第44話 雨宿り


 順調にルビーの街に向かっていると、青かった空模様が怪しくなってきた。

 と思っていたら、ポツポツと雨粒が落ちてきた。


 この辺りは平原しかないから、近くに雨宿り出来るような場所はない。

 でも、もう少し進めばトパーズという街があるのは予め分かっていた。


「少し飛ばすわよ。しっかり掴まってて」


 クロナちゃんのその言葉に、わたしは腕に力を込める事で答える。

 するとバギーの速度が格段に上がった。

 それと同時に、雨の勢いが本降りになってきた。


 雨が降りしきる中、平原をバギーが疾走と駆けて行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 なんとかトパーズの街まで辿り着き、手近な建物の軒下で雨宿りをする。

 不幸中の幸いなのは、ライダースーツを着ていたから服が濡れなかった事くらいか。


「しばらく止みそうにないわね」

「そうだねぇ」


 収納袋の中に仕舞ってあったタオルで濡れた髪の毛を拭いながら、そう答える。

 道を眺めると、わたし達と同じように慌てて軒下に避難するヒトもちらほらといた。


「ひゃー!」


 すると、わたし達のいる軒下に、一人の女の子がそんな声と共に入ってきた。

 元はふわふわとした髪質らしい長いクリーム色の髪の毛は、水分を吸ってしんなりとしていた。


「コレ、使いますか?」

「あ……ありがとうございます」


 クロナちゃんが差し出したタオルを受け取り、女の子はごしごしと髪の毛を乾かしていく。


「全然止みませんねえ」

「そうですね」

「通り雨ならいいんですけどね」


 そんな事を言いながら、雨が止むのを待った―――。




 ◇◇◇◇◇




 結局、その日の内に雨が止む事は無く、仕方ないので一泊する事にした。

 雨宿りしていた場所の近くに宿屋があってちょうどよかった。


 バギーを有料駐車場に移動させてから、その宿屋に入りチェックインをする。

 二人部屋の鍵を受け取り、部屋がある三階に階段で移動する。

 部屋は角部屋で、少し狭い気もするけど一晩だけだからそんなに気にはならなかった。


「くちゅん」

「くしゅん」


 すると、クロナちゃんとほぼ同時にくしゃみをする。

 思っているよりも身体が冷えているのかもしれない。

 と言うか……。


「結構可愛らしいくしゃみだったね、クロナちゃん」

「……くしゃみくらいどうだっていいでしょ。それより……先にシャワーを浴びさせてもらうわよ。寒くて早く温まりたいのよ」

「えっ? わたしも浴びたかったんだけど」

「なら一緒に入る?」

「うん……えっ?」


 ……なんて?




 ◇◇◇◇◇




 こういう宿屋では珍しく、ユニットバスではなくちゃんと湯船もある浴室だった。

 お互いに身体も洗い終わり、今は向かい合う形で湯船に浸かっている。


「ふぅ〜……ルビーの街に着くのは明日くらいかしらね?」

「順調に行けば、そうだろうね」

「次はどんな『星霊』が出てくる事やら……」

「さあ? でも、わたし達も少しは成長してると思うから、最初の頃みたいに苦戦する事はないと思うよ?」

「だといいけど……それより、マシロ」

「……? 何?」


 首を傾げつつ、聞き返す。


「マシロには、好きなヒトはいないの?」

「何でそんな事聞くの?」

「だって、あたしだけ好きなヒトが知られてるのは不公平じゃない。……で、どうなの?」


 何かを期待するような眼差しを向けてくるけど、生憎とその希望に沿える事は出来ない。


「残念ながら、好きなヒトはいないよ。産まれてこの方、男の子を好きになった事なんてないんだもの」

「なぁんだ、残念。マシロをおもいっきりからかってやろうと思ったのに……」


 クロナちゃんの顔は、本当に残念そうだった。

 本気でわたしをからかうつもりだったらしい。


 その日はそのまま休息し、次の日になって再びルビーの街を目指して行った―――。


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