第35話 覚醒 後編


「……オーバーロードはキミ達の専売特許じゃない。新しい力を手に入れたからって調子に乗ってると――死ぬよ」


 何処か忠告のようにも聞こえるその台詞の後に、ステラは一瞬でマシロとの距離を詰めてきた。

 そして左右の長剣をおもいっきり振るってきた。


 その寸前、あたしはマシロの前に割り込み、左右の大剣を交差させてステラの斬戟をなんとか防ぐ。


 ギチギチとお互いの剣で鍔迫り合いをしている中、あたしは両腰のビーム砲を展開する。


 そして至近距離からビームを放つ――けど、ステラは剣を支点にして逆立ちのような格好でビームを回避していた。


「クロナちゃん、しゃがんで!」


 後ろからマシロの指示が飛び、それに素直に従って頭を下げる。

 その一瞬後、あたしの頭上を極太のビームが通り過ぎた。


 剣の支えを失ったステラはそのままビームの餌食になる……と思いきや、とんでもない反応速度でマシロの攻撃を危なげなく回避していた。


 マシロはあたしの横に並び、借りていた大剣を手渡しで返す。

 あたし達とある程度距離を取りながら、浮遊しつつステラは口を開く。


「……オーバーロードを習得したと言っても、やっぱり荒削り感が否めない、か……まあ、仕方ないっちゃ仕方ないけど」

「随分と上から目線ね?」

「まあね。魔装の使用歴で言えば、キミ達よりずっと長いからね」


 あたしの挑発紛いの台詞にも、ステラは飄々と答える。


 この力がオーバーロードと言う名称である事が分かったのは収穫と言えば収穫だけど……同い年くらいにしか見えないステラが、あたし達よりも魔装の使用期間が長い事が少し気になった。


 そんなステラは、まじまじとあたし達の魔装を観察していた。


「翼、キャノン砲、ビーム砲、クロー、大剣に鎧か……六つ、いや……大剣と鎧はセットだから、五つか。この短期間でもう半分も回収したと非難するべきか、まだ半分しか回収してない事を称賛するべきか……」

「……非難と称賛する所は逆じゃないの?」


 ステラの台詞に、マシロが冷静にツッコミを入れる。

 それはあたしも思っていた。


 だけどステラは、首を左右に振る。


「いいや、合ってるよ。もっとも……キミ達にこの意味が分かるとは微塵も思ってないけどね」

「あたし達を馬鹿にしてるの?」

「いいや、その逆だよ。キミ達の実力自体は高く評価している。だから……」


 ステラはそこで言葉を区切ると、左右の長剣を背中にマウントする。

 そして両手を広げ、あたしとマシロに告げる。


「……ぼくの仲間にならないか? この世界の脅威に立ち向かうために」


 予想だにしていなかった言葉が、ステラの口から発せられた。

 マシロの方を見ると、鳩が豆鉄砲を喰らったようにポカンとしていた。

 あたしもあたしで思考が停止していると、ステラはあたし達に構う事なく続ける。


「もう一度、分かりやすく言おう。ぼく達『黄金の夜明け』団の仲間にならないか? 『対の魔王』の覚醒をトリガーに引き起こされる、世界の脅威に立ち向かうために」

「な……んで、あたし達なの……?」


 まだ混乱してるけど、あたしはなんとかそう聞き返す。


 ステラは、バイザーをしてるから本当は分からないけど、嫌な顔をする事なく答えてくれた。


「与えられた力、借り物の力とは言え、そこまで魔装を使いこなす人物を、ぼく以外に二人しかいないからさ。だから敵対なんかするよりは、仲間にしたいと思ったのさ」

「それは……」

「それは、わたし達が敵に回ったら厄介だからって事?」


 思考力が回復したらしいマシロが、ステラにそう聞き返す。

 ステラはわざとらしく肩を竦めると――姿が消えた。


 瞬きした瞬間にはステラの姿は消えており、音も気配も無くあたしとマシロの間に移動していた。


 そしてポンと肩を軽く叩かれただけなのに、あたしの全身を悪寒が駆け巡った。

 見ると、マシロもこれまで見た事がないくらいに怯えた表情を浮かべている。


「……ぼくが本気だったら、今この一瞬で二人の首は斬られていたよ。ぶっちゃけ、二人を同時に相手するのは朝飯前だし、全く脅威にも感じていない。それでも、今この場で二人を殺さなかった事実が、ぼくの本心を如実に表してるんじゃないかな?」


 爽やかな声音で言われているにも関わらず、あたしには死神による死刑宣告でも聞いているように感じられた。


 ステラはあたし達の肩から手を離し、距離を取る。


「怖がらせちゃったみたいだね。でもさっき行った事は本当にぼくの本心だ。キミ達と敵対する未来がやって来ない事を祈るよ」


 そう言い残すと、ステラはものすごい勢いであたし達の前から飛び去って行った。

 嵐みたいな脅威が立ち去った後、あたしとマシロは変身を解除し、全身の力が抜け地面にへたり込んだ―――。


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