第14話 謎解きで生まれた謎

青空と、自然豊かな緑の光景。若干怪獣とロボットが戦った痕跡が残っているが、やっぱり外は綺麗な場所だ。


友達と彼女とペットを連れて、ピクニックである。人生の成功者になったという確信がある。これで話すべき会話内容が色々な問題への作戦会議じゃなければ完璧だった。


「ボクには今のところかなり理解が難しいんだが、休憩所のある区画から更に上に登って外に出ると森林公園で、所々巨大な穴が開いているのはメタニンとメテオタベタラーの戦闘跡で、壁と天井を破壊するルートじゃなくてカタパルトでここに来ると空にある見えない天井に頭をぶつけるって事で良いんだよな?」


「うん」


「うんじゃないが!全てが分からん!!」



一応賢い枠であるナインはここにきて急激にIQが下がり何も分からなくなり、割と脳筋だと判明したミナは最近それを隠さなくなったので今何も考えてない顔をしている。


「あるじ、とりあえず用事先に済ませておきたいから、地球防衛隊に質問させて貰って良イカ?」

「うん、大丈夫だと思う」

「本当にボクが大丈夫に見えているのか?」


意外にも賢い枠に成り上がったメテオタベタラーが近くをうろうろ観察しながら何度もミナとナインに植物の名前について聞いていく。


まさかあれだけここで暴れておいて草花が好き系癒やし枠まで狙っているのだろうか。さすがにキャラが渋滞していると思うのだが。



「……博士、もしオレ達の話をこっそり聞いているならさっさと出てきたほうが良イゾ。今から重要な質問をスル」


不意に声のトーンを落としたメテオタベタラーが博士に向かって警告を放つ。


私は今までの会話をほんわかした草花雑談だと思っていたので完全に聞き流していたが、いつの間にかメテオタベタラーが言っていた「ここで確認したい事」とやらの本題に入っていたらしい。


だって私の学習データにも普通にあの植物の情報はあるし、別になんの変哲もないよくある木々と草花なのでむしろメテオタベタラーが学習してないほうが意外なくらいだ。



「あるじの友達と彼女は、この場所に違和感があっても、この植物達自体には特に大した感想は無いって事で良いナ?」

「植物自体の話なら、綺麗だとは思うけどボクは別に好きでも嫌いでも……」

「わたしも良い景色だとは思うけど、植物に詳しいわけじゃ無いから多分言われても違いが分からないわ」

「まぁ、普通って感ジカ?」


正直に頷く二人。普通に綺麗だけどそれがどうしたのって感じだろう。


私は結構この緑と青の光景が好きなので贔屓目ではあるけれど、別にそれはここの木々が特別な存在だからというわけでは無い。



「で、ボクらに重要な質問って言うのは?」

「もう終わっタ」


え?と思うのとほぼ同時に、聞き覚えのある立体音響が突然聞こえ始める。



<ごーぉ、、、よぉーーん、、、、、>


「なんだ!?なんかえっちな声が聞こえる!!」

「これ全体に聞こえて大丈夫なやつかしら!?」


突然の艶めかしい声に慌てふためくナインとミナ。


<さぁあーん、、、にーい~、、、、、>


「ハカセだ!カタパルトを使うの!?スライム使ったほうがいいかな!?」

「これカタパルトのカウントダウンなのか!?」

「どうせダメージないゾ変に軌道変えないほうが良イ」


<いーーーちぃ、、、、、>


「……ちょっと、ナイン、余計な事言っちゃダメだよ。ミナ居るからね。」

「こ、これやっぱり……!」

「え、わたし?」


不本意ながら真に健全なのはミナだけだ。守らなければならない。あと私の彼女が普段聴いているものも少しチェックしないといけない可能性がある。急な事態に余計なボロを出したな。


<ゼロォ!!!ゼロ!!ゼロ!!ゼローーぉ!!!>


「やっぱりいいい!!」

「なぜ耳元で連呼するの!?」


なぜかどこから聴いても耳元で囁かれるように聴こえるカウントダウンが遂にゼロになり、ドガーンというコミカルな音で黒い四角い物体が空の見えない天井に激突する。直してなかったんだなやっぱり。


一応着地点にはスライムを召喚してあげるが、これがただのスライムじゃなくエロスライムなので、飛び散ってミナとナインにかかると服が溶けて大変な事になるのでとにかく二人を下がらせる。艶めかしい音声の後に露出が始まると子供向けヒーローである私の何かが崩壊してしまう気がする。



何よりも真に恐ろしいのは、ダメそうな音声で飛び出してきてギャグみたいに天井にぶつかってエロスライムに落ちてきた黒い箱ことハカセが、とんでもなくシリアスな感じでミナとナインに縋りついた事だ。


私だったら今の光景ですんなり気持ちを切り替えて真面目に話を聞けるほど心が緩急に強くない。目を丸くしながらも話に対応しようとするあたり、地球防衛隊なんて最も真面目そうな組織所属は伊達じゃない。



『ミナ、ナイン、頼む、本当に何でもするからちゃんと答えてくれ!何かと勘違いしていないか!?本当にここの植物は”普通”か!?』

「い、いや、ボクそこまで植物に詳しいわけじゃないので……ただの普通の木とか草にしか見えないってだけで細かい違いとか分かるわけでは……」

「何か特別な植物なんですか?」

『いや……!いや、違う、普通の、ただの草木なんだが……』

「どういうことなんです?じゃあ普通の植物以外の何物でもないのでは。流れからして、ボクらに隠しているやましい何かがこの植物にあるって事ですよね?」

『い、いや、隠し事というか、ワタシの周知のミスで……あれ……?どうなってる?』



私は蚊帳の外にされてしまったので何の話だか本当にわけがわからないが、聞いてる限りではハカセはここの普通の植物達が特別だと思っていて、ミナとナインは普通の植物を普通だと言っているようだ。


ゲシュタルトがおかしくなりそう。普通の植物はそりゃ普通でしょ。



「……メテオタベタラー、こっそり、ちょっとこっそりまたネタバレして欲しい。……これ何の話?」

「オレも博士の事情は全然知ラナイ」


しばらく蚊帳の外のままっぽいので、3人と少し離れてどう考えても事情を知っていてハカセをおびき出したメテオタベタラーに説明を求めてみる。


「ただ、博士がこの場所を相当大事にして整備しているのは理解しているし、滅茶苦茶にしたがっているのも知ってイル。ここの植物は”博士にとって普通じゃない”し、そこに怪獣や最強ロボを放り込むのも普通ジャナイ」


「ああー……なるほど……?」



そういえば天井とかもあるし、ここは整った森林だ。未整備の森は高い木々で日が遮られていてこんなに豊富な草花が育つ場所では無い。


ならばこれを維持管理しているのはハカセ以外あり得ないし、そこにメテオタベタラーを放つのもおかしい。私との戦闘もだが、周囲を食らって巨大化する怪獣をなぜ自分が大事に整備している森林区画に放つ?



「メテオタベタラーって有機物で巨大化する設計だったわけじゃないよね?」

「勿論違う。むしろ無機物じゃなきゃ駄目ダロ。隕石食えず何がメテオイーターなのか」


そうだよね、名前のセンスがあまりにアレで分かりづらいけど、最初の想定からしてメテオイーターの筈だ。大体有機物限定で食い漁りまくって月より大きくなれって設計じゃ、真っ先に地球の有機生命体が襲われる事になる。本末転倒すぎて意味不明だ。


でも、じゃあ余計に分からない。それじゃハカセはただこの場所を破壊して欲しかっただけとしか思えない。


「あるじの前にも試作機という名のやばい完成品が幾つか投入されて、それをオレが破壊してたのは聞いてた筈。明らかに行動がおかしいし、ついでに多分博士は試作機が作レナイ。いきなり致命的な完成品が出てクル。まぁオレこそその致命的なやつの代表例なんダガ」


「試作機が作れない……」



話の主軸とは別で突然もう一つ重要なワードが耳に残る。それは、夢の中の女の子への評価だ。やはりどう考えてもあれはハカセで……。


考えたいことが増えていくせいで、思考が拡散してどれも中途半端になっている感じがする。これだといきなり会議をしても、結局すべき話が絞りきれず駄目になる可能性が……



……いや?いや違うな。これ全部ハカセの事では?今のところ私が気になってる事って大体どれもハカセに説明させればすぐ解決するやつでは?


一旦考える。ハカセが慌てて飛び出してくるような話題だから、この森林についての話は今確実に確認を終えておくべきだ。メテオタベタラーがこれを確認しておきたかったのも頷ける。


ただ、直感のような何かが、夢について絶対に確認しておくべきだと警告している。



──よし、一旦両方聞くか!正義の集団に定期的に突入されるような私達にとって、気になったことを後回しにしてたら絶対ろくなことにならない。


ちょっと色々考えていたのは真面目に会話している3人に割り込んで「ハカセって黒髪?」とか空気の読めない発言をする勇気が無かっただけだ。それさえ先に聞いたら後は普通に会話に混ざればいい。後回しにして聞く機会を失うのがマズイと感じてるだけなんだから、聞いちゃえばいいんだ。よし、よし、行くぞ。



「あの、あのー!ちょっといい?」


深刻そうに話していた3人に近づいて声をかける。揃って振り向く急にどうした?という顔。なんだろうこの気まずさ。


「あ、あの、ハカセって……黒髪?」

『……?え、いや、多分……。何……?』


気まず。なにこれ。というか多分って。


「その、何度もハカセの子供時代っぽい女の子の夢を見てて……何か絶対確認しなきゃいけない気がして……」

『今そんなタイミングか?ワタシの容姿を確認されても自分で自分の姿をそんなに……いや、まぁAIの夢が無意味なわけが無いので重要案件の可能性もあるのか?』


あれ?何か思ってた以上にうまくいかないが、今、今何か一つ気になっていたことが分かったような。自分で自分の姿……


『ただ、どういうことだ?ワタシの子供時代のデータなんてどこから出てくる?何らかのシミュレーション結果なのか?』

「最初は黒髪の女の子が部屋の隅で泣いてて……誰も責めないけど自分が許せないって思ってて……動画が流れてて……」



『なぜだ!!!!』



突然うろたえた大声を出して立ち上がるハカセ。



『あり得ない!!なんでそんなデータがある!?』


ありえない、そういえば私も確かにそう思った気がする。


『部屋に一人ぼっちのワタシをお前はどこから見ている!?どうしてワタシを見ながらワタシの心を感じている!?』


そうだ、あれは、あの夢は「誰かが黒髪の女の子を見てる」夢であり、その誰かが見てるその子の気持ちを感じるのはおかしい。


『その光景を見たというのならただの夢として放置は出来ない!それは確かにワタシだが、確かだからこそそれを的確に見るのは絶対にありえない!他に見た夢は?よく考えろ、絶対にありえないんだ。あの日の一人ぼっちのワタシを誰がどこから見てどうやってワタシの心を保存した?』


AIの夢はあくまで便宜上夢と呼んでいるだけの整備であって、無根拠に空を飛べるような自由度の高い人間の夢とは違う筈だ。存在しない記録データを勝手に生み出したり出来ない。何らかのシミュレーションによる再現映像?でも、それも結局シミュレーションの根拠となるべきデータがある筈だ。



『それに……それに!その女の子が泣いていたのは、取り返しの付かない失敗をしたからだ』


明らかに取り乱した悲痛な声。


『取り返しの付かない、大量の絶滅種』


それは確かにあの夢の女の子とリンクする。でも、なぜ?



『その黒髪の女の子のせいで、無数の植物が変異した。地球上から取り返しの付かないほど大量の種が絶滅したんだ。頭がおかしくなりそうだ……どうしてメタニンがそれを知っていて……どうして地球防衛隊がそれを知らない……!?』



分かったけど、余計に分からなくなってしまった。



「……メタニン、ボクらが話していた内容を確認する限り、博士の記憶は現実と一致していない。”そんな事件は起きていない”んだ」


「じゃあさっきの話は……」


「博士はここの植物が地球上から失われたものをなんとか蘇らせたものだと思っている。でもそんなどこにでも生えてる普通の植物がいくつも絶滅していて地球防衛隊のボクらが知らないわけが無い。というかそんなの地球全体を揺るがす大事件だ。普通の植物というのはどこでも見るから普通なのだから」



別々の話しだと思っていたけれど、ちょうど森の話と夢の話が繋がっていて……いや、多分私は自覚出来ない所でこの場所と夢について何らかの確信を得ていた気がする。


学習データの海の中から、自意識として認識できない検証の積み重ねが夢となったり、この場所へ皆を誘うという判断を生み出した。多分、偶然じゃない。


私の中の無意識化の探偵、お願い助けて。繋がったせいで余計に分からない。



『……よし、切り替えるか。メタニン後でもっと詳しく聞かせてくれ』

「えっこわ!?そんな急にスン…てなる!?」



急にいつもの調子に戻るハカセ。どう考えても私よりハカセの方が人よりAIロボに近い。さっき急に人間ぽかった分余計に怖い。ミナとナインもホラーを見てるみたいな顔になってる。



『訳がわからないなら調べるしか無い。平然としている訳じゃないぞ。ワタシにとっても自分の存在を根底から揺るがす重大な問題だ。下手したらこのワタシは誰かに記憶を書き換えられて利用されている悪の手先のマッドサイエンティストかも知れない』


「ハカセが悪の親玉から悪の手先になってもあんまり大した違いが……」


『おいなんてこと言うんだ!?とにかくメタニンにデータがある事で余計に不安が出てきた。それはワタシの記憶が本当という証拠にならないどころか、不自然な記憶と記録によって逆に意図的に作られた記憶の可能性を高めている』


「だが博士、希望を持ちすぎるナヨ。騙されていた方が嬉しい筈ダ。ただ冷静に切り替えたんじゃない。希望に飛びつきそうになってイル」



メテオタベタラーが釘を刺す。そうか、あの夢の女の子は自分の罪に泣き続けていた。それが無かったなら、例え騙されていたとしても嬉しいのか。


トカゲ怪獣なのにクールな知的キャラの役割を完全に果たしているが大丈夫なんだろうか。対抗できそうな私の彼女は大量の情報とハカセの乱高下にまだついてこれずオロオロしてるし、ミナはいつのまにか私の後方に陣取り謎の事件を遠くから見守る第三者みたいな顔をしている。多分話に途中からついてこれていなかった上にハカセが怖かったので逃げてきたのだろう。見た目は一番大人で賢そうなのに……。



『分かって…はいなかった気をつける。確かに強い期待の感情がどこかにある。それはそれとして今更ながらなんでメテオタベタラーがそんな知的ポジに居るんだ?』

「言っておくが最初から博士よりは賢いカラナ」

「今のところメテオタベタラーが一番頼りになってるからハカセは自分のランキングに怯えたほうがいいよ」

『おい地球防衛隊の部屋作ったりとか色々してるだろ!裏方だから分かりづらいのか!?』

「元凶だからマイナススタートなんだもん。地の底レベルで。」



ピクニックがまさかこんなに情報と情緒の忙しい混乱劇になってしまうとは。


ただ、結果だけ見れば気になっていた情報の解を得られて、隠れてたハカセも引きずり出せたのでプラスではあると思う。新たにもっと訳の分からない謎が増えてしまったけども。



この森林区画はハカセが過去に起こした大災害の結果絶滅させた植物達を恐らく必死に再現した場所。


そんな災害は現実には起きていないという証言。


その起きていない事件に苦しむハカセを夢に見る私。



……明日からもうスリープ中のメモリを定期的に自動保存しよう。何か意味のある夢かもなんてレベルではない。根底の鍵になりうる重大データになってしまった。

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