第40話 海上神殿


 朝ご飯を食べ終えた後、ちゃんとした服に着替えて出掛ける。

 海上神殿には船で向かうらしく、その船が出る港まで歩いていく。

 それと何故か、ラインハルトさんは銃を携行していた。


 こっちの世界の銃は実弾が発射されるタイプもあるけど、魔力弾が発射されるタイプが主流らしい。


 そしてその銃は実弾の詰まった弾倉の代わりに、特殊な加工を施した魔石を使用するらしい。

 その魔石も、魔力が結晶化した鉱石だから、誰でも扱える代物と化しているらしい。


 閑話休題。

 クロナちゃんも同じ疑問を抱いたのか、ラインハルトさんに尋ねる。


「ねえ、ハル。何で銃なんか持ってるの?」

「護身用として念のため、な。海上神殿は観光地になってるとは言っても、たまに魔侵獣が出る事もあるからな」

「……よく観光地にしたわね? 危なくないの?」

「大丈夫だ。出るとは言っても、一般公開されているエリアには滅多に出ないからな。それに……これが必要かどうかも怪しい」

「何で……って、そうか。あたしとマシロの魔装があるから?」

「そうだ。無いとは思いたいが、魔侵獣が現れた時には頼らせてもらう」

「任せて」


 そうこうしている内に、港へとたどり着いた。

 海上神殿行きの船が出る桟橋には、すでに行列が出来ていた。

 人気の観光地というのは本当らしい。


 わたし達もその列に並び、乗船の時を待つ。

 運良く一本目の船に乗る事が出来、海上神殿へと向かった―――。




 ◇◇◇◇◇




 十分くらいして、船は海上神殿に併設された港へと入港する。

 続々と観光客は降りて行き、あたし達も船から降りていく。


 海上神殿は石造りの神殿で、海風の影響からか所々風化しているのが目立つけど、その大部分は苔や植物の葉っぱに覆われていた。


 神殿って言うからもっと大きなのを想像していたけど、せいぜいが民家の二階くらいの高さしかなかった。


「意外と小さい?」

「地上部分はな。地下には何階層もの広大な空間が広がっているんだ。今現在で確認出来ている最深部は確か……地下十五階だったかな?」

「って事は……それよりも下があるって事?」

「研究者達が言うにはそうらしい。だが、それ以降の下の階層になると魔侵獣も強くなっていて、調査が進んでいないらしいんだ」

「へぇ〜……」


 ハルの解説に頷きながら、あたし達は神殿の入口をくぐる。

 天井の大部分は崩落していて、青い空を見る事が出来ていた。


 壁の方を見ると、全ての壁にナニカの絵が描かれていた。

 掠れていてよくは分からないけど、生き物っぽいのはなんとなく分かった。


 そんな壁画を観光客は思い思いに眺め、中にはガイドさんが解説しているのもあった。

 その中で一際目立っていたのは、この階層で一番大きい壁画を激写しているヒトだった。


 壁画は大きなナニカとヒトっぽいナニカが戦っているような絵で、隅の方に何処の言語ともしれない文字列が刻まれていた。


 そして写真を撮っているヒトは周りを気にする事なく、写真を撮り続けていた。

 髪から覗く耳が鋭く尖っているから、エルフのヒトなのかもしれない。


 そのヒトはおもむろに写真を撮るのを止めると、ショルダーバッグからノートとペンを取り出して何かを書き殴っていた。


「ふむふむ、なるほどぉ〜……これはあれで……いや、こっちがこれで……でもやっぱりあれがそれで……」


 そのヒトは何かぶつぶつと呟き、集中していた。

 だからなのか、そのヒトのただならぬ雰囲気を感じてその壁画の周りにはそのヒト以外誰もいなかった。


 あたし達はその壁画に近付き、観察する。

 近くに来た事で、よく分かる部分もあった。

 その最たるモノは……。


「……生き物の近くに、小さいナニカがある?」

「マシロもそう見える?」

「うん」


 マシロの言う通り、生き物っぽいナニカの近くに、二つの小さなナニカが描かれていた。

 見た感じ、小さなナニカは大きなナニカの仲間っぽい。


 すると、あたし達の声が聞こえていたのか、エルフのヒトがこっちを向いてくる。


「分かりますか、この壁画の意味が!?」

「えっ?」

「へっ?」


 マシロと共に驚いていると、エルフのヒトがあたし達にずいっと近付いてくる。

 近くで見て気付いたけど、そのヒトは女性のようだった。


「いやぁ〜、お目が高い! あの小さな二つの絵は、研究の結果から『対の魔王』とする説が最有力となっているんです! 今現在でも『対の魔王』の行動原理は不明ですが、彼等が何らかの儀式を行っていた事も明らかになっているんです! 後はこの壁画に描かれている生物の正体を解き明かすのと、『対の魔王』の行動原理、それと古代語で記されたこの文章を解読出来れば、この壁画の謎は全て解く事が出来るんです!!」


 そのヒトの言葉に呆気に取られていると、そのヒトはやってしまったみたいな表情を浮かべる。


「あはは……すみません。ボクってどうしても、研究の事となると周りが見えなくなる性質タチでして……申し遅れました。ボクはセラフィ。帝立魔法研究所の研究員で、古代の歴史を研究しています」


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