第11話 二度目の事件終わり

休憩所に戻ってきてようやく落ち着いた後、なんだか気恥ずかしさのようなものを抱えながら、私は改めて友達になれたミナと会話を弾ませていた。




「私はミナが私を見てくれるならメーちゃんってあだ名でもいいよ」


「ううん、やっぱり変えたほうが良いと思う。まさかこんな初歩的な事にわたしも博士も気づかなかったなんて…本当にごめんなさい…」




私は私のことを当然私だと思っているので、お前は自分の知らない誰かだと言われたらエラーが起きて当然だったらしい。アイデンティティがどうとかいうエラー名もあるらしいので全然私は悪くなかったそうだから、これからは堂々とメーちゃんじゃない自分のままで甘えられる。




いや、メーちゃんとして作られたのにメーちゃんになれないのは私が悪い気もしてたんだけど、私の彼女であるナインが普通に初歩的な博士のミスだから純粋に被害者なので気にしなくて良いと庇うもんだから、じゃあOKかとなった。しなくて良い遠慮を続けるのは逆に相手に負担だって言うし。




「じゃあミナが新しくあだ名つくって?」


「ええと、マジカル=メタニンだから……マルメタンちゃんとか!」


「ごめんやっぱり彼女に決めてもらうね。ナインー!」




ダメだった。まさかハカセより語感センスの狂った存在が現れるなんて。絶妙に長くて言いづらく、しかもモンスター感がある。前より柔らかい笑顔になった金髪美人から飛び出すべきセンスではない。どうして。




少し離れてハカセと難しい話をしていたナインを手招きして助けを求める。ヘルメットを着けていないナインは黒髪ショートのボーイッシュな女の子で、体型も中性的だから結局性別が分かりづらいままだったが、私の可愛い彼女である。そして彼女と呼ぶたびに蒼い瞳が慌てふためく。




「ナインさん、あのね、わたし今嫉妬で気が狂いそう」


「だから違うんですって!ボクはミナさんが……その……!」


「ミナが好きで助けに来たけど、私も好きになったからハーレムだよね」


「ナインさん、あのね」


「ミナさんの目冷たっ!助けに来てこんな好感度下がる事ある!?」




そういえば、メテオタベタラーは絶対怒り狂った復讐者が来るみたいに言ってたけど、ナインは迷わず捜索だった。結果的にそれが今の温かい結果を生んだので有り難い限りだけど、正直あの警告には納得感しか無かったので気にもなってしまう。それほど善人という事で良いのだろうか。




すれ違いもこりごりだし、また突然乱入者が来て忙しくなる前に、聞けるものはすぐ聞いておくか。




「ボクはそんな何も考えずありえない希望に縋って敵地に突っ込むタイプじゃない。ちゃんと勝算はあったし、実際ミナさんは元気でボクも生きてるじゃないか」




「……そういえば、メタニンちゃんが思ってるよりも地球防衛隊から見た博士は最悪のマッドサイエンティストの筈だけど、なぜあの程度の装備でわたしを捜索に?今の私にとっては大恩人でも、助けられるまで博士に人の心があると思っていなかったわ。」




『えっそんなに?』




少し離れた場所で触手に繋がって何か怪しげな事をしている四角いスピーカーボディのハカセが思わずこちらに振り向くが、普通にフォローされない。




「人の心が無いと思ったからですよ」


『嘘でしょ!?君らを善意で助けたメタニンを作ったのワタシなんだけど。善意の大元なんだけど。』




文句を言うハカセだが、少なくとも地球防衛隊に突入される程度にはマッドサイエンティストだと判明しているので驚くほど信頼度が低い。




「悪意だって人の心ですから。良い心も足らない代わりに悪い心も持っていない。博士は悪意や恨みをもって人類を滅ぼそうとしているタイプでは無いと現状のデータから判断しただけです。まぁそうだったらもうミナさんだけじゃなく人類が滅亡してますからね。」




『ねぇ一応だけどワタシも君らの命の恩人だからね』


「ボクらが命を賭けたのも博士のせいなので」


『返す言葉もない』






博士はむしろこれでも初期よりかなり人間味を増してまともに会話できる相手になったのだが、それでも評価は散々である。以前を知っている分むしろ私のほうが甘いまである。




というか、私が目覚めるまでに一体今まで何をやらかしてきたのだろうか。地球防衛隊が命懸けで突入してくる基地って今更だけどヤバすぎる。






「ねぇ、ハカセって何をやらかしたの?」


「……」『……』「……」


「え?そんな沈黙する感じのやつなの?」




全員口を閉ざした。逆に怖すぎる。




「……先にボクの方から確認したいんだけど、メタニンって子供のヒーローの再現をテーマに作られたロボットなんだよね?」


「うん。知らない人そのものにはなれないけど、ちゃんとヒーローはするつもりだよ」


「具体的に何か言われてるのか?倒すべき敵みたいなやつ」


「隕石の化け物倒せって。私だけじゃなくてメテオタベタラーって怪獣もだけど」




ちょっと考えるから待ってくれと遠ざけられる。私だけのけ者にして三人での作戦会議だ。






……え、いや嘘でしょ。私今の流れで察せられないほど鈍感じゃ無いが。






「これ絶対隕石もハカセのせいじゃん!!」


『うっ!』




私の絶叫が響き渡り、三人とも首をすくめる。首のないスピーカーまでよくその表現が出来たな。




「何考えてるの!?月よりでかい隕石をハカセが地球にぶつけようとしてるって事!?」




それはまぁ地球防衛隊なんて名前の組織が必死に攻撃してくる筈だ。マッドサイエンティストだとは思っていたが、まさかそこまで狂っていたとは。




「しかも慌てて私達を作ったって事は、わざとじゃないってことでしょ!?逆に怖いわ!人類が憎いとかじゃなくて、うっかり地球滅ぼす隕石作っちゃったの!?」


『はい……』


「はい!?!?!?」






頭を抱える。


スピーカーボディに飛びかかってお尻を叩いて叱るが、あまりに無意味過ぎる。




「ちょっと!さすがに本体出てきなさい!叱ってあげるから!!ハカセ!!!!」


『…………』


「あっ!?ちょっと!逃げたなこれ!?ハカセぇ!!!」




スピーカーボディが全く動かなくなり、沈黙した。子供か!!






「今更だけどメタニンも博士の本体がどこに居るか分からないのか」


「一度も見たこと無いから、この黒い箱がたまに本体だと誤認しちゃう」






箱をべしべしと叩くが全く動かない。ズルすぎる。






「ナイン、ミナ、どうするの?私は協力するし、ハカセも人類を敵視はしてない。一見ハカセに反省させて地球防衛隊に協力させて一緒に隕石を破壊するのが正しく見えるけど……これじゃ人類を左右できる兵器のデモンストレーションじゃん。誰かの悪意が混ざった瞬間に世界が駄目になっちゃうよ?」




メテオタベタラーにも言われていた話だが、実感した。これはまずい。




「うわ、ボクお前がそこまで賢いと思ってなかった」


「おい彼女とて許さんぞ!どうみても可愛く賢い才色兼備ロボじゃん!」




「いやでもそのレベルの話が分かるなら助かる限りだ。ちょっと博士抜きでも今後色々会議させて欲しい。というか博士が想像以上に子供で知識のムラが激しいからメタニンの方がまだ話が通じる気配すらある」




まぁ私もメテオタベタラーっていう助言役が居て知恵がブーストされていたからだが。




比較的察しが良くて賢いナインとの状況確認はかなり重要な感じがする。地球防衛隊視点からの詳しい話を聞くとまた見えるものが違ってくる。




今軽く色々聞いてるだけでも散らかっていた情報がどんどん整備されていく。




「じゃあ後で話の分かる怪獣も呼ぶからそこでもっと深く話し合いしようよ。ミナも特別捜査員とか言ってなかったっけ。捜査情報聞きたいかも。私もいい加減今の情報をちゃんと詳しく……ミナ?」


「あっ、え?わたし?」


「……ミナ、嘘だよね?」




冷や汗をかいて目線を彷徨わせるミナ。私のデータが正しければ、これは……話についてこれていない顔。




「まさか特別捜査員って名前の役職で脳筋タイプなこと無いよね……?」


「おいミナさんを舐めるなよ、ありとあらゆる機体にすぐ順応する天才的な頭脳と卓越した操縦技術を持つエースパイロットだぞ。腕も頭脳も凡人とは違うんだ」


「あ、あ、ナインさん、ナインさんまって、ゆるして、」




ミナの顔に説明書を読まない野生の勘タイプのパイロットだと書いてある。


そしてナインが褒める度に顔色が悪くなっていく。




どうしよう、どんどん会話が続いてどんどんミナが曇っていくが、助け舟を出すべきなのだろうか。






「ミナ、どうする?自分に憧れてて命懸けで助けに来た後輩の夢、一旦砕く?」


「あ、あ、たすけて、無理、もう無理、わたしやっぱり自分の事好きになれない……消えたい……」


「そして結構気軽に闇堕ちしがちだよねミナ。ちょっとずつ分かってきたかも……」




私にしがみついて隠れながらまたダークな感情に飲まれていくミナ。基本的には美人で強くてかっこいいのに、人間は複雑だ……






一旦ナインの話を上手いこと打ち切って一度話をお開きにする。どうせ本当にじっくり作戦会議出来るのは後だ。ミナを守るついでに、先に大変な用事を全部済ませておこう。




すぐメテオタベタラーを呼ばなかった理由でもある。大精霊魔法は疲れるから。






治療の時間だ。






あんな無茶をしたナインが無傷で汚染も無く元気と気楽に考えない程度に私は賢いんだから。ちゃんと彼女の身を案じる優しい彼女を後でもっと褒め称えて貰わなければ。

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