第51話 VS『邪隷』 前編
洞窟から姿を現したのは、四つの首を持つ二体のドラゴンだった。
ドラゴンの装甲は黒、青、緑、橙色の斑模様で、片方は明るく、もう片方は暗い色合いだった。
アレが『星霊』なのは分かるけど、どうも様子がおかしい。
具体的には、『星霊』の体の周りを黒い
「何、アレ……?」
隣にいるクロナちゃんが、ポツリとそう呟く。
わたしもアレの正体を知りたかった。
「総員、退却! ルビーの街まで撤退する!」
すると、リースさんが素早く指示を出していた。
その指示を聞き、騎士のヒト達はルビーの街へと撤退していく。
そんな彼等に向かって、ビームが放たれた。
容赦のない一撃が命中し、騎士のヒト達は吹き飛ばされていく。
その発生源に目を向けると、『星霊』モドキは再びビームを放った。
そのビームはわたし達の近くに命中し、その余波を受けて地面を転がっていく。
ゴロゴロと転がり、木の幹にぶつかってようやく止まる。
それを支えにしながら立ち上がり、上空にいる『星霊』モドキに目を向ける。
二体の『星霊』モドキは、ルビーの街へと向かおうとしていた。
その瞬間、何処かから飛んできたビームが『星霊』モドキの顔の一つに命中する。
それに怯んだ様子で、『星霊』モドキは動きを止めていた。
すると、わたしと一緒に吹き飛ばされていたクロナちゃんが近付いてきた。
「けほっ……マシロ、行ける?」
「うん。姿形が違ってても、アレが『星霊』ならわたし達が倒さないと」
「そうね。それと、敵の戦力が未知数だから、二人で一体ずつ倒していくわよ? いい?」
「うん、いいよ」
クロナちゃんの作戦に賛成し、閉じていた翼を展開させて明るい斑模様の『星霊』モドキの方に向かって飛んで行った―――。
◇◇◇◇◇
「……駄目か」
人知れず援護射撃を行ったケイは、自分にしか聞こえない声音でそう毒づく。
洞窟での異変は、マシロとクロナの二人を尾行していたラムからの通信で知らされていた。
そして『邪隷』が出てきた瞬間を狙って狙撃をしたが……結果は芳しくなかった。
構えていたスナイパーライフルを降ろし、ケイはインカムである人物に通信を繋げる。
「……セイラ様。今大丈夫ですか?」
『…………何、ケイくん?』
少し間が空いた後、インカムからセイラの声が返ってくる。
「『邪隷』が二体現れました。ルビーの街のすぐ近くの洞窟です。今は……貴女の後輩だとか言う二人が応戦してますね」
『待って。『邪隷』? 何かの冗談?』
「こんな時に僕が冗談を言うとでも?」
『そうだね……ケイくんはいつでも冗談を言わない子だったよ。それで……『邪隷』にされた『星霊』は何体か分かる?』
「……四体、ですかね。僕の見える範囲では、ですけど」
『分かったよ。すぐに現地に向かう』
そこでブツッと通信が途切れた。
その一分後、一筋の黄金の光が、『邪隷』達のいる場所に降り注いだ―――。
◇◇◇◇◇
『星霊』モドキにマシロと一緒に応戦するけど、なかなか有効打を与えられずにいた。
と言うのも、『星霊』モドキは二体いるから、どうしても両方に意識を割かなくちゃいけなかったからだった。
現に今も、暗い色合いの『星霊』モドキが放った四本のビームを、全力で回避していた。
すると回避した先で、明るい色合いの『星霊』モドキの翼の付け根にあるビーム砲の銃口が、あたしに狙いを定めていた――と思ったら、ビームを放ってきた。
「クロナちゃん!!」
マシロがあたしの名前を叫ぶけど、回避はもう間に合わない。
死が目前に迫り、あたしの脳裏には色んな思い出が表れては消えていった。
これが走馬灯か……と、あたしの冷静な部分がそう判断していると、キィィィン……という風切り音が聞こえてきた。
その音と共に謎の影があたしの目の前に現れ、あたしに向かっていたビームを斬り裂いた。
それだけに留まらず、両手に持っていた剣っぽいシルエットの武器は銃っぽいシルエットに変化し、その内の片方を暗い色合いの『星霊』モドキに、もう片方を明るい色合いの『星霊』モドキに向けてビームを放った。
その一撃を受け、『星霊』モドキ達は大きく仰け反った。
突然の出来事に理解が追い付いていないでいると、謎の影があたしに声を掛けてきた。
「大丈夫?」
その影は、闇色の魔装を身に纏った少女、ステラだった―――。
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