第3話 再誕する『対の魔王』


「くっ……」

「ぐっ……」


 セイラが立ち去った後、フィーラ―セフィラとリーファ―クリファの身体は元のサイズへと戻り、地面に膝を着く。

 それと同時に、顕現させていた魔装は消え去っていた。


「……やっぱり精神体だと魔装の維持も厳しいみたいだね」

「そうだね。となると、やっぱり……器たる肉体が必要だね」

「本命はセイラに連れ去られちゃったから……」

「予備の肉体を乗っ取るしかないね」

「そうだね。でもその前に……」


 セフィラが魔法陣に目を向けた次の瞬間、魔法陣から禍々しい魔力が溢れ出した。

 その魔力は神殿内に留まる事無く、神殿を中心に世界中に広がっていく。

 そして空を、真っ黒な雲が覆っていく。


「あははははは! ここまで来れば、後は自動的に神々がご降臨なされる!」

「そうだね! 万全の状態で神々を迎える為にも、肉体を取ってこなきゃね!」


 セフィラとクリファはそう言葉を交わすと、ヨグ神殿から飛び出して行った。

 己が見出だした、肉の器を乗っ取る為に―――。




 ◇◇◇◇◇




 ダイヤモンド帝国帝都、ディアマンテ。

 そこに建っている帝城でも、その異変ははっきりと感じていた。


「至急、この異変の調査を! それと有識者を召集してください!」


 陣頭指揮を執るこの国の第一皇女であるベアトリーチェが、テキパキと指示を出していく。

 その指示に従い、城内にいたヒト達はせわしなく動き回る。


 ベアトリーチェは彼等から視線を外し、傍らに控えていた護衛騎士であるラインハルトに尋ねる。

 彼は彼で、何処かと連絡を取っている様子だった。


「……ラインハルト。彼女達との連絡は?」

「…………すみません、繋がりません。もしかしたら、この異変の影響で電波障害も発生しているのやも」


 携帯電話の発信を切り、そう答える。

 禍々しい魔力と暗雲が溢れ出した際、ラインハルトはベアトリーチェの指示でマシロかクロナと連絡を取り、彼女達を帝城に呼び寄せてほしいと命じられた。


 ラインハルトがクロナと恋仲になっている事はベアトリーチェも把握していた―と言うかラインハルト自身が報告していた―ので、彼を頼りに『星霊』を退けるだけの実力者である二人に協力を仰ぎたかった。


 しかし結果は、彼女達と電話が繋がらないという結果だった。


「どうしましょう……彼女達の力が必要になるかもしれないのに……我が国の騎士達の実力を疑うわけではないですが、やはり魔装を扱う二人がいれば……」

「みぃ〜つけた〜」


 すると突然、大広間に第三者の声が響く。

 その場にいた全員がそちらに目を向けると、そこには一人の妖精―クリファが浮かんでいた。


「あら? 貴女は、マシロさんとクロナさんと一緒にいた……」

「ベアトリーチェ第一皇女、単刀直入に言う。貴女に、あの二人と同種の力を授けるよ」


 クリファの言葉に、ベアトリーチェは驚きを露にする。


「本当ですか!?」

「うん。さあ、こっちに」

「お待ちを、姫様」


 クリファに近付こうとしたベアトリーチェを、ラインハルトは静止する。

 そしてクリファに、質問を投げ掛ける。


「クロナとマシロ殿は何処にいる? 二人と一緒じゃないのか?」

「二人は、あの異変に巻き込まれて……」


 そこで言葉を区切り、クリファは視線を逸らす。


「ラインハルト。お二人が危機に陥っているのであれば、あの時の恩を返すのは今ではなくて?」

「ですが……」

「わたくしは大丈夫です。……さあ、力を授けてください!」

「分かったよ!」


 一瞬、クリファの顔にニタリとした笑みが浮かんだのをラインハルトは見逃さなかった。

 その邪悪な笑みに本能的に危機感を感じ、彼は動く。


「……っ! 姫様!?」


 しかし、ラインハルトの静止は遅かった。

 クリファはベアトリーチェの胸元に触れると、禍々しい魔力を流し込んでいく。

 その魔力は――今起こっている異変と全く同じだった。


「が、あ……これ、は……!?」

「もっと喜んでよ。せっかく『混沌の魔力』を流し込んでいるんだからさあ?」

「混沌の……貴女! 騙しましたのね!」

「騙される方が悪いんだよ」

「騎士達! わたくしの事は構いません! だからこの妖精を……!」

「邪魔はさせないよ」


 クリファがそう言うと、強烈なプレッシャーがこの場にいたヒト達に重くのしかかる。

 立っているのも困難で、次々に倒れ伏していく。


 そんな中で未だに立っているのは、ベアトリーチェただ一人だった。


「みんな……!」

「……もう十分かな? それじゃあ……仕上げだ」


 クリファは手を伸ばし、ベアトリーチェの額に触れる。

 そして彼女の肉体を乗っ取り始める。


「あ……ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」


 ベアトリーチェの絶叫が響くが、彼女に救いの手を差し伸べられる人物は一人もいなかった。


 そして絶叫が止むと同時に、ベアトリーチェはガクンと項垂れる。

 数秒の沈黙の後、彼女はふるふると肩を震わせる。


「………………く。くく……くははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!」


 片手で目元を覆い、天井を仰ぎ見る形でベアトリーチェは高笑いする。

 その異変に、この場にいたヒト達全員が戸惑っていた。


「姫、様……?」

「姫? ああ……この肉体の持ち主なら、今さっき死んだよ。がこの肉体を乗っ取ったから」


 声音は一緒だが、ベアトリーチェらしからぬ暗い笑みを浮かべ、一人称も変化していた。


 ベアトリーチェ(?)は、身体の調子を確かめるように手を握ったり開いたりを繰り返す。


「うん……やっぱり肉体の相性は良いね。前と同じか、それ以上に良く馴染む」

「……誰だ、お前は!?」


 倒れ伏しながらラインハルトがそう誰何すると、ベアトリーチェ(?)は大仰に両手を広げながら名乗り上げる。


「あたしは『対の魔王』クリファ。いや……この肉体の持ち主だった人物に敬意を表して、改名させて貰おう。あたしの名はベアトリーファ! 再誕した『対の魔王』、ベアトリーファだ! そして喜べ! お前達を、最初の犠牲者にしてやろう! 嬉しいだろう? かつて敬愛した姫君に殺されるというのは! あは! あははははははははははははははははははははははははははははは!!」


 ベアトリーチェ……否、彼女の肉体の乗っ取りに成功したクリファ―ベアトリーファは大声で嗤いながら、魔力をあえて暴発させる。


 その一撃で、帝城の一部が消滅した。

 破壊の余波はそれだけでなく、溢れさせた魔力が次々とディアマンテに襲い掛かる。


 この日、ディアマンテは甚大な被害を受け、ダイヤモンド帝国は滅亡一歩手前まで追い込まれた―――。




 ◇◇◇◇◇




 海上神殿でも、『対の魔王』が再誕していた。


「ふぅ……見立て通り、身体の相性がバッチリだね」


 一人壁画の調査をしていたセラフィの身体を乗っ取ったセフィラ―セラフィーラは、身体を動かして調子を確かめていた。


 そして海上神殿の最下層へと向かい、ある準備を進めていた―――。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

双翼の魔装少女 天利ミツキ @mitsuki_A

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ