。ミナ、ナイン、悪いが本当に頼む』
「本当に丸投げだし私が入ってないが」
『メタニンを頼むという意味だからな』
クライアントとして最悪すぎるハカセを何度も叩きながら組立区画を後にする。
今までの戦いよりも大勢の人間が入り乱れる複雑な作戦になる。それも攻撃しながらその相手を守るみたいなややこしい戦いだ。内心じわじわと緊張が高まっていく。
「ミナ、緊張するから今日も泊まっていい?」
「もちろんよ」
「今日はナインも一緒に寝る」
「「えっ!?」」
緊張するから、今夜は可能な限り甘えて、明日への英気を養う事にする。
お泊まり会ver.2だ。
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