第34話 覚醒 前編


 身体の奥底から、力がみなぎってくる。

 それを押し留めることなく、そのまま力を解放する。

 そしてわたしとクロナちゃんの身に、同時に変化が起きた。


 翼は細かく分解され、その隙間から余剰魔力が漏れ出して光の翼を形作っていた。

 そしてわたしの身体には蒼い、クロナちゃんの身体には紅いオーラみたいなモノが纏わりついていた。


「なん、だ……!? その力は!?」


 驚きを露にしている男の子を無視して、わたしとクロナちゃんは同時に男の子へと接近する。

 そして左右から、大剣を振り下ろす。


 男の子はそれを寸での所で回避し、右手をわたしの方に向けてくる。

 手の平からビームを放つつもりなのだろう。

 その前に攻撃を仕掛ける。


 わたしは大剣から手を離し、ガントレットからツメを展開する。

 そして翼を羽ばたかせて男の子に一瞬で接近して、そのツメを手の平の水晶体に突き立てる。


 魔力の籠っていた水晶体はその一撃で爆発し、わたしも男の子も同時に吹き飛ばされる。


「後は任せなさい!」


 わたしの大剣をちゃっかり回収し、二刀流となったクロナちゃんはそう言うと、翼を羽ばたかせて男の子へと接近する。

 そして男の子に、次々と斬戟を浴びせていく。


「ぐっ……火事場の馬鹿力ってヤツか!?」


 男の子はそう毒づきつつ、バックラー一個だけでクロナちゃんの斬戟を防いでいた。

 さっきの爆発で右手はボロボロになり、手首から先は素肌を露出していた。

 だけど不思議な事に、怪我を負った様子はなかった。


 そんな事より……男の子が防御に徹してる今がチャンスだった。

 キャノン砲とビーム砲を同時に展開して、男の子に狙いを定める。

 そして四つの銃口から、男の子目掛けてビームを放つ。


 男の子はバックラーを左右に展開してマジックアブソーバーを発動させようとしていたけど、その開いた隙をついてアブソーバー発生装置にクロナちゃんがガントレットから伸ばしたツメを突き立てる。


 それからクロナちゃんは素早く男の子の傍から離脱する。


「これで終わりよ!」


 そしてクロナちゃんも、キャノン砲とビーム砲を同時に展開してビームを放つ。

 そしてわたしのビームとクロナちゃんのビームが、男の子に命中する。

 気のせいか、今キィィィンっていう甲高い音が聞こえたような……。


 ビームは地面を抉り、もうもうとした土煙を巻き上げる。

 そして煙が晴れた後、そこには男の子の姿はなかった。


 跡形も無く消し飛ばした……と思っていた次の瞬間――。


「助かりました」

「いいや。当然の事をしたまでだよ」


 頭上から男の子の声と、何処かで聞いたことのある声が聞こえてきた。

 そちらに目を向けると、男の子が闇色の鎧を身に纏いバイザーを着けた金髪の女の子に抱き抱えられていた。


 あの女の子は……。


「アンタは……ステラ!」

「久しぶりだね、今代の魔装少女達。本当はキミ達と戦う予定は無かったけど……そこまで進んでしまったのなら仕方ない。ぼくが相手をしよう。……キミは一足先に戻っててくれ」

「『エルフの里』はどうするんですか?」

「今は放っておこう。攻め滅ぼすのは今じゃない。奴等が目覚めてからじゃないと効果は薄い」

「……分かりました。貴女がそう言うのなら」


 男の子は女の子―ステラちゃんの指示に素直に従うと、彼女から離れる。

 そして片方しかない翼で器用に浮遊し、立ち去る直前にわたし達の方に目を向ける。


「一応名乗っておこう。僕はアレイスター。アレイスター・クロウリー。『黄金の夜明け』団に所属し、『エルフの里』攻略実行部隊『銀の星』を指揮する者だ」


 男の子―アレイスター君はそう言い残すと、わたし達の前から飛び去って行った。


「さて……アレイスターくんが安全圏まで離脱するまでの間、ぼくが相手してあげるよ」


 ステラちゃんはそう言うと、背中にマウントしていた二本の長剣を構える。

 そんな彼女に、クロナちゃんが挑発紛いに声を掛ける。


「今のあたし達にたった一人で相手出来るとでも?」

「キミこそ勘違いしてないかい? キミ達はぼくなんかよりもずっと――弱い。その証拠を見せてあげよう」


 ステラちゃんはそう言うと、なんと――わたし達と同じように、黄金のオーラをその身に纏った。

 クロナちゃんと揃って驚いていると、ステラちゃんは静かに口を開く。


「……オーバーロードはキミ達の専売特許じゃない。新しい力を手に入れたからって調子に乗ってると――死ぬよ」


 何処か忠告のようにも聞こえるその台詞の後に、ステラちゃんは一瞬で距離を詰めてきた。

 そして左右の長剣をおもいっきり振るってきた―――。


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