第42話 新たな壁画


 クトゥルフ神話。

 ギリシャ神話や北欧神話などに並ぶ、色んな漫画やゲームの題材になるくらいには有名な神話だった。


 その特徴は、数多くの神―邪神が登場する事だろう。

 その神々は深淵から現れるとされ、ダークな雰囲気が人気に拍車を掛けている。


 そんなクトゥルフ神話に出てくる神々の名前を、まさか異世界に来てまで聞く事になるとは思わなかった。


「……とまあ、この壁画についてはこれくらいですかね」


 すると、セラフィさん達の方も話に区切りがついたようだった。

 あたしはマシロとそっと、元の場所に戻る。


「中々に興味深い話だった」

「実はもっと下の階層に、最近になって発見された壁画があるんですよ。見て行きますか?」

「どうする?」


 ハルはあたし達の方を向き、確認を取ってきた。


「まあ、いいんじゃないの?」

「わたしも」

「兄様にお任せします」

「……それでは、お願いしてもよろしいか?」

「お任せあれ」


 セラフィさんはそう言って頷き、あたし達は彼女の後ろをついていった―――。




 ◇◇◇◇◇




 あたし達が向かったのは地下三階で、この階層が一般公開されているエリアの最下層らしい。

 そのエリアにある一つの壁画の前で、セラフィさんは足を止める。


「この壁画が最近この階層で発見されたモノになりますね」


 その壁画には、大きな門みたいなモノと……なんだろう?


 触手っぽいモノとコウモリみたいな翼が描かれた、生き物かどうかも怪しいモノが描かれていた。

 あとやっぱり、絵の脇に謎言語で文章が記されている。


「発見されてからまだそんなに時間は経ってないので、解明も解読も進んでいないんですよ。でも……他の壁画よりも一線を画すモノであるというのがボクの所感です」

「その根拠は?」

「コレです」


 ハルの問い掛けにセラフィさんはそう答え、門みたいなモノを指差す。


「他の壁画と違って、この壁画にだけこの門みたいなモノが描かれているんですよ」

「その正体は……まだ判っていないんだよな?」

「はい。これからの調査で判明させていく予定で……」


 するとその時、ゴゴゴ……と神殿全体が微かに揺れた。


「地震か?」

「この辺りでは珍しいですね?」


 揺れが収まった後、ローエングリン兄妹が顔を見合わせる。

 二人がそう言うなら、確かなのだろう。

 だけどセラフィさんだけは、何処か浮かない顔をしていた。


「……? どうかしましたか?」

「いえ……さっきの揺れ。ボクの気のせいじゃなければ、この下から来たような気がして……」

「下から?」


 マシロはそう呟き、視線を足下へと落とす。

 あたしも足下に目を向けるけど、そこには石造りの床しかなかった。


「気のせいじゃないんですか?」

「かもしれませんね。かれこれ二日は寝てないので」

「……ちゃんと寝た方がいいですよ」


 あたしはそう忠告する。

 お姉ちゃん達も、〆切前とか二徹三徹は当たり前のようにしていたから、何処か他人事とは思えなかった。


 見るモノも見たあたし達はそのまま、神殿の一階へと戻って行った―――。




 ◇◇◇◇◇




 先程の海上神殿全体を揺らした揺れは、真実セラフィの予想は当たっていた。

 その揺れを引き起こした張本人達である『対の魔王』は、この神殿の最下層である地下十八階にいた。


 その空間の床には、闇の中で妖しい光を放つ魔法陣が光輝いていた。


「これでココで出来る事は出来たね」

「そうだね。封印が完全に解けるまでの辛抱だけど、楔を打ち込む事は出来たね」

「後はご降臨召されるだけだね」

「そうだね」


 二人はそこで言葉を区切り、魔法陣に目を向ける。


 二人の最重要目標であるクトゥルフの降臨ほどではないが、この邪神の降臨もまた二人にとっては上位に位置するほどに重要な事柄だった。


 二人は揃って手を広げ、その邪神の名を叫ぶ。


「「『邪神母体』シュブ=ニグラス様!!」」


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