第45話 牡羊座と乙女座


 マシロとクロナが泊まっている宿屋とは別の宿屋の一室で、ふわふわとしたクリーム色の長髪の少女がバスローブ姿でベッドに座りながら携帯端末で誰かと通話をしていた。


「もしもし、セイラ様ぁ〜? あたしです、ラムです」

『ラムちゃん? 今何処にいるの?』

「今はトパーズの街ですかねぇ〜」


 通話相手はセイラで、少女―ラムはそのままボスリとベッドに仰向けで倒れ込む。


 ラムも『黄金の夜明け』団の一員で、『スターズ』の一つであるアリエスの担い手でもあった。


 アリエスは他の『スターズ』と異なり、防御に重きを置いた魔装だった。

 実際、セイラのヴァルゴの最大火力の一撃を受けても、ほとんどダメージを通さなかった。


 そしてアリエスのもう一つの能力として、装甲全体に特殊な魔力を纏わせて保護色を展開するという能力があった。


 閑話休題。

 セイラは端末越しに、溜め息を吐く。


『はぁ〜……自由に動き回り過ぎだよ。連絡が取れなくなったと思ったら、逆にそっちから連絡を寄越してくるし』

「そんなセイラ様に朗報が〜。貴女の後輩ちゃん達、この街にいますよ〜?」


 マシロとクロナの素性は、『黄金の夜明け』団の専用ネットワークで共有されていた。


 だからラムも、雨宿りした時にタオルを貸してくれた少女達がその二人だと一目で分かっていた。


『トパーズの街に? ……ラムちゃん。一つお願いが……』

「二人の後をつけるんですよね? アリエスの能力なら何の問題もないかと」

『話が早くて助かるよ。ただし、手助けは必要ないからね?』

「りょーかいでっす」

『今その街にいるって事は……目的地はルビーの街かな?』

「だと思いますよ?」


 ラムはベッドでゴロゴロしながら、セイラの言葉に同意する。


『実際あの街周辺には『星霊』が出没してるから、分からなくもないんだけど……イヤな予感がするんだよね』

「……セイラ様のカンは良く当たるんで、冗談には聞こえないですね」


 ラムは上体を起こし、そう返す。


「本当に危ないと思ったら戦闘に介入しますよ? いいですね?」

『うん、お願い。ぼくの後輩二人を今失う訳にはいかないからね』

「分っかりました〜。……あ。それはそうと、まだ開発中のジェミニの進捗ってどうなってるんですか?」

『今ようやく七割くらい完成したところだよ。イブちゃんによれば、あと一月もあればガワだけは完成するって言ってた』


 すると、端末越しに何かの破壊音がラムの耳に響いてきた。

 その音が気になり、セイラに問い掛ける。


「……? セイラ様。貴女今何処にいるんですか?」

『うん? ああ……今ぼくは海上神殿にいるよ』

「海上神殿って……アクアマリンの街にある遺跡の? 何でまた?」

『ちょっと嫌な気配を感じたから来ただけなんだ。その原因の方も、今壊した所だよ』

「そうですか……心配は微塵もしてないですけど、気を付けてくださいね?」

『うん。それじゃあ』


 そう言い残すと、ブツッと通話が途切れた。

 ラムは端末をベッドの上に放り投げ、自身もそのままベッドの上に横になった―――。




 ◇◇◇◇◇




 ラムとの通話を終えたセイラは、再び正面を見据える。


 彼女が海上神殿にまでやって来て行った事は、神殿の最下層に描かれていた魔法陣の破壊作業だった。

 魔法陣そのものの破壊には成功していたが、その発動までは止められずにいた。


 セイラの目の前には、ペガサスが闇落ちでもしたような色合いの生物が数多くいた。

 その生物はシャンタクと言い、邪神の眷属の一種だった。


「邪神本体の降臨は阻止出来たけど、流石に眷属の降臨までは止められなかったか……」


 そう呟きつつ、セイラは首から掛けているロケットペンダントに触れる。

 このペンダントこそが魔装の起動キーであり、セイラは魔装を纏う。


 セイラの魔装は変わらずヴァルゴであるが、その装甲は純白に光輝いていた。

 こちらの姿がヴァルゴ本来の姿で、闇色の方はセイラがイブに無理を言って追加した反転機能だった。


 副次効果として戦闘能力も制限されたが、セイラにとっては逆に都合が良かった。

 そうでもしないと、マシロとクロナの二人に初めて邂逅した時、誤って殺害していた可能性があったからだ。


 セイラは二本の長剣を構え、シャンタクの群れと対峙する。


「さて……ぼくの可愛い後輩二人のためにも、雑魚の始末でもしておくか」


 そう呟き、たった一人で邪神の眷属へと立ち向かって行った―――。


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