第54話 浄化


 地上に降りると、『邪隷』は『星霊』の時と同じように正八角形の結晶体へと姿を変えていた。

 だけど今回は、一つではなく色の異なる四つの結晶体だった。


 それと、結晶体の周りを黒い靄みたいなのが包み込んでいた。

 これってこのまま回収しても大丈夫なのかな?


 そう疑問に思っていると、闇色の魔装に戻っているステラちゃんが近付いてきた。


「それには触らないで。今ぼくが浄化するから」

「浄化って、何を……」

「まあ見てて」


 クロナちゃんの問い掛けにそう答え、ステラちゃんは結晶体の方に手を翳す。


「《星々の あまねく光に 限り無く》」


 五・七・五のリズムでそう言った次の瞬間、結晶体を包み込んでいた黒い靄が跡形もなく消え去っていた。

 ステラちゃんは手を下ろし、わたしの方を向く。


「浄化が終わったよ。これで『混沌の魔力』に侵食される事は……邪神の眷属になる危険性は無くなったよ。あとこれ。ぼくが倒した『邪隷』のヤツ」

「あ……ありがと――」

「ちょっと待って、マシロ」


 お礼を言い、結晶体を回収しようとしたその時、クロナちゃんに手を掴まれた。

 首を傾げていると、クロナちゃんはステラちゃんに尋ねる。


「いい機会だから質問させてもらうわ。ステラ、貴女はいったい何処まで知ってるの?」

「何処まで、とは?」

「邪神の事についてよ」

「キミ達より遥かに多く、かな?」

「じゃあさっき言ってた、『混沌の魔力』っていうのは?」

「『混沌の魔力』は、邪神の魔力が漏れ出たモノ、言わば邪神の片鱗さ。その魔力に侵食されると、邪神の眷属になってしまう。今回の『邪隷』みたいにね」

「……人間相手にも効果はあるの?」

「あるよ。対抗手段は……今はまだ話さなくていいか」

「今は? それっていったいどういう――」

「逆に今度はこっちから質問」


 クロナちゃんの言葉を遮り、ステラちゃんはそう言ってくる。

 若干身構えつつ、わたしが答える。


「何?」

「キミ達の名前を教えてくれないか?」

「えっ? 名前?」


 予想外の言葉に、わたしは拍子抜けする。

 クロナちゃんもきょとんとしていた。


「そう、名前。教えて?」

「えっと……わたしはマシロ。吹雪 真白です」

「あたしはクロナ。月夜野 黒奈よ」

「マシロちゃんにクロナちゃんか……よく覚えておくよ。今回はイレギュラーだったから手を貸したけど、これが最後だからね。それじゃあ」


 そう言い残すと、ステラちゃんはものすごい勢いで飛び去って行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 拠点であるアイン・ソフ・オウルに戻ってきて、魔装を解除する。

 そして自室に向かおうとした所で、声を掛けられた。


「セイラ様」

「ん? ああ……アクアちゃん。珍しいね、戻ってくるなんて」


 ぼくの目の前にいたのは、海を連想させるような青い、ウェーブ掛かった長い髪をしている女の子だった。

 彼女はアクアちゃんで、『スターズ』の一つであるアクエリアスの担い手だった。


「どうしてもセイラ様にお伝えしないといけない情報がございまして……」

「何?」

「実は……『対の魔王』が何処にいるのか突き止めました」

「……っ! 本当!?」

「はい」

「それで奴等は今何処に!?」

「奴等は今……」


 その居場所を聞いて、最初は冗談かと思った。いや……思いたかった。


「それ、本当……?」

「はい。冗談でも何でもございません」

「……行かないと。後輩二人が危な……」


 そう言って足を踏み出した途端、フラッと身体が揺れた。

 そのまま転びそうになったけど、アクアちゃんがぼくの身体を支えてくれた。


「今はお休みになってください。まだ猶予はあります」

「猶予って……」

「『星霊』はまだ残ってます。全ての『星霊』を回収しない限り、『対の魔王』は行動を起こしませんよ」

「だけど……」

「今セイラ様が倒れたら、元も子もないですよ。だから大人しく、身体を休めてください。来るべきその時のために」

「……そう、だね」


 逸る気持ちは確かにあるけど、アクアちゃんの言う事も事実だった。

 用意周到過ぎる『対の魔王』が、すぐに行動を起こすとは思えなかった。


 それからアクアちゃんに支えられながら、自室へと向かった―――。


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