第2話 怪獣とどんぐり

『さて、改めて誕生おめでとうメタニン。これでやっと人類に希望が見えた』

「私にも改名のチャンスという希望が欲しいです」


スポーツの歴史についての説教が私によって繰り広げられたあと、私ことメタニンとハカセは廊下の途中にある休憩所らしき場所へと移動し、ようやくまともな会話を開始しようとしていた。


本来ならあと数時間は説教したあと拘束して改名するまで逃さない予定だったのだが、このハカセというのが曲者で、今私の隣に座っているのも黒く四角いスピーカーに玩具みたいな手足が生えた謎の化け物であり、本体がどこに居るのか分からないのだ。


女性っぽい声もボイスチェンジャーかも知れないので気をつけろと脳内インターネットマニュアルが訴えてくる。



『本当は、使命も目的も無くただ生まれたからただ好きに生きるロボこそ真の機械生命の完成形だと思っている。その点では誠に申し訳ない。君には果たさねばならない使命がある』


急に神妙な態度で、黒く四角いスピーカーが頭を下げる。人間の子供サイズくらいあるのでまぁまぁシュールだ。


「いや、まぁ……急にそんな畏まられると強く出にくいというか……一応聞くだけはちゃんと聞きますけど、使命ってのは具体的にどういう感じなんですか?」


『隕石の破壊だ』

「ミサイル撃て」


『より詳しく言うと危険な宇宙隕石生物の完全破壊だ』

「あっ急によく分かんなくなってきた!」



ちょっと真面目な感じだったので一応しっかり話を聞こうと思ったのだが、やっぱり聞かないほうが良かったかも知れない。



『やつはだいぶ速いし弾もわりと避ける。しかも不死の巨大鉱石生物だ。そして多分ビームとかも撃ってくる。今現在あれを倒せるとしたら恐らくメタニンだけだろう』


「私ビーム撃ちながら超高速で飛んでくる不死身の鉱石生物と宇宙で戦うんですか」

『そうだ。さすがスーパー人類ロボ、理解が早い』

「無理に決まってんだろ!!」

『えっ!!?』

「なんで意外そうなの!?そんなんロボでももっと超巨大兵器っぽいやつにエースパイロット乗せなさいよ!!」

『奴は月よりデカいから逆に1km級の巨大兵器だろうと人間サイズだろうと誤差みたいなもんだよ』

「じゃあもっと駄目だよ!!どうやって止めんのよそんなやつ!?ゴールキーパーの精霊に半径2000kmとかの隕石キャッチしろって言うのか!!



背が低く3等身くらいの関節の丸いオモチャみたいなロボが、月よりでかい隕石の前にキーパーグローブを装着して立ちはだかる。自分のことじゃなければ意味不明なギャグだと流せたかも知れないが、既に一度サッカーゴールの前に立たされて野球ボールを受けたのだ。何をやらされても不思議じゃない。



『エヒヒ…ッ、ゴールキーパーの精霊まじで意味わからんくて笑ってしまう』

「お前が作ったマジカルロボのマジカル要素だろうが!!!」

『エヒョヒョヒョヒョ……!』

「おい笑うな!!なんでこっちがおかしい感じにされてるの!?!?納得いかん!!!」



このふざけたくそマッドサイエンティストを一旦黙らせようとスピーカーをべしべし叩くが材質が異様に重厚で全く手応えが無い。こいつ絶対計画が失敗しても自分だけは生き残るタイプだ。



『ホヒュ…ッ、ま、まぁ問題ない、心配するな。計画は順調だ。メタニン、君は自分が想像しているより遥かにやばい』

「やばいの意味によっては隕石と手を組んででもハカセを倒す計画が発動しますけど」

『ホヒーヒヒ!順調!では早速修行シーケンスへと移ろうか』

「笑い方えぐすぎる!」



突然休憩所のそばの壁がスーッと開くと、そこから機械の触手が飛び出してきて私を掴み、穴の向こうへ引きずり込んでいく。


「はぁーーー!?!?!?」


壁の中にあったカタパルトらしき何かに触手でぐるぐる巻きに拘束された私は妙に可愛らしい機械音声による謎のカウントダウンを耳にする。


<ごーぉ、、よぉーーん、、、さぁぁーん、、、>


「なぜ立体音響で艶めかしくカウントする!?やめろ!声が近くてゾワゾワする!!」


<にーぃ~、、いーーーちぃ……、、、>


「おいハカセぇ!!!なんかエッチな音声作品買ってるだろ!!!やめろぉ!!!」


<ゼロォ!!!ゼロ!!ゼロ!!ゼローーぉ!!!>


「なぜ連呼するぅうううううわああああああああああ!!!!」



バシュッという破裂音と共にカタパルトが急速発進し、私が高速で地上に打ち上げられる。どうやら研究所的なものは山奥の地下にあったらしく、空高く放り投げられた私は自然豊かな緑の光景とどこまでも広がる青空に思わず息を呑む。


「……!」


それは私が生まれて初めて見る綺麗な景色。ロボットである私の人工知能が正しく良さを理解出来ているのかは分からないが、思わず気分が高揚し今までのふざけた出来事を一瞬忘れるほど美しい青と緑の世界だった。



そして、ふざけた出来事を忘れられていたのは本当にその一瞬だけで、空には見えない天井が張られていて、垂直に射出された私はガゴンッと派手に頭から激突し、あまりの不意打ちに何が起きたかも理解出来ぬまま落下しはじめる。



『あ』

「ハカセぇええええ!!!!」

『すまん思ったより軽かった。いい感じに身構えてくれ、すぐ戦闘開始だぞ』

「すまんで済むかっ……えっ何?今戦闘って言った?」



急に出てきた不穏な単語に思わず周囲を見渡すと、今まで目に入っていなかった真下に巨大な影が見えて、ようやく自分の置かれた状況が分かってきてしまう。


なんかでっかい怪物が落下地点に居る。



『初心者こそまずは実戦を経験すべきだ。やってみないことには何が分からないかも分からないからな。まずはそいつを倒すのだメタニン!』

「まずは着地出来るかどうかからだよ!何で打ち上げた!!」


『お前のボディは別にその程度の高さから落ちても何の問題も無いぞ。着地する前に襲われると思うが』

「ハカセぇええええ!!!絶対!!絶対許さんからな!!!」



いつのまにか耳に付けられていた通信機からの忠告通り、眼下の巨大な怪物が落下中の自分に突進してくる。もう間違いない。本当に理解したく無かったが、どうやら最初の修行シーケンスとやらはこの怪獣と戦わされる事らしい。


「精霊!ゴールキーパーー!!」


とっさに自らの最大戦力である精霊魔法を発動し、魔法のグローブを手にはめてガードを固める。ガギーーンッという大音量の衝撃音と共に私はガードごと吹き飛ばされ、木々をなぎ倒しながら地面へと激突する。


「いったぁあああ!!!!めっっちゃめちゃいたい!!!!はぁぁぁ!!?!?全然普通にめちゃくちゃ痛いーーー!!!!!」

『もうちょい痛覚の設定抑えめのが良かったかね』

「まず痛覚使うような状況を控えて欲しい!!!!」

(((キーパーにタックルは反則だろ)))



どうやら最強のロボというだけあって体はかなり頑丈らしく、いきなり天高く放り投げられ巨大な怪物にタックルされて地面にめり込んでも体に傷はなく、心に傷を負わせたい相手が出来ただけだった。



『奴は隕石破壊メカ試作機のひとつ、資源パクパク怪獣メテオタベタラーだ』

「もう誰が悪か完全に理解しました」



とりあえず全く打つ手が無いので森の中に逃げ出す私に、べらべらとハカセが語り始める。


手が小さく二足歩行する恐竜みたいな姿はまさしく怪獣。形状としてはまぁまぁトカゲなので、もし人間大のサイズだったらトカゲ人間と呼んだであろう。



『いきなり巨大な兵器を無理して作るのではなく、資材捕食による巨大化能力を持つ兵器が自ら必要に合わせて大きさを変えれば良いというコンセプトの試作機で、サイズの問題をクリア出来れば巨大隕石にも対抗出来る筈だった』


「あっサイズ問題もう試してはいたんですね」

『しかし、メテオタベタラーは食えば食うほど巨大化する自分がいつか自重に負け超巨大ブラックホールになってしまう事を予見し、最初の食事以降一切何も口にせずそこに居座ってワタシの製作する試作機を見つけては破壊し続けている』


「早速自分のロボに全力で恨まれてるじゃん!このマッドサイエンティストが!!!」



喚きながら逃げ惑う私に怪獣の巨大な足が迫る。


「ギャオオオオオオ!!!」

「ぎゃあああああ!!!」



咆哮と共に激しくストンピングしてくる巨大な足をかろうじて避けながらバタバタと逃げ続ける私。駄目だ、ゴールキーパーの精霊と頑丈な体で受け止められたとしても、踏まれまくったら絶対痛いし結局相手は止まらない。攻撃され続けるだけだ。


ここは……一旦説得しよう!ハカセの話を聞いた感じ、むしろ話が通じるのはハカセではなく怪獣の方だ!!


「タイム!ターーイム!!メテオさん!メテオタベタラーさん!!一旦休戦!一旦休戦しましょう!!」

「そのクソダサイ名前で呼ぶナ!!!」

「ぎゃあああああ!!!」



一際激しいストンピングが地面にめり込む。話は通じたが攻撃は更に激しくなった。


このままじゃ駄目だ、避けるのに必死過ぎて精霊魔法もなんも思いつかない。とにかく考える時間が欲しい。初めての外出でいきなり怪獣に踏まれてたら正しい対応なんてできるわけが無い。



「待って!ほんとに!分かります!一旦待って!私もなんです!!気持ちわかるんです!!待てって!!私なんてマジカル=メタニンですよ!!!人類ロボの!!!」


「ダッサw」

「お前ふざけるなよ!!?!?似た苦労を背負った仲間みたいな感じになるとこやろが!!」

「マジカルw」

「うわーー!!許せない!!!絶対許せない!!!ハカセも!!お前もーーー!!!!」



交渉は一瞬で決裂した。だが仲間だと一瞬思った相手に煽られた怒りはあまりにも果てしなく、話し合うにしても一旦叩きのめしてからじゃないと無理になった。


「ゴールキーパー解雇ぉ!」

(((えっ!?)))



精霊魔法しか頼るものが無いと言えどゴールーキーパーは守る為の物。向き不向きというか役割が全然違うので一旦帰ってもらう。


「メテオタベタラー!!!謝るなら今のうちだぞ!!!ハカセという同じ敵を持つもの同士、仲間にだってなれたんだぞ!!!」

「マジカルロボと一緒にされてもナーw」

「こいつーーー!!!!!!!」



最後の交渉も即決裂した。どんぐりの背比べほど虚しいものは無いが、隣のどんぐりがちょっとの優位でアホほど煽ってきたら格上に煽られるより百億倍ムカつくとAIが判定している。



「メテオタベタラー……!お前は……!!」


この熱く燃える感情はもはや止められない。顔真っ赤状態と呼ぶらしい。


「お前はーーー!!!」


だが止まる必要も、冷静になる必要も無い。だって煽ってきたほうが悪いもん。絶対そう。

だから。だからお前は…!


「お前は!!!精霊になれぇえええーーーー!!!!!」


「!?」

『!?』



全力で飛び上がり怪獣の顎下にキックを決めると、衝撃で浮き上がった怪獣の巨体が突如現れた上空の魔法陣に吸い込まれていく。


「グワアアア!!何コレェ!?!?マジカルってこんな感じなん!?」

「マジカルがどういうものかはマジカルである私が決める!!!」


『い、いや、メタニン、精霊魔法ってそういうんじゃ…!』

「精霊にしてるでしょうが!!」

「怖ッ!!!」

『怖っ!!!』



怒髪天を衝いた煽られ耐性ゼロの私の精霊魔法で資源パクパク怪獣メテオタベタラーが精霊にされていく。


「しばらく下っ端精霊としてこき使ってどっちが上なのか叩き込みます。いつか戻して欲しいなら従順に働くように」

「嘘ォ…!?マジカルロボやばあぁぁぁぁ……!!」



断末魔と共に光の粒となったメテオタベタラーが消えていく。


お前がマジカルを煽らなければそこまでマジカルな事にはならなかった。もしかしたら共に肩を組みハカセを倒す仲間となれたかも知れないのに。

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