第53話 VS『邪隷』 後編


 ヴァルゴの能力を完全解放した証拠に、闇色の装甲は元の純白へと戻っていた。

 それでも、後輩二人以外に誰が見ているか分からないから、バイザーは着けたままだけど……。


『邪隷』は本能的にぼくを危険だと判断したのか、ツメからワイヤーアンカーを射出する。


 そのワイヤーアンカーが、ぼくを拘束しようと禍々しいオーラを纏いながら向かってくる。


 スピカを銃形態ブラスターモードから剣形態ブレードモードへと変形させ、向かってきたワイヤーアンカーを次々と斬り落としていく。


『邪隷』は続けて口からビームを放ってくるけど、それは余裕を持って回避する。

 翼の付け根にあるビーム砲からもビームを放ってくるけど、それがぼくに当たる事は無かった。


 すると、『邪隷』の両前足が足首の辺りからぷらぷらと折れる。

 その奥から、銃口が伸びていた。

 そしてその銃口から、ビームが放たれる。


 回避する事は容易い。

 だけど、ぼくの背後では後輩二人が戦っているから、流れ弾を二人に送る訳にはいかなかった。


 だから、左手のスピカだけ銃形態ブラスターモードに変形させ、こっちもビームを撃って相殺する。


 二つのビームがぶつかり合い、爆発を引き起こす。

 爆煙で相手の姿が見えなくなっているこの状況を利用して、一気に『邪隷』の懐に潜り込む。


 爆煙を抜け、『邪隷』が何らかのアクションを見せる前に、右手の剣形態ブレードモードのスピカを『邪隷』の胴体に突き刺す。


 異様に硬い装甲を少しだけ斬り裂き、その傷痕に左手のスピカを突っ込む。

 そして至近距離で、最大出力のビームを叩き込んだ―――。




 ◇◇◇◇◇




 ステラの魔装の色が変化したのには驚いたけど、今はそれに気を取られている場合じゃなかった。

『邪隷』が再び、四つの口からビームを放ってくる。


 それを回避しつつ、『邪隷』の懐に潜り込む。

 そして胴体に大剣を突き刺す――けど、剣先が少しだけ突き刺さっただけだった。


 魔力を更に回し、光の翼の推力を上昇させる。

 それでも、刀身がほんの少しだけ深く突き刺さっただけだった。


 するとドンッと、背中に軽い衝撃を受けた。

 そっちに目を向けると、マシロがあたしの背中を押していた。


「クロナちゃん、頑張って! わたしも協力するから!」

「頼もしいわ、ね!」


 マシロの分の推力も合わさり、大剣は半分まで『邪隷』の胴体に突き刺さっていた。

『邪隷』も最後の力を振り絞っているのか、再びワイヤーアンカーを飛ばしてきた。


 あたしは大剣を引き抜き、背中のキャノン砲を展開する。

 そしてその銃口を、今付けた傷痕に向ける。


「わたしの魔力も使って!」


 その言葉と共に、あたしの背中に触れていたマシロの手から、温かいナニカが注がれる。

 そしてそれはあたしの魔力と混ざり合い、紅いオーラが紫色へと変化していた。


「これでぇ!!」


 そう叫び、キャノン砲からビームを発射する。

 いつもより威力が大きかったように感じたのは、マシロの魔力も使っているからだろう


 ビームは傷痕に命中し、そのまま『邪隷』の体を貫いた。

 ワイヤーアンカーはあたし達のすぐ傍まで接近していたけど、その動きを止めていた。


 そして『邪隷』は、ゆっくりと地面に向かって落ちていった―――。




 ◇◇◇◇◇




「今のは、まさか……」


 後輩二人の戦闘を見守っていたら、僕にとっても予想外の事が起きていた。

 だけどそれは、良い意味での事だった。


 蒼いオーラを纏っていた白髪の少女が、紅いオーラを纏っていた黒髪の少女に魔力を譲渡していた。

 それを示すように、紅いオーラは紫色のオーラへと変化していた。


 魔力の譲渡は、高等技術ではあるけど誰も使えない訳じゃなかった。

 まあ、今のが本当に魔力の譲渡かって聞かれたら、自信を持って「違う」と答えられる。


 だって今のはどちらかと言うと――調に近かったから。


「……『レゾナンス』。やっぱり二人には、ジェミニを担ってもらうしかないか……」


 誰にも聞こえない声音でそう呟き、ヴァルゴを反転状態へと戻しながら後輩二人に近付いて行った―――。


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