第46話 第二皇女


 ルビーの街まであと少し、と言った所で、魔侵獣の群れに襲われた。

 その魔侵獣はオオカミみたいな姿をしていて、数は少なくとも三十体を超えていた。


「マシロ! このまま突っ込むわよ! 迎撃はお願い!」

「任せて!」


 そう返事をすると、クロナちゃんはバギーの速度を速めた。

 わたしもわたしで、魔装を纏う――けど、いつもとは少し違っていた。


「アクティベート、カマエル!」


 そう叫ぶと、わたしの背中に二門のキャノン砲が顕現する。


 これは、半分『星霊』を回収した事で解放された、魔装の部分顕現だった。

 このおかげで、弱い魔侵獣相手に一々変身する必要が無くなった。


 わたしは反動が無い程度に威力を抑えたビームを、左右交互に発射していく。

 だいたい一撃で屠れているけど、冷却期間の隙を突かれてわたし達への接近を許していた。


「くっ……アクティベート、サンダルフォン!」


 今度は大剣を顕現させ、ブンブンと振って近付いてきた魔侵獣を追い払っていく。

 そして冷却期間が終わり、再びビームを放っていく。


 半分くらい倒した所で、生き残っていた魔侵獣達は逃げて行った。

 追撃の必要はないだろう。


「ふぅ……なんとかなったわね」

「そうだね」

「コアの回収でもしちゃいましょうか」

「うん」


 それからクロナちゃんと手分けして、倒した魔侵獣のコアを残さず回収した―――。




 ◇◇◇◇◇




 ルビーの街まで辿り着き、手頃な宿屋で部屋を取る。

 それからライダースーツから普段着に着替えて、マシロと共に街中へと繰り出す。

 妖精達はいつも通り、情報収集するからと別行動を取っていた。


 大通りまで進むと、沿道に人だかりが出来ている事に気付いた。

 あたしは気になり、近くにいたヒトに声を掛ける。


「あの……すみません。この人だかりってなんですか?」

「なんだ、知らないのか?」

「ええ、まあ。ついさっきこの街に着いたばかりなので」

「だったら運が良かったな。この街に、シャーロット第二皇女様がお越しになられるんだ。この道を通るってんで、一目見ようとみんな集まってるのさ」

「そうなんですか、ありがとうございました」


 そうお礼を言ってから、人だかりから離れる。


「……だって」

「第二皇女って事は、ベアトリーチェさんの妹かな?」

「でしょうね。それにしても……この街に何の用なのかしら?」

「教えてあげようか?」


 すると、近くにあったアイスクリーム屋さんの屋台から、店主らしきおばさんに声が掛けられた。


「ええ、是非」

「分かったよ。でも……タダじゃ教えられないね。ウチのアイスを買ってくれたら教えてあげるよ」


 商売上手だなぁ……と思いながら、アイスの味を決める。


「それじゃあ……あたしはショコラで。マシロは?」

「わたしはバニラで」

「ちょっと待ってなね」


 そう言い、おばさんは二人分のアイスを手際よく作っていく。

 コーンに渦を巻いて乗せられたアイスを受け取り、料金を支払う。

 アイスの冷たい食感を楽しみながら、おばさんの説明に耳を傾ける。


「それじゃあ、何で第二皇女様がこの街にお越しになられるのか教えてあげるよ。……と言っても、内容はシンプルよ。この街の周辺に出没してる、『邪神教団』とかいう連中を取り締まりに来ただけだよ」

「『邪神教団』、ですか?」

「うん。奴等は邪神を崇拝する過激な宗教団体なんだよ。その過激さから、ちょっとした社会問題にもなってるね。現にこの街でも、教団の連中によってテロ紛いの事件も起きてるしね」

「へぇ〜」

「その対処に、第二皇女様が自ら立候補したんだよ。それで今日が街に到着する予定日だから、みんな一目見ようとこうして集まってるって訳さ」

「そうなんですか」


 そう返すと、隣に立つマシロから視線を感じた。

 そちらを向き、マシロに尋ねる。


「どうかした?」

「クロナちゃんのアイスも美味しそうだなぁって思って。一口貰ってもいい?」

「いいわよ、ほら」


 そう言ってアイスをマシロの方に差し出す。

 マシロはペロッと一舐めし、自分のアイスをあたしの方に差し出してくる。


「お返し。一口いいよ」

「それじゃあ、いただきます」


 そう言い、マシロのアイスをペロッと舐める。

 バニラの風味が、口の中に広がる。こっちのアイスも美味しい。

 見ると、おばさんはあたし達に微笑ましそうな視線を向けていた。


 すると、わっ! と人だかりから大きな歓声が上がった。

 そちらに目を向けると、豪奢な車が大通りに入ってきた―――。


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