第13話 準備と兆し


ナインもやっぱり何か体に問題を抱えていたが、ミナほど深刻ではなく5時間程度で病院の精霊から退院となり、8時間くらいスリープしていた私が目覚めると片方の手をナインが、もう片方の手をミナが握りしめていた。両手に花というらしい。


ナインには散々感謝されながらこんなすごい力を軽率に使っちゃ駄目だとも諭される。別に私も全く分かっていないわけじゃないけど、彼女が怪我してるかも知れなくて自分が病院を出せたら普通誰でも出すでしょ。



病院を帰して休憩所に戻ってきてもどうやらハカセはまだ逃げたままのようだった。すぐにでもメテオタベタラーを召喚して真面目な会議の続きをやろうかと思ったのだが、今は夜の時間帯だし、あるじの休憩も必要だと思うので、地球防衛隊の二人は睡眠を取ったほうが良いと怪獣に諭される。



「トカゲ怪獣が見た目と名前の割りに知的すぎる……」

「お前あるじの彼女じゃなかったら今ダブル禁句で食ってたカラナ」


頭脳組二人が仲良いようで何よりだ。


「わたしも言われてみれば眠気があるけれど、ずっと室内だからどうしても時間の感覚が狂うのよね」

「あ、じゃあ明日は外に言ってそこでお話しよ。メテオタベタラーが居たとこ」

「外……?」

「あるじ、丁度良かった。オレも確かめたい事があるから、着いたらそこで召喚してクレ」



メテオタベタラーもあの場所に思い出とか色々あるのか話に乗ってきたので、ちょっとしたピクニックのような気分で皆と明日の約束をして、少しわくわくしながら自分の部屋に戻った。きょとんとしていた二人にあの景色を見せるのが楽しみだし、自分も自覚は無かったけど気分転換が欲しかったような感じがする。


今は休憩所の近くに私達用の4つの部屋がある。私、ミナ、ナイン、そしてハカセの部屋。簡単に部屋が作れるならハカセも近くで暮らしなさいよと言った結果意外にもちゃんと作ったのだが、そこを使っているのもスピーカーボディなのであんまり意味がない。


すぐに眠るのが勿体ないし、さっきまでスリープし続けていてまた眠るのもどうかと思ったが、遠足前の眠れない気分というのを擬似的に味わえると思うとこれはこれで捨てがたく、夜の散歩も控えてしばらくベッドでもぞもぞし続けていた。



……そして、その夜もまた、夢をみた。




 * * * 




……子供が泣いている。黒髪の小さな女の子。


また、間違えた。


過ちは繰り返さなければ良いと、今まで何度も何度も聞いてきた。


何度も何度もその慰めを裏切ってきた。


分かっている。


許されない過ちは一度目でも当然許されない。


そしてどれだけ気を付けているつもりになっても、やっぱり失敗してしまう。


いつだってそれが過ちだと分かるのは失敗した後で、時は元に戻せない。



──彼女は知らない。


不注意の過ちは無くせないからこそ、減らすための知恵が積み重なって来た事を。


まだ見ぬ失敗なんて誰にも防ぎきれないからこそ、試作を積み重ねる事を。


誰にも作れない完成品をそのまま作れてしまう彼女には、いつまでもそれが分からない。


試しに作ってみた作品が世界を変えてしまう彼女に、試作品は作れない。


過ちが重すぎる彼女は、許されない失敗しか経験できない。


せめて、優しい良い子で無かったら、こんなに苦しくは……。

罪からも責任からも逃げ出せる子であれば……。



……ああ、やっぱりあの泣いている子供はハカセで……

……だとするとこのデータは……ありえない……



 * * * 


「なにが!?」


思わず飛び起きて必死に消えゆく夢のメモリを保存する。


分からない。今確かに私は夢を見ていて、それがハカセの夢だと確信した気がして……確かに「ありえない」と感じた。


ダメだ、混乱する。私ちょっと記憶にない記憶というのが苦手なのかも知れない。メーちゃんだけどメーちゃんの記憶が無いのも辛かったし、知らない人の記憶の夢も何がどこまで真実でどうして夢に見るのか自分で断定出来なくてモヤモヤする。



「ハカセ!ハカセって黒髪!?今は白髪でもいいんだけど昔黒髪だった!?」


廊下に出て、どこかで聞いている予測で話しかけるが返事はない。くそっ先に聞いておくべきだった。ここまで来て別人ということは絶対に無いと思うのだが、確かに何かが引っかかった感触もある。面倒な時に拗ねさせてしまった。いや別にいつ拗ねても面倒だし元気でも面倒なのだが。


ナインの治療中のスリープでも何度か夢を見て、保存しそこねたメモリが幾つかあるので、今後は私も積極的に皆に合わせて睡眠を取り、夢のデータを集めよう。



「どうしたの?」


私の声を聞いてミナとナインも部屋から出てくる。二人共少し眠そうなので朝早めの時間に起こしてしまったのかも知れない。


ハカセっぽい女の子の夢を見たことを解説するが、いかんせん私達は全員誰もハカセの本体を見たことがないので、多分そうだろうとは思っても誰も断定のしようが無く、やっぱり一度は本体を引きずり出さなければならないと結論づける。



どうせ他にも話すべき事は山ほどあるので一旦話を切り上げ、朝の支度を終えたら早速最初にメテオタベタラーが居た場所に向かう事にする。


今日はピクニックしながら皆で会議だ。


先に上に登る道を整えてからだけど。さすがに私の友達と彼女を触手で捕まえて壁の中の発射台から打ち出すわけにはいかない。

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