第38話 告白 後編


 ハルと肩が触れるか触れないかくらいの距離感でお互いに無言のまま歩いていると、ある場所で彼は足を止めた。


 あたしも足を止めると、彼はあたしに真剣な眼差しを向けてくる。


「クロナ」

「はい……」


 ただ名前を呼ばれただけなのに、ドキリと心臓が跳ねる。

 これからの展開を想像していると、彼は続ける。


「クロナ。私はキミの事が……好きだ。愛している。出来る事なら、ずっと私の傍にいてほしい。だから……」


 ハルの告白は正直に言ってとても嬉しい。


 とても嬉しいけど―――。


「……ごめんなさい」


 ハルを傷付けるだけと分かっていても、そう答えるしかなかった―――。




 ◇◇◇◇◇




『……ごめんなさい』


 半ば予想はしていたけど、クロナちゃんはやっぱり告白を断っていた。


 わたしにはその理由は分かるけど、わたし達の事情を知らないリリアちゃんはそうではなかった。


「……えっ? クロナさん今、兄様の告白を断りました?」

「……そうだね」

「……お二人は相思相愛だったハズでは?」

「……わたしもそう思ってたし、クロナちゃんがラインハルトさんの事を好きなのは間違いないよ」

「……ならば何故……」

「……」


 詳しい事情を話そうか迷っていると、クロナちゃん達の方に動きがあった―――。




 ◇◇◇◇◇




「……理由を、聞いてもいいか?」


 告白を断ったにも関わらず、ハルは表情をほとんど変えないままそう尋ねてくる。


「それは……あたしとハルの住む世界が違うからよ」

「身分の事を言っているのか? それならば問題無い。平民が貴族に嫁ぐ事は今では珍しくないし、逆に貴族が平民に……」

「そうじゃなくて!」


 少し声を荒げ、ハルの言葉を遮る。

 少しびっくりしているハルから二、三歩距離を取り、無意識に自分の胸元を掴みながら続ける。


 これから言う事は本当に怖い。

 怖すぎて、視線をハルと合わせられない。

 でも……怖いけど、ハルの告白に対してあたしも誠意を見せなきゃと思う。


「本当に住む世界が違うのよ。だってあたしは……あたしとマシロは、この世界とは異なる世界から転移してきてるんだから……」




 ◇◇◇◇◇




 クロナちゃんがとうとう告白した。

 その事自体は別に咎め立てたりはしないし、クロナちゃんが責任を感じる事でもないだろう。


「……へっ? クロナさんはいったい何を仰っているんですか?」

「……リリアちゃん。日本って言う国に、聞き覚えはある?」

「……そんな国、聞いた事もないですよ」

「……だろうね。でもね……その国がわたしとクロナちゃんの生まれ故郷なの」


 そう告げると、リリアちゃんは驚いたような眼差しをわたしに向けてくる。


「……それじゃあ、本当に?」

「……うん。こっちの世界のヒト達から見れば、わたし達は異世界人になるのかな?」


 そう答えつつ、わたしは視線をクロナちゃん達の方へと戻した―――。




 ◇◇◇◇◇




 恐る恐る顔を上げると、ハルは優しい笑みを浮かべていた。


「なんだ、そんな事か」

「そんな事って……」

「一つ確認したいんだが……クロナは私の事をどう思っている? 正直に答えてくれ」

「あたしも……ハルの事は好きよ。でも……」

「ならば問題無い」

「問題無いって、どういう……」


 そう聞き返すと、ハルはあたしとの距離を詰めてくる。

 そして力強くぎゅっと、けれども優しくあたしの身体を抱き締める。


 突然の出来事に戸惑っていると、ハルはあたしの耳元で囁く。


「たとえ泡沫の夢だとしても……クロナが元の世界に戻る間だけでもいい。私の恋人になってくれないか?」

「……喜んで」


 そう答えつつ、あたしもハルの背中に腕を回した―――。




 ◇◇◇◇◇




「……おめでとう、クロナちゃん」


 小さく呟き、想いビトと結ばれたクロナちゃんを祝福する。


「……ようやく兄様にも恋人が出来ましたか。それよりも……先程のお話、詳しくお教えくださいますか?」

「……うん、いい――」

『戻ろうか』

『うん……』


 ――よ、と言い切る前に、集音魔法で拾った二人の声が聞こえた。

 それを聞いて、わたしとリリアちゃんは慌てて別荘へと戻って行った―――。


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