第39話 一夜明けて


 翌朝。

 いつもよりも爽やかに、目が覚める。

 原因は自分でももう分かってる。

 ハルと、とうとう恋人同士になれたからだった。


 あたし達が元の世界に帰るまでという期限付きとはいえ、恋人同士になれたのは純粋に嬉しかった。


 自分でも浮き足立っている事を自覚しながら服を着替え、一階に降りる。

 すると階段を降りた先で、ばったりとハルと出くわした。


「あ……お、おはよう、クロナ」

「え、ええ……おはよう、ハル」

「……」

「……」


 朝の挨拶を交わすけど、それきりあたし達は黙り込んでしまった。


 今までは普通にハルの顔は見れたのに、恋人になったと自覚してから嬉しいやら気恥ずかしいやらの感情で直視する事が出来なかった。

 チラリとハルの表情を窺うと、ハルもあたしと似たような反応だった。


 すると……。


「あら〜、見てくださいよ、リリアさん。朝からアツアツのカップルですわよ」

「そうですね、マシロさん。とても初々しいですわね〜」


 リビングに繋がるドアの陰から、マシロとリリアがニヤニヤとした笑みを浮かべながら顔を覗かせていた。


 二人にはまだあたし達が付き合い始めた事は言ってないんだけど……雰囲気でバレたのかしら?


「……二人共。何故私達が付き合い始めた事を知ってるんだ? まだ二人には言ってないハズだが?」


 ハルがそう指摘すると、二人は見るからに動揺した様子を見せる。……まさか。


「えっ? そりゃあ……そんな甘々な雰囲気を醸し出されてたら、いくら鈍感なヒトでも流石に気付くよ。ねえ、リリアちゃん?」

「そ……そうですね。決して二人の様子を盗み見見ていたとか、会話を盗み聞きしてたなんて、そんなはしたない真似はしておりませんわよ?」

「そうだよ。ラインハルトさんがクロナちゃんを抱き締めてたのも、手を繋いで別荘に戻ってきたのも見てないよ?」


 それを聞いて、あたしは両手で顔を覆いながらその場に蹲った。

 昨夜のハルとのやり取りを、二人にバッチリ出歯亀されていたらしい。

 恥ずかしくて死にそうになる。


「……恥ずか死ぬ……」

「二人共……」

「あっ……えっと……朝ご飯はもう出来てるので、どうぞごゆっくり? わたしはちょっと食欲が……」

「わたしも持病の仮病が酷くなり……」


 そそくさとあたし達の横を通り過ぎようとした二人の足を、あたしはガシッと掴む。

 二人は前につんのめるけど、倒れるような事はなかった。

 そして恐る恐ると言った風に、あたしの方を見てくる。


「……二人共。見てたのね?」

「えっと………………はい」

「それはもうバッチリと」

「何か言う事は?」

「言う事? あ……おめでとう?」

「おめでとうございます、クロナさん……いえ、義姉様あねさま

「ありがとう……って、そうじゃなくて!」

「分かってるよ。ごめんなさい。反省はしてるけど、後悔は全く無いよ」

「ごめんなさい。わたしも後悔はしておりませんわよ。海よりも深く反省はしておりますけど」


 二人共謝罪の言葉を口にするけど、反省の色は全く見えなかった。

 本当に反省してるのか怪しい。


 でも、過ぎた事だしこれ以上追及する気もなかった。

 二人の足から手を離し、立ち上がる。


「ハァ……過ぎた事だしもういいわよ。許してあげる。ハルは?」

「見られた事は不覚でしかないが……私も許そう」

「よかった〜。それじゃあ朝ご飯を食べようか」

「そうですね」


 二人共ケロリと気持ちを切り替えると、リビングの方へと戻って行った。


「食欲が無かったんじゃないの……」

「そもそも仮病は持病になるのか?」

「……ふふっ」

「ふっ……」


 ハルと視線を交わし、微笑み合う。

 それからあたし達も、リビングへと向かった―――。




 ◇◇◇◇◇




「海上神殿?」


 朝ご飯を食べている最中、この辺りに何か観光名所がないかなんとなく尋ねた所、ローエングリン兄妹から同じ答えが返ってきた。


「海上? 海底神殿じゃなくて?」


 わたしと同じ疑問を抱いたのか、クロナちゃんも聞き返していた。


「ああ。本当に、ポツンと海の上に建っている太古の神殿だ。学者達が言うには、何らかの神を祀っている神殿らしい」

「何の神様か分かってないの?」

「ああ。それも含めて、研究対象にはなっているな」

「ふ〜ん……」

「まあ……一般公開されているエリアだけでも十分に広いから、見て回るだけでも一日は潰せる」

「へぇ〜……」

「だからどうだろう? クロナ、私と一緒に見て回らないか?」

「えっ……うん。いいけど……」


 クロナちゃんはチラリと、わたし達の方を見てくる。

 わたしはニヤニヤしているのを自覚しながら、クロナちゃん達をからかうように言う。


「どうぞどうぞ。初々しいお二人でデートでも行ってくればいいよ」

「ええ。わたし達の事は気にせずに。こちらはこちらで楽しみますから。具体的には、お二人のデートの様子を遠巻きに眺めたりですね」

「……みんなで行こう」


 ヘタレなのか妥協したのか分からないけど、ラインハルトさんのその提案で四人全員で海上神殿に行く事になった―――。


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