第4話 ヒーロー&ヒロイン&NTR
いきなり実戦に放り込まれて撃たれまくった挙げ句妙な精神ダメージまで受けた私は若干疲労感を覚え、とりあえず休憩所のある上の区画に戻ろうとしていた。
やたら広い上によく分からない秘密の通路だらけなので最先端ロボの筈の私でも研究所のマップ把握に難があり、ぶつぶつ文句を言いながら壁の中のハシゴや隠し扉を抜けていく。地図苦手。
その帰路の途中、私はふと何か違和感を思い出し、周囲の通路や施設を注視する。なんだろう、何か、何かがおかしい。うまく言えないが先程の戦闘よりも息が詰まるほどの緊迫感をどこからか感じる。
そうだ、違和感。あの戦闘の最初。最初に射線に割り込んで地球防衛隊の無人機を守ろうとした時。一機だけ困惑したような動きを……あれは……
『なんだと!?』
その瞬間、今まで聞いたこと無いハカセの本気で焦ったような声が耳元の通信機から響き、次いで今度は突然明らかに警報と分かるビーッビーッとけたたましいサイレンが研究所全体に鳴り響いた。
「ハカセ!これは!?」
『緊急事態だ!メタニン、頼む!!助けてくれ!!』
耳元の通信機から悲鳴が漏れ、反射的に飛び出した私の体が先程戦闘を終えたばかりの現場へと全力で駆け出していく。
『有人機だ!有人機が居る!』
状況を理解すると共に進行方向を変える。
少し意外だったかも知れない。ハカセはあまりこういうことで取り乱すイメージが無かった。
『地球防衛隊のパイロットを助けてくれ!!』
「はい!!」
まさか本当に他人の命が大事なタイプだったとは。
もし、これが何の思惑もない素の反応で、私を作った目的にも嘘偽りが無いのなら。
私は誰かを守りたいという願いで生まれ、今その力を正しく望まれている事になる。
……。
……まぁ、ピンチの原因もまたハカセなのが酷い所だが。ハカセが危険視されて起きた事件なんだから。だからまだ素直には認めてあげない。胸に温かい力が点ったのは確かだけれど、ちゃんと認めるにはまだまだ。全然駄目。
それに責められるべき点は私にもある。最初に銃撃戦に割って入った時、他と違う変な動きをした機体があって、それにはちゃんと気づいていたのだ。その上で深く考えず見逃してしまった。自分で判別出来ずとも、ハカセに一言でも聞いていれば事情は変わっていたかも知れない。
全ては後で。ちゃんと反省して叱って、後でちゃんと話すから。
だから、今だけは。
──今だけは余計なことを考えず、真面目に本気で行こう。
「ヒーローモード実行!」
体中が発熱し、パーツの隙間や関節部分が赤く光り輝くと、脳内の処理速度が大幅にブーストされ、身体操作のリミッターが解除される。段違いに加速した速度は制御も非常に難解になるが、その制御能力もまた激増している。
『なんだその機能!?』
最優先プログラムとして実行の推奨が脳裏に浮かび上がってきた機能だ。ちゃんと学習データにも載っているのでハカセが知らないわけが無いが…今は放置。
本来の私は地図の理解や立体把握があまり得意ではないが、激増した処理速度と感度を極限まで上げたセンサーで施設の立体構造と保護対象の位置を明確に特定し、更にその生命を脅かす脅威を確認する。
……これならハカセが本気で慌てたのも無理はない。
地球防衛隊の有人機が向かう先は燃料区画。驚くべき操縦技術で例の自動迎撃を躱しながら猛スピードで危険な場所へと突き進んでいる。恐らく、これは特攻だ。どう見ても退路を考えながらの動きでは無い。最初の戦闘でこちらの戦力を確認し、その絶望的な差から何らかの覚悟を決めたのだろう。
そしてもう一機、地球防衛隊の進む先で待ち構える機体。サイズは地球防衛隊の有人機より倍近く大きく、そのボディの比重と搭載兵器の脅威度は文字通り桁外れに違う。間違いなくハカセ側の機体で、今まさに人の命を奪いかねない危険な兵器だ。
更に全力で速度を上げて複数の区画を最短ルートで駆け抜ける。
「ハカセ、進路上にいる機体がとてもマズイです!」
『頼むなんとかしてくれ!短時間でワタシが介入出来る相手ではない!もたもたしている間に人が死んでしまう……』
「マッドサイエンティストには安全装置という概念が無いのか!?なんで自分の装置を逐一ハッキングしないと操作出来ないんだ!」
『ごめんなさい…ごめんなさい…!』
まぁ重要な防衛箇所に置かれている迎撃兵器が外から簡単に制御出来たらそれはそれで危ないのだろうけど、もう少しちょうどよい感じにならないものなのか。
爆発の危険がある燃料区画。その出入り口付近の守護に現れたと思われる危険な機体。銃弾の雨をかいくぐりながらそこへ突進していく地球防衛隊の有人機。まさかこんなにシリアスな危機が突然訪れるとは思わなかった。
だが間に合う。
メテオタベタラーと戦った時点で自分の身体能力が想像より遥かに高いことは分かっていた。怪獣を空に蹴り上げる程度には。
更に、その体のリミッターを一つ外した状態でなら、私の駆ける速度は地球防衛隊の機体より遥かに速い。最後の直線に出てから一気に加速すれば、目標の機体はもう目の前だ。
ここまで来ると、もはや速すぎて困るくらいだ。止まれない。
「どいてえええええええ!」
「なっ!?えっ!?」
地球防衛隊の機体に後ろから突っ込む寸前でギリギリ跳ね上がった私は、そのまま壁を蹴り天井を駆けて救助対象を追い抜き、そのまま百メートル程先に居る白銀の機体へと飛び蹴りを放つ。
かなり間一髪の状態で、迎撃装置の銃弾の嵐の中、地球防衛隊の機体は牽制射撃と操縦技術だけで燃料区画へ突入しようとしていたし、門番のように立ち塞がる白銀の機体は完全に照準をその機体に定めていた。
私は私で全力疾走しすぎて減速距離が足りなかったし、1秒を争う状態でもあったので、結果的にかなり蛮族な登場になってしまった。
内心、本当に正直に言えば、ヒーローモードという響きが大変格好良く気に入ったので格好良く登場したかった。今後の課題になるだろう。
白銀の機体は不意に現れた新たな標的にも即座に反応して照準を合わせて来たが、恐らく私のサイズと移動速度は常識的な動きとかなり異なるため補正が合わず、そのズレを修正しようとする一瞬の間に私の飛び蹴りが脚部の関節に直撃する。
……直撃するが、想像していた音が鳴らない。私のだいぶ頑丈な金属的ボディと巨大な金属質の機体が凄まじい勢いでぶつかったのに。
表面は確かに硬く凹んだ様子も全く無いのに、ズムッという鈍い音と沈み込むような感触だけが足に伝わる。
「~~~~~~っ!?柔らか硬い!なんだこれ!」
本当は脚部の関節を蹴り飛ばして体勢を崩させるつもりだったのだが、人型の騎士みたいな白銀の機体はどうやら素材から異質なガチの兵器らしく、その装甲は硬いゴムを蹴った感触に近い。見た目は明らかに金属質で間違いなく硬いのだが、曲面で構成されたボディと妙な衝撃吸収性で力が正しく通らない。怪獣が空に浮かぶ威力の蹴りで、無傷の不動。これは…なかなか数値以上に厄介な…。
不意に磁力のようなものを感じ、体が弾き飛ばされる。バリアなのか近接武器なのかは分からないが、予備動作も視認も出来ないのは普通にずるい。壁に叩きつけられそうな状態から体を無理やり捻って受け身を取り、追撃の射撃を弾き飛ばしながら壁を蹴って反撃に転じる。
私は素手なので必然的に超近接戦になるが、弾かれたり距離を取られるとすぐ射撃の雨嵐で、弾を弾く角度や流れ弾の方向を気にしないと救助対象が滅茶苦茶危ない。
これで地球防衛隊の人が私を囮に燃料区画への入り口へと無謀な突進をしていたらちょっと危なかった。迎撃装置の銃弾と大量の流れ弾が飛び交う通路の中を直進でもされたら守りきれるかだいぶ怪しい。幸いそこまで無謀でも無ければ庇ってる私を放置するタイプでも無いらしく、むしろ援護射撃が邪魔かどうか迷うような素振りで距離を保っている。
「地球防衛隊の人!!お願い撤退して!!」
「……っ!おねがい!最後のチャンスなの!!」
「もーーー!!」
駄目だやるしかない。
現状この兵器を短時間で無力化するのは無理だ。想定より遥かに強すぎる。
ただ、ヒーローモードを使用した私も恐らくデータ上は無敵の最強ロボだ。勝利条件が無力化では無く特定の条件達成ならば勝機は十分に……いや絶対勝てる。勝って見せる。
「勝負!」
射撃と斬撃を受け流しながら一気に間合いを詰める。最初に食らった突然バリアが広がるような衝撃が放たれるが、それを全身の回転でいなし足元まで潜り込み、そこから全力でジャンプして股間部をドロップキックで蹴り上げる。
今度もズムッという鈍い音で衝撃が逃げる感覚もあったが、今度はこちらも相手を損傷させてしまう覚悟で力を込めた。いくら優秀な装甲でも力の大きさと方向を完全に消せるわけでは無い。僅かに白銀の巨体が浮かび上がって体勢が崩れ、そこに私の渾身の回し蹴りが叩き込まれる。
勢いよく吹き飛ぶ巨体を見て目的の達成を確信したが、燃料区画の入り口に叩きつけられそうになった白銀の機体は素早く推進システム群を動かし姿勢制御を行い、追撃に身構えるように低い姿勢で着地する。
「うわ……強……」
あまりの強敵っぷりに手足が冷える感覚を味わう。
でもまぁこれなら結果は上々だ。あれを倒せと言われていたら頭を抱えていたが、地球防衛隊の人を足止めして白銀の機体と距離を離せれば第一条件は達成している。
幸いヒーローモードの私は脳の処理速度も通常時より遥かに速く、元からある天性の賢さが青天井に輝いている。
「精霊!スライムー!」
白銀の機体から飛び退きながら両手から信頼と実績の無力化スライムを大量召喚して放ち、まずは迎撃装置を無力化していく。
本当はこれで白銀の機体も地球防衛隊の機体も封じられれば楽で良かったのだが、ここまで銃弾を躱しながら進撃してきた凄腕パイロットがびちゃびちゃ巻き散らかされるスライムに今更当たるわけもなく、白銀の機体もまた腕部から出たビームソードっぽい何かを振り抜いて弾着前に全てを焼き切り蒸発させる。
でも、これで道は塞いだ。この位置、この距離関係で壁を作れれば、もう十分の筈だ。意図が通じたのか、地球防衛隊の機体が動揺したように後ろに下がり、スピーカーから詰まった声を漏らす。
「そんな…」
長く広い直線通路の先に燃料区画の巨大な入り口、その手前に白銀の機体、そして更にその前には今出来た巨大なスライムの壁。危険な機体と地球防衛隊を十分な距離で分断し、無茶な突進を不可能にした。この精霊はあまりにも有能すぎる。これで服を溶かすエロスライムで無ければ完璧だったものを。
「諦めて撤退して下さい!死んじゃダメ!」
後は説得さえ成功すれば救助成功だ。幸いスライムの壁の向こうから白銀の機体が動く気配は無い。機体の圧倒的性能差が逆に幸いし、いきなり飛び蹴りしたり扉に近づきすぎなければ警備状態止まりで積極的排除では無いのだろう。あるいは私の速度を警戒し扉の守護に重きを置いたか。
肝心の説得が難しいことも分かっている。最悪、隙を見て突っ込んでゼロ距離から無理やりスライムを当てて確保する。
「……無理です。あなたこそ逃げて。」
「あっ良くない気配出てきた」
「この機体は爆発するわ。無駄死になってしまった……皆……ごめん……」
「ああーーー!もうーーー!」
最悪が早速更新されてしまった。パイロットの声を聞いた瞬間嫌な予感はした。絶望した女性の声。突然邪魔されて怒るのでも無く、最後を悟り諦めた震える悲しい声。
「あなたが何者で……敵か味方かも良く分からないけれど……逃げて下さい。例え偽物や模造品であっても、子供のヒーローを最後に巻き添えにしたら……地球防衛隊を名乗る資格すら……」
「ちょっと!そういうのいいんで早く降りて!抱えて逃げるから!!」
シリアスっぽい話は聞き流し、センサーでコクピット部分を割り出す。いざとなれば無理やりこじ開けて安全な場所まで連れ去れば
『ダメだメタニン開けるな!そこは生身じゃ無理だ!!』
コクピットに飛びついた瞬間ハカセから突然警告が走る。緊急だからか耳元の通信機でも全体スピーカーでも同時に叫んでいる。通信機が壊れてたり聞き逃したらまずかったのでそれでいいが、感度を上げていたので耳がキンキンして痛い。
「ああーーー!どうしてそういう……パイロットスーツとかは!?」
『どのレベルのスーツか信用できん!むしろコクピット越しでも不安だ!!爆発物だけ切り取ってそのまま別の区画まで連れ去ってくれ!』
「そんな無茶な…!」
熱量部分は分かるが何がどう爆発するか分からないし、何より私素手なんだけど。自分より何倍も大きい機体をチョップで解体しろってのか。
思考が甘かった。私が頑丈ロボでハカセも変なスピーカーボディでしか見ないから、生身の人間をちゃんと想定出来ていなかった。
『もう本当にどんな精霊でも文句言わないからなんとかしてくれ!風の刃とか氷のカッターとかそれっぽいの色々あるだろ!』
「風とか氷でロボが切れるわけないだろ!精霊魔法なめてるのか!」
『ええー!?い、いや、普通はそういう…』
その瞬間。
ハカセとの会話に意識が向いてしまったその瞬間。
地球防衛隊の機体が突然曲芸みたいな動きを見せて壁を駆け上がり、スライムの壁の上端へ凄まじい射撃を開始する。
重みの関係上スライムの壁は上に行くほど密度が薄く、そして天井との接面部を切り離すようにグレネード弾とライフル弾を打ち込まれると、壁の上端部と天井の間に大きく隙間が空いてしまう。
どう見てもそんな動きが出来る機体では無いのに、凄まじい機動と異様に正確な射撃が、油断した私の隙をついて壁上部の一点を突破していく。
「待って!!無理だよ!!!」
でもダメだ。そんなことをしても無駄だからこそ油断していたのだ。
元に戻ろうとするスライムに絡まれながら無理やり通り抜けようとする地球防衛隊の機体に、白銀の機体が照準を合わせる。あのパイロットだって分かっていたはずだ。どこから敵が来るか分かっていたら狙い撃ちされるに決まっている。それも動きが鈍くなった状態でモタモタ直線的に出てくる相手なんて弾を外す方が難しい。
『メタニンーーー!!』
「もーーー!分かってる!分かってるから待って!!私こういうんじゃないんだよー!」
子供向けのオモチャな見た目の私にそんな大人向けシリアスの対応をさせないで欲しい。いや分かるよ。こういうのが嫌だからこの見た目なんでしょ。大人の世界のどうにもならない現実的な悲劇を、子供向けギャグ作品系のちょっと変で笑い飛ばされるような事件に変えたいんでしょ。
どんな形にも意味があり意志があり理由がある。私の形は、恐らく子供の希望。あるいは大人からみた子供の頃の希望。
だからあのパイロットの行動も分かる。あの人は私を攻撃できなかった。そして自分の背負う物も大人だから捨てられない。私が逃げず自分も引けないなら、奇跡的に突破するか、せめてスライムの壁の向こうで爆発させるしかない。もし悪意をもってこの見た目を利用するつもりで作ったならハカセは本当に罪深く悪逆非道だぞ。
だから真意は後で問いただす。ついでに学習データの中身についても話がある。
「あんまり変な精霊の力は頼りたくないけど……怪しいデータを学習させたハカセが悪いんだからな!」
今度の精霊は概念エネルギーなので、召喚ではなく両手に力を宿す。あの時、スライムの精霊と同時に候補に上がっていたデータ。あれがエロスライムだったのも今は分かる。
「行くぞ…全員後で反省しろ!」
決死の覚悟で突っ込む地球防衛隊の機体と、明らかに次元の違う兵装を向ける白銀の機体。その間に割り込むにはこのデータしかない。割り込みの専門家ですらある。
子供向け玩具みたいな見た目のロボに、よくもえっちなデータを学習させたな。
いきなり飛び込んできて、よくも大人のシリアスを押し付けたな。
……お望み通り、子供のギャグみたいで、それでいて子供向けには見せられない事件に堕としてやる!
「精霊!!NTRビーーーーーム!!!!!」
『はーーーー!?』
「!?!?!?」
2本の光線が一瞬で二機を貫き、眩いピンクの光が対象を包み込む。片方ではない。両方同時NTRだ!
2つの機体の目やそれに準ずる部品がハート型に光り出す。概念ビームが直撃したのだ、耐えられるわけがない。即落ちという現象らしいが詳細は省く。
『お、おま、今なんて』
「!?!?!?!?」
驚愕するハカセと、何が起きたか分からず硬直する地球防衛隊のパイロット。だがどちらも相手にしている時間は無い。
「白銀!地球防衛隊の機体から爆発の可能性のある箇所だけ切り取って!!」
スライムの壁を解除しながら白銀の機体に指示を飛ばす。
「地球防衛隊の機体は大人しく切断されたあとパイロットを乗せたまま出口まで退避…っ!いや出来ないのか!」
白銀の機体がビームソードではなく物理的な剣を反対側の腕から出して特定箇所を切断するが、それはメインエンジン部だった。幾つかの部品を良く分からない手順で切断してから全体を切り離していたので、多分私の意図を汲んで良い感じにやってくれたのだろう。NTRすごい。
ただ、これではもう地球防衛隊の機体は動けないので、後は私か白銀の機体に頼んで運ぶしか無い。
一瞬迷ったが、もうすぐ爆発する部品と人の乗った部分の2つを見比べて、人命救助は私、爆発物処理は白銀の機体に任せる事にする。安全圏まで移動した後は私のほうが小回りが効くし、救助を主軸に考えれば精霊魔法で応用の効く私のほうが退路は安心だ。そして不意に爆発したら私のサイズでは爆風を抑えきれないが、白銀の機体なら防ぎ切ってくれる筈。
急いで指示を出しつつ、防衛隊の機体を掴んで走り出しながらハカセにも確認を取る。
「ハカセ!ここ爆発物置いてっても大丈夫!?今白銀の機体が持ってくれてる!」
『あ…えっ!?なに!?どうなったのかよく…』
「2つの機体両方ともNTRした!ほら目がハートでしょ!」
『うわほんとにハートに光ってる!?!?お、おま、NTRって』
「いいから早く!爆発物は!?」
『あっ、え……っと、置いてっていい。……いや、燃料区画の中に運び込ませろ』
「!?」「!?」
今度はこちらが驚愕する番だ。状況をなんとか急いで飲み込んだらしいハカセが突然過激な事を言い出した。中の女の人も驚いてうまく言葉が出ないようだ。
立ち止まって長話している余裕はないので走りながら会話を続けるが、引きずっている機体が重くて思ったほど速くは走れない。
『走りながら聞け。その中で爆発させれば外に漏れないのでより安心だ。ついでに無謀な作戦が無駄だと分かって貰えるだろう。もう無駄死に行為されたくない。最初から言っているが、今この場で助けが必要なのはそのパイロットだけだ。メタニンもガーディアンも燃料区画も別に何一つ心配する要素がない。いやちょっとガーディアンのハート目は不安だけど。』
「えっと、本当に爆発物を燃料区画に入れていいの?」
『隔壁の向こうに危険物を移すイメージで良い。ガーディアン…その白銀の体で入り口を塞げば更に万全だ。中で誘爆があろうと大した問題では無いし、そいつはどうせ無傷だから盾にして良い』
ハカセの話通りに白銀の機体に指示を出す。後ろの方で入り口から乱暴に爆発物を投げ入れる姿が見えて存在しない筈の肝が冷えたが、こちらもあまり確認している余裕はなく前を向いて走り続ける。
……結構衝撃的な事を言われたと思うのだが、パイロットの女の人はもう何も言わなかった。いや衝撃的だからこそ何も言えなくなったのかも知れない。爆発しても問題無いなら命がけの作戦そのものが無駄で、心配されていたのも襲撃側である自分だけだと知ったら、さすがにプライドが傷ついたり悲しい気持ちになったりするのかも。
数分後に遠くでズンという鈍い音と微かな振動を感じたが、その頃にはかなり距離が離れて別の区画に入る所だったし、やっぱり中の人もあまり反応しなかった。私の高感度センサーで小さく感じたレベルなので、もしかしたら気づけなかったのかも知れない。どうやらハカセの話は本当で、別に爆発自体は何も問題無かったらしい。
その後、ハカセの案内通りに大きな広間のある区画まで地球防衛隊の機体を引きずっていって、ここなら安全だという言葉でようやく緊張を解く。一応自分でも確認するが、センサーの数値を脳内で見る限り人間が快適に感じる状態で整えられていて、恐らくここは居住用の区画なのだろうと想像する。何も置かれていない広い空間なのであまりそれっぽさは無いけれど。
『さて、今度はコクピットを無理やりにでも開けて、中のパイロットの健康状態を確認してくれ。もし問題のある状態で立て篭もられたらまずい。』
「そ、そうか、了解!」
ちょっと気を抜きかけていた私は慌てて地球防衛隊の機体に話しかけ、コクピットを開いてもらう。中の人の意思がどうあれこの機体の方が私に堕ちているので、頼み事は簡単だ。メインエンジンがもう無いのでサブ動力とかで駆動できるのか気になったけど、さすがにコクピット部分は独立稼働出来る安全設計のようで、幾つもの安全機構や複数の別手段で開閉可能のようだった。どこかのマッドサイエンティストにも見習って欲しい。
ぷしゅっという空気音の後に複数の駆動音がして開口部が開き、パイロットの女の人がゆっくりと立ち上がって中から出てくる。
宇宙服をスリムにしたような白いパイロットスーツとヘルメット。
そして透明なフェイスシールド越しに見える整った綺麗な顔はとても美人で
……その目にはハート型の光が浮かび上がっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます