第49話 協力要請


 黒づくめの集団による第二皇女襲撃から約一時間後。

 わたしとクロナちゃんは、この街で一番豪華なホテルの最上階にあるスイートルームに案内されていた。


「今回は助けていただき、誠にありがとうございます」


 対面に座る女の子が、深々と頭を下げてくる。


 この女の子はシャーロット・ブリカット・ダイヤモンドと言い、ダイヤモンド帝国の第二皇女でベアトリーチェさんの妹さんだった。


 そんな彼女の後ろには、護衛とおぼしき女性騎士が控えていた。

 その凛々しい佇まいは、何処かクロナちゃんに似ている気がする。


「いえいえ、それほどでも……」

「お姉様に聞いていた通り、お二人は『大賢者』セイラ様のように魔装を纏って戦うのですね」

「ええ、まあ」

「……これも天啓なのかもしれませんね。お二人には是非、協力していただきたい事が……」

「姫様」


 何かを言いかけたシャーロットさんに対して、護衛の女性が口を挟んでくる。


「何、リース?」

「姫様は今何と仰いました?」

「このお二人に、協力していただきたい事がある、と」

「私は反対です。何処の誰とも知らぬ者に、協力を要請するなど」

「でも、このお二人の実力は貴女も目の当たりにしたでしょう?」

「ええ、しました。戦闘能力自体は私も高く評価しましょう。ですが……この二人には、ヒトを殺せるとは到底思えません」


 そう言い、女性騎士―リースさんはわたし達の方に鋭い視線を向けてくる。


「ヒトを殺せるって、貴女……」

「私達が相手取る連中の事を考えれば、後顧の憂いを断つ為に相手の命を奪う事を躊躇っている余裕はありません。もし協力を要請するのであれば、そちらの少女達に自分の手を血で汚す覚悟があるのかどうかの確認が先では? 厳しい物言いではありますが……」


 言葉自体はとても厳しいモノだけど、端々にわたし達の事を気遣うような優しさが見え隠れしていた。


 シャーロットさんはやれやれと言うように首を左右に振った後、わたし達の方に向き直る。


「……リースはこのように申していますが、貴女方にその覚悟はおありで?」

「わたしは……」

「ヒトを殺す覚悟なんて――ない。ないけど……ヒトを殺さない覚悟だけはあるつもりです」


 わたしが答えるより先に、クロナちゃんがキッパリと自分の意思を告げる。

 それを聞いて、リースさんが口を開く。


「青いな。そして甘い」

「甘くて結構です」

「その信念、キミの大切なヒトが人質に取られた時でも同じ事を言えるのか?」

「……っ!? それは……」

「言えないだろう? だから青いとも言った。自分の大切なモノを守るためには、他者の命を奪わなければならない時があるのを自覚しろ。……そちらは?」


 リースさんはわたしの方を向いて、回答を促してきた。


「わたしは……わたしも、クロナちゃんと同じです。いくら青いと言われようとも、相手のヒトの命を奪う事だけはしたくありません」

「マシロ……」


 クロナちゃんと見つめ合い、ぎゅっと手を握る。

 そんなわたし達の様子を見て毒気が抜かれたのか、リースさんは肩を竦める。


「キミ達の意思は理解した。確かな覚悟があるのなら、不殺を貫くのもいいだろう。だが……もしその時が来たら、躊躇する事無く相手の命を奪いなさい。それが私の出来る唯一のアドバイスだ。……姫様。話の腰を折って申し訳ありません。続きをどうぞ」

「ええ」


 それからの説明は、アイスクリーム屋さんのおばさんが話してくれた事とほとんど同じだった。

 ただ、気になったのは……。


「その『邪神教団』のアジトとおぼしき場所に、『星霊』が運び込まれた……ですか?」


 そう聞き返すと、シャーロットさんは頷く。


「はい。確認出来ただけでも、四体ほど運び込まれたらしいのです」

「……そもそも、『星霊』を捕獲する事なんて出来るんですか?」


 クロナちゃんがそう尋ねると、シャーロットさんは首を横に振る。


「いいえ。少なくとも、帝国内でそのような情報は入ってはおりませんし、隣国からの情報も同様です」

「それじゃあ、『邪神教団』の独自の技術だと?」

「そう見なすのが妥当でしょう、今の所は」

「で、協力して欲しい事って言うのは……」

「お察しの通り、『星霊』の相手をしていただきたいのです」

「まあ、わたし達も『星霊』のコアを回収しなきゃいけないので、渡りに船ではあるんですが……」


 クロナちゃんの方を向くと、わたしの考えている事が分かっているのか、続きを言う。


「問題は数よね。一気に四体はちょっとキツいんじゃない?」

「だね……」

「ちょっとキツい程度で済むんですね……」


 シャーロットさんのツッコミをあえて聞かなかった事にして、彼女の方に向き直る。


「わたしとクロナちゃんで良ければ、喜んで協力させていただきますね」

「ありがとうございます」


 シャーロットさんはお礼を言い、深々と頭を下げた―――。


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