第16話 友達との夜会話イベント
いそいそと準備を進めてから向かった初めてのお泊まり会。
貰ったパジャマを一応警戒しながら着てみたものの、当然ただの寝巻きなので何か変な事が起こるわけもなく、それはもうひたすらミナにかわいいかわいいと褒められる大変気分の良い装備で、さすがにハカセに対し感謝の気持が湧き出た。
前見た時はシンプルな宿泊施設って感じの部屋だったのに、今のミナの部屋は2人くらいなら余裕で暮らせる少し高めな集合住宅の一室という感じになっている。この辺りは元々休憩所の近くの壁しか無かった空間なのだが、思ったより好き放題くり抜かれて区画が改造されていくので、ちょうど余白的な場所だったのか元から加工しやすく作られてるかのどちらかなのだろう。
「メーちゃんの話はしないほうが良いって思ってたんだけど……」
「ううん、普通に知りたい。なんて言えばいいんだろう、その役を貰った役者さんが私で、役を頑張るぞと思ってるからちゃんと知りたい感じ?」
私のオリジンであるらしいメーちゃんの話をじっくり聞きたいと思っていたので、ふとした話題の合間に聞いてみる。私は今の自分を自分だと認識しているので、聞いても今から別の人にはなれないけれど、託されたその役は頑張ろうと思っているから。
ただ、前にも聞いたけどメーちゃんはやっぱりだいぶ自由なキッズコメディキャラなので、逆にメーちゃんはこういうキャラという特徴や、こうでなければならないみたいな縛りがまぁ驚くほど無い。何が出来ても驚かないマジカルコメディキャラ。そう聞くと確かにほぼ私ではある。
しいて言えば見た目がどれくらい似ているかだが、シリーズやリメイク、実写化等でどれも細部は全然違うから、特徴としては子供向け玩具みたいな3等身くらいの簡単ロボで、ツインテールっぽい筒が頭についてて欲しいらしい。材質は白っぽい灰色で、素材感や光沢はシリーズ次第らしい。そう聞くと確かにほぼ私ではある。
「なるほど、私だ」
「でも、だからこそ変だなぁとも思ってたの」
「変?」
「こんなに似てて博士がメーちゃんをちゃんと覚えていないのが変だなって。名前だってマジカル=メーちゃんなら分かるけど、スーパーなんとかロボも、メタルのヒーローも、ニンジャヒーローも、近い世代でやってた別作品……というか別枠のヒーローシリーズなの。なんで混ざっちゃうんだろう」
「嘘でしょ、メタニンってメタルニンジャ合体ネームなの!?」
「多分……あ、いや、でも待って……博士に何か由来を言われた事は無いかしら。超すごい人とか、人を超えたとか……」
由来。記憶が確かなら一番最初に信じられないくらいダサい説明を受けた気はする。原作があるかもと知ってからそれをダサいと非難した自分に後ろめたさがあり余計に記憶から抹消したくなってはいたが。
「言ってた。最初の最初に『メタは超える、ニンは人。つまりお前は人を超える人型生命体、スーパー人類ロボなのだ!』って言ってた。ダサいって言ってオリジンに関わった全ての人にごめんなさい」
「えっと……センスの話は置いておいて、じゃあやっぱりメタニンちゃんの色々くっついた呼び名って全部”普通じゃない凄い存在”って言ってるだけかも知れない。多分博士がうろ覚えでなんでもかんでも混ぜたから、それぞれの固有の意味が薄れて逆にスーパーヒーロー共通の原典に近づいているというか」
「共通の原典?」
「スーパーヒーローの原典は、文字通りただの英雄では無い超人英雄譚よ。大元は神話や童話の神秘的英雄なのだろうけど、そういった魔法のような力や超人的なパワーを持つ人を超えた存在が、現代を舞台にわたし達を助けてくれるヒーローとなる。だからスーパーヒーロー。かつて超人という意味そのままの最初のコミックスーパーヒーローが爆発的な影響力でこの形式を広めたわ」
ミナはやっぱりメーちゃん、というかそれを含む子供向け作品群全てがかなり好きなようで、普段のおっとりした口調から数倍早口になる。
ヒーローやそれに連なる小さいロボと大きいロボ、別のルートから合流したヒーローとしての魔法少女、それらが全部全部混ざっている小さいロボでマジカルなメーちゃん。既に混ざっているのにもう一回全部全部混ぜてしまったマジカル=メタニン……は私か。
そういった解説を楽しそうに続けるミナを愛しく思いつつ、不意に脳裏をよぎった最強全部乗せ玩具とかいうしょうもない学習データがなにか気づいてはいけないものを私に余計なヒントとして伝えてくる。
「ミナ、ちょっとだけ嫌な予感がするんだけど。まさかとは思うんだけど。強いもの全部全部混ぜて最強って言うよくある子供の理論って、私とは関係ないよね?全部武器持たせちゃうやつ」
「……」
「ミナ」
「…………」
「ミナ、こっちを見て」
「………………さぁそろそろベッドに入りましょ?なるほどメーちゃんも含む結集体だから確かにメーちゃんだけどメーちゃんでは無い。なるほどなー。であればメタニンちゃんは何かを演じる必要がそもそも無かったのね」
「ミナ、こっちを見て」
突然ミナと目が合わなくなった。
大きなベッドに逃げるミナを追いかけ、私もおなじ掛け布団に潜る。
「冗談はさておき、やっぱり博士は何か記憶に欠落があるのね。これだけ再現出来てメーちゃんが分からず他作品もどれがどれだか区別出来ていないのはおかしいもの」
「私には冗談ですまないけども、確かに植物がどうこうも現実とは違うんだっけ。他の場所見たこと無いからよく分からないけど」
ようやく顔を向けたミナは急に真面目な顔をして語りかけてくる。
「……メタニンちゃん、あれだけ混乱していた博士が、本当かどうかすぐ確かめに行くって飛び出さなかった事、おかしいと思わなかった?」
「あれ、気づかなかった。なんだろう、狙われてて危ないから外に出れるイメージが無いのかな」
「……そうね。そうよね。他ならぬわたし達地球防衛隊が狙っていて危ない、か。そうね。この話は博士も一緒にいる時にもう一度ちゃんと確認しながら話す事にする」
それから、抱きしめられて、誓うように語られる。
「でも、わたしはもう地球防衛隊じゃないわ。元から命を捨てる作戦だったし、あそこで地球防衛隊としてのわたしは終わり。だから博士に白銀の機体を貰ったの」
「えっやめちゃうの」
「元々終わりの任務だもの。あれが最後。博士とメタニンちゃんに救われたから延長されただけで、本当なら今わたしは生きていない」
そういえば、ミナはナインと比べても相当治療に時間がかかった。比較対象が出来てから考えると、魔法による治療でさえあれほどかかったのは、きっと……
「だからわたしはこれからずっと2人の味方。地球防衛隊のミナではなく、メタニンちゃんの友達のミナがこれからのわたし」
抱き寄せられて、額にキスをされる。
「これからずっとあなたの味方だから。わたしに魔法をかけてくれた、この世でただひとりのあなたに誓うから。だから、頼ってね。力にならせてね」
突然頭部が熱暴走したような感覚に襲われ、上手く返事が出来ず、そっとそっと抱きしめ返す。
この世でただひとりの私。もう自分が誰か不安になる日は来ない。
……それからずっと、頭を撫でられていた。
穏やかに、ゆっくり、一緒に眠ろうと誘われて、言われるがまま意識を閉じていく。
どんな夢を見ても、わたしが味方だから、安心だからと……ミナが……
……ああそうか、それでミナは急にお泊まり会を……重要な夢に緊張する……私の側に居てくれようと……
──そのまま、深く深く眠りについた私は、やがて夢を見る。
いつも泣いている、あの女の子の夢を。
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