第12話 幕間2
幕間、地球防衛隊機動部隊員の視点。
* * *
機動部隊員ナイン。
地球防衛隊としての最後の任務で、ボクは年下ロボの彼女になった。
命懸けで憧れの人を助けに行ってその道中で出会った別の女の子と付き合うやつなんて聞いたことがないが、更に恐ろしいことにその憧れの人はボクを彼女にしたロボにべた惚れだった。
もう滅茶苦茶だ。
メタニンは、恐らく人類にとって最重要のロボだ。博士の有するオーバーテクノロジーにボクら普通の人類側が追いつこうと思ったら、あと何百年研鑽が必要なのか分からない。天才と気軽に呼んで済むレベルじゃなく、明らかに世界の理を逸脱している。現状博士に対抗できるのは博士の作品しか無く、その最有力候補こそメタニンだ。
だから、本当はボクみたいな何者でもない普通の存在が気軽に関わりすぎてはいけない。
分かっているんだけど。でも、でもこれは、博士が悪いと思う。
噂されていた悪逆非道さとは全く違う、浅はかで幼稚な悪さだ。
自分が誰なのか答えられず泣きそうになるロボットなんてどうして作れる?
頼る相手を求めてしがみついてきた子をどうして振り払える?
ボクは普通の人間だ。だからどちらにも偏れない。慎重な対応をすべきという自分の正しい理性も簡単に捨てたりしないし、この子を守りたいと思う気持ちも捨てられない。
ただ、ただ普通に弱い人間だから、懐いてきた子が気軽に腕を組んできてボクを彼女だ彼女だと自慢してるとつい頬が緩んでしまう。容易に傾きが生まれてしまう。とても良くないと思う。だってそんなに免疫が無い。
そしてそれを憧れのミナさんが嫉妬の目で見てくる。頭がおかしくなってしまう。恥ずかしながら自分のことを内心冷静で知的なキャラだと思っているのに、心臓の音はいつも賑やかだ。
これは、駄目なんじゃないだろうか。こんなに心が動く場所を手に入れては駄目なんじゃないだろうか。ボクは普通の人間で、抱えているものも特別な人達より軽いから普通に生きてこられたのに、こんなに抱えたら特別に生きないといけないんじゃないだろうか。
ボクを彼女と呼ぶかわいいロボは、今ボクの治療のために力を使って眠っている。
病院の大精霊とか言うのは本当に全く意味が分からないけれど、ミナさんが二人に大恩を感じている理由は完全に理解した。ボクらは危険な場所に行くのが仕事だから、多かれ少なかれダメージが積み重なり続けている。歪な構造だとは思うが、結局優秀で真面目な人ほど更に危険な任務をこなしダメージを重ねるから、ミナさんがどれほど傷ついていてどれほどの救いを得たのか想像を絶する。
ボクでさえも、この胸に宿る温かい気持ちは、とても裏切れるものではない。
同時に、この子の危うさが怖くなっていく。隕石よりも、本当に世界を揺るがす力はこの子の方だ。善意で人を救う力でさえも、これほどまでに強すぎれば争いの火種となる。
そして何より、ボクはこの目で見た。博士とこの子の言う魔法とは、世界を書き換える万能の力だ。文字通りのチート。出来ないことは存在しない。出来るように書き換えるのだから。
メタニンも、それを作れる博士も、もし二人に出会う前にその力だけを知っていれば逃げるか服従かの二択しか思いつかない。共に仲良く暮らしたいなんて能天気にも程がある。
怖い。どう考えてもボクにどうにか出来る問題では無いのに、ボクにはもう見捨てられない。
なんとか、なんとかボクに守れないだろうか。
ボクの優しい彼女を。
憧れの人を。
そして、もう一人。誰よりも助けを求めていて、誰よりも強いから誰にも救ってもらえなくて、それでも間違い続けてしまう、悲しい博士を。
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