第15話 お泊まり会への誘い
「メタニンちゃん。今日は一緒に眠っても良い?」
「ほぇ!?!?もちろん!」
気分転換のはずのピクニックで散々脳を酷使する羽目になった日の夜。夢の重要性が発覚したこともあって気合を入れて眠るつもりだった私は、ミナから突然お泊まり会の誘いを受けて喜びのあまり全ての優先度を覆して即答した。
なんということだ。ちゃんとお友達になれてから数日にして伝説のビッグイベントに辿り着いてしまった。自分の幸運が恐ろしい。
「パイロットのお礼と情報のお礼で博士が本当になんでもするって言うから、お泊まり会出来るくらいに部屋をパワーアップしてもらったの。本当はわたしの方がまだ大きすぎる借りがあるのだけれど……」
迷惑なお礼だったら謝るが謙遜なら貰ってくれたほうが嬉しいってハカセが言うから、と少し困り眉でミナが微笑む。かわいい。そして意外とやるようになってきたなハカセ。人間交流レベルが上がっている。惜しみないグッジョブをハカセに送ったのはこれが始めてかも知れないぞ。
いや、ちょっと待てよ、お泊まり会という事は私にも重要な準備が必要ではないか?
あの、あれ、就寝専用装備。寝巻き。パジャマの準備が要るのではないか?
私の学習データが正しければ、パジャマで夜更かしして絆レベルが上昇してベッドで色々お話しながら眠りにつくはずだ。これ絶対要る。
「ハカセー!!私パジャマ欲しい!!」
『絶対やめとけ』
休憩所から少し離れた広い区画で白銀の機体とかナインの戦車を弄り回していたハカセの元に駆けつけパジャマ要求を試みたがノータイムで却下される。
「なんで!?なんかよくわからん機械で繊維服とか作ってたじゃん!私も欲しい!」
『あれはミナとナインに着替えが必要だからであって、メタニンには絶対いらない』
「要る!!!」
『絶対やめとけ』
「なんでーーー!?!?!」
実は割りとあっさり貰えると思っていたので、まさかの展開に親に玩具をねだる子供みたいになってしまう。でも簡単に作れるなら作ってくれてもいいじゃん。
『いいか?一度でも着たら二度と今の自分には戻れない。その覚悟が本当にあるのか?』
「何の脅し!?そんなやめられなくなるくらい良いなら余計欲しいけど!?」
『良い悪いでは無い。今のお前に戻れなくなると言っている』
「なんなの!?説明求む!」
不意に後ろの方でナインが小さく「あっ」と声を漏らす。どうやら私の彼女は理由に気づいたらしい。近づいてきたミナは首を傾げている。
「パジャマのメタニンちゃんも可愛いと思うけど…なんで駄目なのかしら?」
「えっあっいや、ボクはその……博士!博士はやく説明して下さい!」
『だから戻れなくなると説明しているじゃないか』
全然分からない。
分からない以上試すしか無いんじゃないのか?
『分からないから試してみてとんでもない失敗を引き起こしてきたのが目の前にいる開発者なんだが』
「じゃあ私も一回くらい失敗前提でも試していいでしょ!駄目でも私はなんとかするからー!」
『こいつ人のトラウマちょっと把握してる筈なのになんてやつなんだ……』
ぶつくさ言いながら何やら別の区画の操作をし始める博士。どうやらパジャマを作ってくれるらしい。
『いいか、最初から分かりきった失敗だからな?本当にやるんだな?』
「いいよ!というかそんな脅すならもっとちゃんと説明してくれてもいいのに」
『だから今のお前に戻れなくなるんだってば』
「わからんー!」
博士と訳の分からない押し問答している僅かな時間でもう目的の衣服は完成したらしく、メカ触手が別区画から運んできてくれる。無駄に大きい施設だとしか思っていなかったが、データにある工業ゲームみたいに燃料区画、素材区画、一次加工区画みたいにやたら積み重なっているから、もしかすると想像以上になんでもすぐに作れる超凄い施設なのかも知れない。まぁ精霊魔法使うロボが作れる施設で逆に何が作れないんだって話かも知れないが。
届いた薄桃色のパジャマは私の子供向け玩具な体型もあってどこからどうみてもキッズ服だが、そのぶん可愛い。実際に受け取ってみるとかなり気分が高揚する。
「やったー!ミナ、私一度自分の部屋でボディの洗浄して、このパジャマ着てから行くね!これからすぐ遊びに行っても大丈夫だよね?」
「ええ、準備して楽しみに待ってるわ」
喜んで部屋に戻る私と、それを追うように休憩所の方へと付いて来るミナ。
「は、博士……」
「分かってる……他のも用意してくる……」
それを気まずそうに見送るナインと博士が少し不安を煽るが、まぁまぁまぁ。それにしたって友達とのお泊まり会が最優先でしょ。
さすがにそんなに深刻な話なわけが無いし、いざとなれば私は精霊魔法だって使えるんだから。
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