第43話 次の街へ


 それから一週間ほどアクアマリンの街に滞在した後、わたし達はサファイアの街へと戻ってきた。

 この後にどうするかは、もうクロナちゃんと話し合っていた。


「……そうか。二人共、サファイアの街を去るのか」


 ローエングリン家の屋敷の居間で、家主でもあるラインハルトさんにも伝える。


 わたし達はサファイアの街から立ち去り、フィーラとリーファが集めてくれた情報から、この街から北東方向にあるルビーの街で『星霊』の目撃情報があり、そこに向かう予定だった。


「ええ。急で申し訳ないとは思うけど……」

「いや、大丈夫だ。クロナ達が気に病む必要はない」

「そう言ってくれると助かるわ」

「私もそろそろ休暇を終えるから帝都に戻るが……二人が使命を無事に果たせる事を陰ながら応援している」

「ありがとう」

「頑張ります」


 激励の言葉を贈ってくれたラインハルトさんに、わたしはこれまでのお礼も兼ねて深々と頭を下げた―――。




 ◇◇◇◇◇




 その日の夜。

 あたしはハルに、屋敷の二階にあるバルコニーに呼び出されていた。


 一度辺りを確認してから、バルコニーへと出る。

 どうやら今回は、マシロとリリアの姿はなかった。

 バルコニーにはすでに、ハルの姿があった。


「来てくれたか、クロナ」

「どうかしたの?」

「クロナに渡したいモノがあってな」


 ハルはそう言いながら、ズボンのポケットに手を突っ込む。


 なんだろう?

 常識的に考えれば、アクセサリーの類だろうけど……まさか指輪じゃないわよね?


 それはいくらなんでも早過ぎる……というか、こっちの世界にも結婚指輪の概念ってあるのかしら?


 そんな事を考えていると、ハルはあたしの予想通り、三日月をモチーフにしたチャームが付いたネックレスを取り出した。


「お守り代わりとして、コレをクロナに渡したいと思って呼び出したんだ」

「貰ってもいいの?」

「ああ。その為に買ったんだからな」

「じゃあ……着けてもらってもいい?」

「分かった」


 ハルは頷くと、あたしの後ろに回る。

 そしてネックレスをあたしの首に掛ける。

 振り向き、ハルに感想を伺う。


「どう?」

「ああ、とても……うん。似合ってる」

「あ、ありがとう……」


 ストレートに褒められ、あたしは恥ずかしくなり顔を俯ける。

 たぶん、あたしの顔は赤くなっているに違いない。


 するとハルは突然、あたしに抱き着いてきた。

 突然の事に戸惑っていると、ハルがあたしの耳元で囁く。


「……無茶をするなとは言わない。だけど……死なないでくれ、絶対に」

「……うん。分かったわ」


 そう答え、あたしもハルの背中に腕を回す。

 しばらくしてから抱擁を解き、ハルと真正面から見つめ合う。

 そしてどちらからともなく顔を近付け、唇を重ねた―――。




 ◇◇◇◇◇




 翌日。

 わたし達はルビーの街に向かって、バギーを走らせていた。

 これまで通りクロナちゃんの運転だけど、その当の本人は何処か上機嫌だった。


 そう言えば、クロナちゃんは今まで見た事がないネックレスをしていたけど、それと関係があるのかもしれない。

 わたしは運転中のクロナちゃんに問い質してみる事にした。


「ねえ、クロナちゃん」

「何、マシロ?」

「いつもよりご機嫌じゃない?」

「え……? そう見える?」


 驚いたような声をあげるから、クロナちゃん自身に自覚は無いみたいだった。


 クロナちゃんの機嫌が良くなる事なんて……あのヒト以外の事ではあり得ないと思う。……少しカマを掛けてみよう。


「そのネックレスと関係があるの? ラインハルトさんから貰ったとか?」

「正解よ。正解だけど……マシロ。まさか昨日の夜も覗き見してたわけじゃないでしょうね?」

「昨日はしてないよ」

「昨日、ねぇ……」


 何処かトゲのある言い方だった。

 わたしに見られてたら困る事でもあったのかな? ……あ。もしかして……。


「ねえ、クロナちゃん」

「何?」

「答えたくなかったら答えなくてもいいんだけど……」


 そう前置きしてから、わたしは続ける。


「もしかしてだけど……ラインハルトさんとチューでもしたの?」


 そう尋ねた途端、バギーが左右にフラフラと激しく揺れる。

 なんとかクロナちゃんの腰にしがみつきつつ、揺れが収まるのを待つ。

 あからさま過ぎる動揺だった。


「えっ!? ホントにチューしたの!?」

「なっ!? なななな何を言ってるのかしら、マママママシロったら!?」

「……いくらなんでも動揺し過ぎじゃないかな?」

「ど、どどどど動揺なんてしししししてないわよ!? いいいいいい加減な事は言わないでもらえるかしら!?」

「じゃあ、チューはしてないの? ……ハッ! まさか……それ以上の事!?」

「ハルとはキスまでしかしてないわよ! あ……」


 墓穴を掘ったクロナちゃんは、そのまま俯いてしまった。


「恥ずかしい……」

「クロナちゃん! 前見て前! 運転中でしょ!?」


 それなりに騒がしくしながら、ルビーの街へと向かって行っていた―――。


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