第50話 VS???


 ルビーの街から程近い洞窟の奥深く。

 そこで『邪神教団』の連中は、捕らえた『星霊』達を魔法陣の上に鎮座させていた。


 通常であれば、『星霊』を捕獲する事など不可能だった。

 しかし、あるモノを使用する事で、その不可能を可能としていた。


『エイボンの書』。

 百年以上前、『邪神教団』の前身に当たる組織の大司教であったエイボンが記したとされる書物だった。


 そこには、各邪神の詳細な能力の他、『対の魔王』をコントロールする術等が記されていた。


 そもそも、『星霊』自体が『対の魔王』の肉体を元に生み出された存在なので、オリジナルである『対の魔王』程では無いにしても捕縛方法はとても効果的だった。


 そして魔法陣の上には、明るい黒、青、緑、橙色の『星霊』が拘束されており、その隣にある魔法陣には暗い同色の『星霊』が四体拘束されていた。


 それを見て、『エイボンの書』を抱えている女性が近くにいた団員に声を掛ける。


「これで全部?」

「はい。半数はある二人組の少女が回収していると思われ、灰色の『星霊』達の行方は一向に……」

「いいでしょう。今ここにある『星霊』達で始めましょう」


 女性はそう言うと、閉じていた『エイボンの書』を開く。

 そして本がひとりでに、パラパラとページが捲られていく。


「『エイボンの書』よ。深淵の神々よ。我々に混沌なる知識と力を! そして憐れな『対の魔王』の欠片達に、新たなる力を!」


 鈴を転がすような声音でそう詠唱すると、魔法陣が光輝く。

 そして『星霊』の体を、闇よりも深い漆黒が包み込んでいく。

 グチャグチャと闇が不規則に動き、『星霊』達の体を作り替えていく。


 三分もしない内に闇は晴れ、そこから『星霊』だったモノが姿を現す。


 首は四つに分かれ、それぞれの『星霊』の特徴であったビーム砲や剣、アンカーは一つの体に集約されていた。

 そして全身を、禍々しいオーラが包み込んでいた。


「これで第一段階はクリア。次が最後である第二段階ね」


 女性がそう言うと、この洞窟内にいた『邪神教団』の団員達全員が『星霊』の前に集まる。


「さあ、貴方達。その命を『星霊』に……いえ、『邪隷』に捧げなさい。この世全てに混沌を」

「「「この世全てに混沌を!!」」」


 団員達の声が洞窟内に反響する。

『星霊』改め『邪隷』はその口の一つを大きく開け、女性を喰らおうと首をもたげる。


 女性はそれを恐怖ではなく、恍惚な表情を浮かべながらこれから訪れる未来を受け入れていた。


『邪隷』は女性を頭から喰らい、肉を噛み千切り骨を噛み砕き、血を飲み干していく。

 女性は悲鳴を上げるどころか、逆に歓声を上げていた。


 そしてそれは他の団員達も同様だった。

 至る所から肉を喰らう咀嚼音が響くが、そのどれもに歓声が付随していた。


 その光景を端から見ていれば、それは――狂気に彩られた宴に見えたに違いない。


 そんな狂気に満ち溢れた宴は、最後の一人の歓声が止むまで続いた―――。




 ◇◇◇◇◇




 暗殺未遂事件の後始末やら何やらの処理で、シャーロットさん達は二週間近く動けないでいた。


 その間にあたしとマシロは、ルビーの街周辺に棲息する魔侵獣を討伐する事で暇を潰すのと資金稼ぎをしていた。


 そして今日。

 とうとう『邪神教団』のアジトと目されている洞窟へと向かう事になった―――。




 ◇◇◇◇◇




 アジトまでは徒歩で移動した。

 と言うより、アジトがルビーの街から歩いて行ける距離にあったというのが正しい。


 もしもの事があったらいけないからと、シャーロットさんは街で待機していた。

 その代わり、彼女の護衛だったリースさんが現場指揮の全権を任されていた。


「総員、準備はいいな? そちらの二人も?」

「はい」

「ええ」


 リースさんの問い掛けに、あたしとマシロは頷く。

 何が起きてもいいように、予め変身はしておいた。


「では……突入開始!」


 その号令と共に、先陣を任されていた騎士達が続々と洞窟内へと突入していく。


 すると三分もしない内に、耳に着けたインカム―作戦前にあたしとマシロの分も貸し出してくれた―から、突入した騎士から通信が入る。


『隊長。内部の様子がおかしいです』

「具体的には?」

『『邪神教団』の連中の姿が何処にも……あれは?』


 そこでブツッと、唐突に通信が途切れた。

 電波障害かな? とも思ったけど、それにしてはノイズが一切無かったのが気になった。


 するとさっきの騎士とは別の騎士から、通信が入る。


『隊長! 洞窟の奥深くに!』

「どうした! 何があった!?」


 リースさんはインカムを押さえてそう尋ねるけど、向こうからは要領を得ない答えしか返ってこなかった。


『嫌だ! 死にたくない! こっちに来……!』


 そこでブツッと、また通信が途切れた。

 洞窟の奥深くで異常が起きている事は明らかだった。

 リースさんの判断は早く、この場に残っていた騎士達に素早く指示を出す。


「一時撤退を。状況が分からないままじゃ、更なる被害を……」


 とその時、洞窟が突如として崩壊を始めた。


 そしてその奥から、『星霊』だけど『星霊』じゃない四つ首のドラゴンが二体、姿を現した―――。


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